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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その54 ガチャガチャ
しおりを挟む「あ、こんなとこにガチャガチャがあるー!」
と、帰り道に望子先輩が唐突にそう叫ぶ。
学校を出て、僕らはそのまま自宅へと帰っている最中であった。
いつもならば先輩たちは僕らとは違う方向なのだが、今日に限ってはこっちの方に用事があるらしく、同じ道を歩いていたのだ。
その中で先輩は、ガチャガチャを見つけたのである。
「あー……懐かしいですね。今じゃ興味すらなくてずっと無視してたんですが……」
「ウソー!? 普通なら無視せずにガチャるでしょー?」
「そんな子どもじゃないんですから……」
やはり、もうこの歳になると流石にガチャガチャなんてしないものだ。
だからこそ、こんな道端にあることすら気づかなかったのだから。
「ねぇ、ガチャってみようよ! フルコンプしたいし!」
「いやいや、流石にそんなお金ないですよ……」
ガチャガチャの景品は全七種類とシークレット一種の計八種類あり、流石に今日でフルコンプってのは出来ないだろう。
それにガチャガチャは一回百円から三百円するものもあり、結構なお金を取られるのだ。このガチャガチャは一回二百円であり、フルコンプするには最低でも千六百円必要だった。
「だいじょーぶ。だいじょーぶだから!」
「一体何が大丈夫なんですか……」
先輩の言ってる意味は分からないまま、先輩はガチャガチャに硬貨を投入し、ハンドルを回す。
ガリガリ、と鈍い音とともにカプセルが取り出し口へと転がってくる。
先輩はそれを取り出し、中身を確認する。シークレットではなかったものの、とりあえずはこれで一種類ゲットだ。
続けて先輩は硬貨を投入し、ハンドルを回す。
次は別の種類のキーホルダーだった。二回で二種類出てきたので、出だしは完全に好調だった。
「よし! ね? だからだいじょーぶって言ったでしょ?」
「確かに言いましたけど……」
意味が分からないとは言いきれず、僕はそこで言葉を切った。
大丈夫と先輩は確かに言ったけれども、その大丈夫の意味は未だに分からずじまいだった。
……もしかして、被ることはないという意味の大丈夫なのだろうか?
意味が全くわからないまま、先輩は三回目の硬貨投入。三回目も被ることなく別の種類のものが出てきた。
それから四回、五回、六回と続けるも一度も被ることなく別の種類のキーホルダーを排出さけていた。
……これはもしかしかたら、と僕も期待してしまうほど、今日の先輩の運はとても好調の様子だった。
そして七回目の硬貨投入。まだ出ていないのはシークレットと黒髪のツンツン頭をした、いかにも主人公らしいキャラのキーホルダーだ。
先輩は硬貨を入れ、ハンドルを回す。……これで出れば、後は残り一種類なのだ。
出てきたカプセルの中には……ガチャガチャの小さな紙にも、パッケージにも書かれていないキャラのキーホルダーだった。
「……これ、もしかして……?」
「…………シークレットみたいですね」
そう。七回目にして、先輩はシークレットを当てたのだ。これはもしかしたら……行けるのではないだろうか?
僕らは期待で胸がいっぱいだった。
先輩の最後になる予定の……いや、ここで最後にさせる予定のガチャ。
硬貨を入れ、ハンドルを回す。取り出し口からカプセルが出てくる。
……これがシークレットとでるか、その他とでるか。僕らは恐る恐るそのカプセルを開ける。その中身は…………。
「…………これって?」
「…………被りだね」
最後の最後で被ってしまい、ガチャガチャ全コンプするまで帰れません、終了には至らなかった。
その後、先輩は自分のお小遣い全額を使って、謎の十八戦の末、シークレットを出すのだった。
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