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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その67 存在しえない後日談
しおりを挟むキーンコーンカーンコーン……。放課後を告げるチャイムが学校中に鳴り響いた。
僕はさっきまで重たかったまぶたを擦る。……どうやら終礼中にまで居眠りをしていたようだ。
「うわ、もうこんな時間か」
教室の時計の針はもう五時を指していた。このままぼーっとしていたら望子先輩たちに怒られてしまう……って。
「……別に怒ったりしないか」
そう。先輩たちがこれまで僕に怒ったことはないし、彼女たちが誰かを叱るような感じはしなかった。
……もしかしたら単に僕が、彼女たちが誰かを叱った場面を見たことがないだけかもしれないが。
まぁそれでも、部活には遅刻しないようにしないと。僕は机の上に散乱しているプリント類を通学バッグに仕舞うと、そのまま教室を後にした。
教室を飛び出し、そのまま別棟へ続く廊下を駆けていく。向かうのはいつものあの部室。教室と部室が存在する場所は別々で、西棟と東棟で分かれているのだ。
そのためか、部室へ向かう時は決まってこの廊下を渡らなくてはならない。……別にルートはあるのだが、教室から部室へ直接向かうにはこのルートが一番早く到着するので、僕はこの廊下を渡って行く。
やがて特別教室を下の階層に備えた東棟の文化部の部室棟へと到着する。運動部の部室棟は外なのに、文化部だけが学校にあるなんてなんだかおかしな話だ。
文化部の部室の扉の前を通りながら「太鼓部」の部室へと向かう。……きっともうみんな来ているハズだ。今頃昨日の話で盛り上がっているかもしれない。
昨日の試合の結果だが、一戦目の先鋒のちぃがいい感じに相手との点差を広げてくれ、いいスタートダッシュを切れた。
しかし、次の次鋒戦。僕が少しだけやらかしてしまい、点差を埋められてしまったのだ。これだけは僕の失態であり、反省点だ。
それでも諦めずに中堅、大将戦と先輩たちが奮闘し、少しの差ではあったが見事、一回戦を突破できたのだった。
結果発表の時から帰りの電車まで、僕らはその話題で持ちきりになり、喜びを抑えきることはできなかった。
そんなことを考えながら部室の前まで来ると、部室からなにやら楽しそうな声が漏れ出していた。
……きっと昨日の試合の話だろう。昨日もそれで持ちきりだったのに、次の日までその話題でこんなにも盛り上がれるだなんて……。
「やれやれ……」
ふっ、と肩をすくめながら僕は部室の扉を開ける。入って間もない時はまだ、こんな感情は芽生えていなかったけれど……今ならば。
「ちょっとー。外にまで声が漏れてますよー」
今なら少しだけ、ほんの少しだけだが……この部活に入って良かったな、と思える僕なのであった。
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