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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その64 欠伸
しおりを挟む「ふわぁ~……」
いつもの部活の時間。ふと、休憩に入るとうっかり欠伸が出てしまった。
迂闊だった。休憩になった途端気を緩めてしまい、伸びとともに自然と出てしまっていた。
「……あ、すみません」
なんだか恥ずかしくなってしまい、その場で先輩たちに謝罪する。
別に退屈だったからではない。単に日に日に疲れが蓄積されており、それが今欠伸となって出てしまったのだろう。
しかし、望子先輩は路世先輩と顔を一瞬だけ合わせ、
「ううん、確かに最近練習ばっかりだったからね。そりゃ欠伸の一つくらい出るよ」
と、軽く流してくれた。なんだが申し訳ない気持ちで僕は胸がいっぱいだった。
「まぁ、入ってまだ少ししか経ってないからな。そりゃ疲れだって溜まる一方さ。欠伸だって生理現象だし、気にするな、ケン後輩」
「はい……」
ぽんぽん、と僕の肩を叩きながら、路世先輩は「仕方ないな」と言わんばかりの表情を見せた。
確かに欠伸は生理現象だが、これくらいガマンできることだし、相手によっては悪いイメージを生むことだってある。
だからこそ僕は、あまり人前で欠伸を見せるのは下品なことだと思っていた。
「あ、そういえば」
と、ふと思い出したかのように望子先輩が声をあげる。
「欠伸って他の人に移るって聞いたような……」
「ふわぁ~……」
「…………」
「…………」
なんということだろう。僕の欠伸は先輩たちではなく、ちぃに移ってしまったのだ。当の本人は欠伸をつい漏らしてしまい、顔を真っ赤にしていた。
「……聞きました?」
「うん」「うん」「あぁ」
全員とも、ちぃの可愛らしい欠伸を聞いていたようだ。ちぃは慌てて両手を前に出し、ぶんぶんと振っていた。めちゃくちゃ恥ずかしかったみたいだ。
「い、今のなし! 今のなしで! 忘れてください!」
「そんなムチャな……」
「そうだよ! ちぃちゃんの可愛くて珍しい欠伸だなんて、生涯どんなことがあっても忘れるわけないじゃん!」
と、ちぃに迫りながら望子先輩は瞳を輝かせながら早口でそう告げた。……なんなんだ、この先輩は。
「最近、望子のヤツ。ちぃにムダに執着してるんだ。早く引っぺがさないと、かなり面倒なことになるぞ」
やっぱりこの先輩は謎すぎるな、と思いながら僕は、望子先輩をちぃから引っぺがすことにした。
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