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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その63 練習の間のひと時
しおりを挟む前回のあらすじ。望子先輩が「どん・だー」の予選の日時を忘れていました。
そのため、まったく練習しておらず、僕らは今日から練習を開始することとなった。
……まぁ、体育大会のせいで忘れてたのは仕方ないが、せめてもう少し早く気づけばよかったな、と少しばかり後悔していた。
先月もこんな感じで大急ぎで練習してたような……。
「鍵くん、この前よりも少し腕が落ちてるんじゃない?」
「そうですか……?」
「そうだな。前よりもミスが増えている気がするな。もっと曲調に合わせながら太鼓を叩いてみろ」
「分かりました……」
やはり、「どん・だー」の予選だということだからか、いつもより先輩たちも指導が厳しいような感じがした。
そりゃそうか。先輩たちからしたら、これが最後の「どん・だー」なのだから。
僕が足を引っ張ってしまえば、先輩たちの夢は叶わない。だからこそ、自分たちが教えられることをすべて僕に教えようとしているのだろう。
ならば僕だって、先輩たちの想いに答えなくては……。
数回太鼓を叩き、僕は徐々に今回の課題曲の譜面に慣れていく。
「どん・だー」の予選には、それぞれ課題曲が使用され、それを試合当日に叩いてそのスコアで勝敗を決めるというルールとのことだ。
課題曲はあらかじめどの曲が使われているのかを参加チームは知ることができ、僕らはその曲の練習ができるという訳だ。
そりゃ、知らない曲をいきなり当日に叩くなんて、そんな無謀なことはさせない。当日までにしっかり曲に慣れ、自分たちの実力をしっかり発揮できるように今のうちに練習しておかないと。
「それじゃ、一旦休憩しよっか」
三十分程度の練習を済ませ、休憩となった。やはり、連続して同じ譜面を叩いていくのはかなり退屈だ。
僕は一息つきながら、窓の外へと目を向けた。やっぱり、目を休ませるには自然を見るのが一番だ。
ぼーっと景色を眺めながら、僕は用意していたペットボトル飲料に口をつける。
……なんだか、まだまだ僕らが「どん・だー」の予選に参加しているという自覚がなかった。
初めて参加するとはいえ、こうも自覚がないとなんだか足を引っ張ってしまうようで不安になっていた。
「鍵くん」
と、そこへ望子先輩が声をかけてくる。
「どうしたんですか、先輩?」
「ううん。今の練習、ちょっと辛くないかなって」
「大丈夫ですよ。このくらい、なんてことないです」
「そう? でもムリしちゃダメだからね? 辛かったらちゃんと言ってくれないと、私もそこまで目を向けれないかもしれないから」
「はい、大丈夫です」
と、心配そうに僕に声をかけてきた先輩は、僕の隣に窓へ身を任せるかのようにもたれかかる。
「でも、ほんとに不思議だよね」
「なにがです?」
「だって、私たちの中の誰も応募してないのに勝手に「どん・だー」の予選に参加してるだなんて……」
確かにそれは不思議でならない。この中の太鼓部員が応募していないのに、どうして僕らが「どん・だー」の予選に参加チームとして存在しているのか。
一体誰が、何の目的があって僕らを「どん・だー」に参加させたのか。真相はまだまだ分からずじまいってとこだった。
「よし、じゃ練習再開しよっか!」
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