どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その68 何気ないトークタイム

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    麦茶の美味しい時期となりました。皆さま、どうお過ごしでしょうか?
    六月になり、梅雨入りした区間も多いかと思われます。折りたたみ傘は必ず携帯し、いつ雨が降ってもいいように備えておくべきかと思われます。

「それじゃ、練習再開するよー。はい鍵くん、ソファの上で麦茶飲みながらほっこりしてないで、次の二回戦まで時間そんなに残ってないんだから」
「あ、はーい」

    そうだった。僕らは「どん・だー」の予選に出場しており、次の二回戦へと駒を進めていたのだった。
    麦茶の美味しい時期になってしまって、すっかり事の本題を忘れていた。

「……さっきからなんですか、先輩。その麦茶が美味しい時期って」
「麦茶はいつでも美味しいんだよ」

    うんうん、と頷きながら僕は麦茶の入ったペットボトルのフタを閉める。
   「どん・だー」の予選一回戦をなんとか突破できた僕らの次に待つのは、二回戦目だった。

「そうだぞ。次の二回戦目はこの地区ではかなりの実力を持つ『萩の森高校』だからな」
「なんか聞いたことあります。去年は確か、地区予選を二位で突破したっていう学校なんですよね?」
「流石ちぃだな、そうだ。萩の森高校はこの辺ではかなりの知名度を持ち、去年は二位、一昨年は一位で予選を突破しているんだ」

    と、べらべらと路世先輩が説明する。
    僕はその高校は聞いたことはないが、先輩の話からすると、相当の実力を持った学校だと理解出来た。

「まさか二回戦目でそんなところと当たるとは……。私も予想外だったよ……」
「そうだな。それもこれも望子のせいだからな」
「うう……あれはくじ運が悪かっただけだよー……」

    皮肉そうに文句を言う路世先輩に対し、望子先輩は半泣きだった。
    そう。この予選はくじ引きでどこと当たるか決められており、望子先輩はそのくじ引きで萩の森高校の隣の隣を引いてしまっていた。
    そのため、望子先輩と路世先輩はくじの結果でぶつくさ文句を言っていた。先輩たちがそのくらいになるほどの実力を持つ高校だと言うことだ。

「でも、勝たなきゃ意味ないですよね?」
「そうだな。ここで勝っておかないと、予選突破はまず有り得んな」

    素朴な疑問を路世先輩に投げつけたが、路世先輩はさも当然のようにそう答えた。
    そりゃ予選を二位で突破するほどだ。勝てなきゃ予選突破なんて夢のまた夢だ。
    だからこそ、今回の戦いが一番重要な戦いになり、これに勝てればかなりの自信となるだろう。

「さて、いい加減に練習を再開するぞ。そのまま話してたら、時間が無駄に過ぎるだけだからな」
「……それ、一ヶ月前の自分に言えますか、路世先輩?」

    路世先輩はそれ以来黙ってる一方だった。
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