どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その59 体育大会②

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自分の自由種目の練習も終わり、次はちぃの自由種目の練習となった。
スタンドで深いため息を吐きながら僕は、路世先輩から受け取ったジュースを飲む。
カラッカラに渇いた喉に、ジュースの糖分が舞い込み、スカッと清涼感あってたまらなかった。

「ふぅ……」

流れてくる汗を拭いながら、僕は練習をスタンドの上で眺める。
ちぃの出る競技は『障害物競走』だ。ちぃ曰く、「誰もいなかったから、自分から進んでやろうとした」とのことだ。
ちぃは元々引っ込み思案な性格のため、自分から進んでなにかに取り組もうとはしなかった。
が、今回は珍しくちぃが率先してやろうとしているのだ。

「ちぃも変わったな……」

まるでちぃの親にでもなったかのようにそう呟く。
まぁちぃの成長を、ちぃの親族以外で見てきたのは僕だし……。
昔なんて、よく僕の後ろに隠れたりしてたっけ? それが今では自分から他の生徒に話しかけたり……。

「やっぱすごいよ、ちぃは……」

そう思いながら、僕はジュースを一口。
と、そこへ誰かが僕の隣に座った。

「やっほ、鍵くん!」
「望子先輩。パン食い競走の結果はどうだったんですか?」
「んー。私たちの組の圧勝かと思ってたら、アンカーにすっごい足の速い人がいてさー……ははは。でも、本番では絶対に負けないから安心して!」

望子先輩の「安心して!」ほど安心できない言葉はないんだよなぁ……。
そう思いつつ、僕は障害物競走に目を向ける。
すでに一年の女子が走っており、その中の中間辺りをちぃは走っていた。

「おっ、ちぃちゃんちゃんとついていけてるじゃん!」
「そりゃそうですよ。ちぃは足は速い方ですよ」

それでも、トップを走る同級生には追いつけない。
トップとの距離は遠くなるばかりだった。
これはもう、ちぃがトップを走るのはムリかと思ったその時だった。
トップを走っていた子が、障害物に引っかかりモタモタしていたのだ。
これは、チャンスだ!

「いけー! ちぃーーーー!!」

僕の声とともに、ちぃは顔を引き締め、ぐんとスピードを上げていく。
次々に走る同級生を抜いていき、そして……。

「や、」
「やったよ! ちぃちゃん、トップだよー!!」

もたついていたトップを抜き、ちぃが一番となっていた。
僕らは喜びを抑えきれず、感情のままハイハッチしてしまっていた。

「やっぱりちぃちゃんはやる時はやるんだね!」
「そりゃそうですよ! ちぃはしっかりしてますから!」

その後、ちぃが持ち帰ったトップの座が変わることはなく、練習ではちぃの組がトップとなったのだった。
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