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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その58 体育大会①
しおりを挟む厳しい猛暑の中、スタンドの上に座ったまま汗を拭いながら僕は強い日差しに目を向けた。
太陽は僕の頭上にあがっており、かんかんと照っていた。
……そのまま何もせずに数十分立っていたら僕は、脱水症状で倒れてしまうだろうと思わんばかりの日差しの強さ。
そう。今は体育大会の練習中だった。僕らの学校の体育大会は五月に開催され、今はその練習の真っ最中だった。
「よっ! お疲れ、ケン後輩!」
一瞬ヒヤッ、と僕の頬に何かが当たる。
それを受け取り、僕はくるりと振り返る。
「路世先輩、お疲れ様です。今日も暑いですね」
「あぁ、まったくだ。こりゃ、あと何年もすれば外に出られるかどうかも危ういかもな」
けらけらと涼しい笑顔を見せながら、路世先輩は僕の隣に座った。
例え先輩たちとブロックは違えど、練習中などはこうして別のブロックのスタンドに座ることは許されており、路世先輩が僕の隣に座ることは特に問題はなかった。
路世先輩を見ながら、僕はふと、気になったことを聞いてみた。
「路世先輩、汗かかないタイプですか?」
そう。こんな猛暑なのに、路世先輩は汗の一つすらかいている様子は見当たらなかったのだ。
やはり、時々他の部活の助っ人として活躍しているためだろうか。
「いやいや、俺もさっき汗を拭いてきたところなんだ。流石に俺も汗の一つくらいはかくよ」
「そうだったんですね。僕はてっきり、路世先輩は汗をかかないのだと……」
流石に失礼だとは思ったが、路世先輩のことだ。それくらいは有り得ると普通に思ってしまった。
しかし、路世先輩は僕の予想とは違い、汗はかくほうだと言うことだ。そりゃ、路世先輩だって人間だし、汗くらいは普通にかくか……。
「おっ、次は望子の出る競技みたいだな」
「そういえば、望子先輩ってどの自由種目に出るんでしたっけ?」
この学校の体育大会では、全学年や全クラス共通で行う共通種目と、個人個人で出場する種目を選べる自由種目があるのだ。
これから練習するのは、望子先輩の選んだ自由種目ではあるが、僕は望子先輩の自由種目が分からなかったので、路世先輩に聞いてみることにした。
「あれ、言わなかったか? 望子の出る競技は……」
『次は自由種目「パン食い競走」です』
なんとも、望子先輩らしい競技だな、と僕は思うのだった。
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