どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
64 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その64 欠伸

しおりを挟む

「ふわぁ~……」

 いつもの部活の時間。ふと、休憩に入るとうっかり欠伸が出てしまった。
 迂闊だった。休憩になった途端気を緩めてしまい、伸びとともに自然と出てしまっていた。

「……あ、すみません」

 なんだか恥ずかしくなってしまい、その場で先輩たちに謝罪する。
 別に退屈だったからではない。単に日に日に疲れが蓄積されており、それが今欠伸となって出てしまったのだろう。
 しかし、望子先輩は路世先輩と顔を一瞬だけ合わせ、

「ううん、確かに最近練習ばっかりだったからね。そりゃ欠伸の一つくらい出るよ」

 と、軽く流してくれた。なんだが申し訳ない気持ちで僕は胸がいっぱいだった。

「まぁ、入ってまだ少ししか経ってないからな。そりゃ疲れだって溜まる一方さ。欠伸だって生理現象だし、気にするな、ケン後輩」
「はい……」

 ぽんぽん、と僕の肩を叩きながら、路世先輩は「仕方ないな」と言わんばかりの表情を見せた。
 確かに欠伸は生理現象だが、これくらいガマンできることだし、相手によっては悪いイメージを生むことだってある。
 だからこそ僕は、あまり人前で欠伸を見せるのは下品なことだと思っていた。

「あ、そういえば」

 と、ふと思い出したかのように望子先輩が声をあげる。

「欠伸って他の人に移るって聞いたような……」
「ふわぁ~……」
「…………」
「…………」

 なんということだろう。僕の欠伸は先輩たちではなく、ちぃに移ってしまったのだ。当の本人は欠伸をつい漏らしてしまい、顔を真っ赤にしていた。

「……聞きました?」
「うん」「うん」「あぁ」

 全員とも、ちぃの可愛らしい欠伸を聞いていたようだ。ちぃは慌てて両手を前に出し、ぶんぶんと振っていた。めちゃくちゃ恥ずかしかったみたいだ。

「い、今のなし! 今のなしで! 忘れてください!」
「そんなムチャな……」
「そうだよ! ちぃちゃんの可愛くて珍しい欠伸だなんて、生涯どんなことがあっても忘れるわけないじゃん!」

 と、ちぃに迫りながら望子先輩は瞳を輝かせながら早口でそう告げた。……なんなんだ、この先輩は。

「最近、望子のヤツ。ちぃにムダに執着してるんだ。早く引っぺがさないと、かなり面倒なことになるぞ」

 やっぱりこの先輩は謎すぎるな、と思いながら僕は、望子先輩をちぃから引っぺがすことにした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

へたくそ

MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。 チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。 後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。 3人の視点から物語は進行していきます。 チームメイトたちとの友情と衝突。 それぞれの想い。 主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。 この作品は https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています) 小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS にも掲載しています。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

イケメンプロレスの聖者たち

ちひろ
青春
 甲子園を夢に見ていた高校生活から、一転、学生プロレスの道へ。トップ・オブ・学生プロレスをめざし、青春ロードをひた走るイケメンプロレスの闘い最前線に迫る。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!

コウ
青春
またダメ金か、、。 中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。 もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。 [絶対に入らない]そう心に誓ったのに そんな時、屋上から音が聞こえてくる。 吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...