どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
54 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その54 ガチャガチャ

しおりを挟む

「あ、こんなとこにガチャガチャがあるー!」

と、帰り道に望子先輩が唐突にそう叫ぶ。
学校を出て、僕らはそのまま自宅へと帰っている最中であった。
いつもならば先輩たちは僕らとは違う方向なのだが、今日に限ってはこっちの方に用事があるらしく、同じ道を歩いていたのだ。
その中で先輩は、ガチャガチャを見つけたのである。

「あー……懐かしいですね。今じゃ興味すらなくてずっと無視してたんですが……」
「ウソー!? 普通なら無視せずにガチャるでしょー?」
「そんな子どもじゃないんですから……」

やはり、もうこの歳になると流石にガチャガチャなんてしないものだ。
だからこそ、こんな道端にあることすら気づかなかったのだから。

「ねぇ、ガチャってみようよ! フルコンプしたいし!」
「いやいや、流石にそんなお金ないですよ……」

ガチャガチャの景品は全七種類とシークレット一種の計八種類あり、流石に今日でフルコンプってのは出来ないだろう。
それにガチャガチャは一回百円から三百円するものもあり、結構なお金を取られるのだ。このガチャガチャは一回二百円であり、フルコンプするには最低でも千六百円必要だった。

「だいじょーぶ。だいじょーぶだから!」
「一体何が大丈夫なんですか……」

先輩の言ってる意味は分からないまま、先輩はガチャガチャに硬貨を投入し、ハンドルを回す。
ガリガリ、と鈍い音とともにカプセルが取り出し口へと転がってくる。
先輩はそれを取り出し、中身を確認する。シークレットではなかったものの、とりあえずはこれで一種類ゲットだ。
続けて先輩は硬貨を投入し、ハンドルを回す。
次は別の種類のキーホルダーだった。二回で二種類出てきたので、出だしは完全に好調だった。

「よし! ね? だからだいじょーぶって言ったでしょ?」
「確かに言いましたけど……」

意味が分からないとは言いきれず、僕はそこで言葉を切った。
大丈夫と先輩は確かに言ったけれども、その大丈夫の意味は未だに分からずじまいだった。
……もしかして、被ることはないという意味の大丈夫なのだろうか?
意味が全くわからないまま、先輩は三回目の硬貨投入。三回目も被ることなく別の種類のものが出てきた。
それから四回、五回、六回と続けるも一度も被ることなく別の種類のキーホルダーを排出さけていた。
……これはもしかしかたら、と僕も期待してしまうほど、今日の先輩の運はとても好調の様子だった。
そして七回目の硬貨投入。まだ出ていないのはシークレットと黒髪のツンツン頭をした、いかにも主人公らしいキャラのキーホルダーだ。
先輩は硬貨を入れ、ハンドルを回す。……これで出れば、後は残り一種類なのだ。
出てきたカプセルの中には……ガチャガチャの小さな紙にも、パッケージにも書かれていないキャラのキーホルダーだった。

「……これ、もしかして……?」
「…………シークレットみたいですね」

そう。七回目にして、先輩はシークレットを当てたのだ。これはもしかしたら……行けるのではないだろうか?
僕らは期待で胸がいっぱいだった。
先輩の最後になる予定の……いや、ここで最後にさせる予定のガチャ。
硬貨を入れ、ハンドルを回す。取り出し口からカプセルが出てくる。
……これがシークレットとでるか、その他とでるか。僕らは恐る恐るそのカプセルを開ける。その中身は…………。

「…………これって?」
「…………被りだね」

最後の最後で被ってしまい、ガチャガチャ全コンプするまで帰れません、終了には至らなかった。
その後、先輩は自分のお小遣い全額を使って、謎の十八戦の末、シークレットを出すのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

「天気予報は気まぐれガールズ」

トンカツうどん
青春
紹介文:ようこそ、天気が気まぐれな世界へ!この物語の舞台は、普通の日常と非日常が交錯するちょっと不思議な街。そこに住む主人公・白井隼人は、平凡な高校生…だったはず。しかし、ある日突然、彼のクラスにやってきた転校生たちは、なんと天気を擬人化した少女たちだった!台風を擬人化した颶風(サフウ)紗風は、まさに嵐を巻き起こすトラブルメーカー。彼女が現れると、まるで天気が彼女の気分に合わせて荒れ狂うようになる。天真爛漫でいつも元気な陽晴光(ひばり ひかり)は高気圧そのもの。彼女がいると周りが一瞬で明るくなるけれど、ちょっと暑すぎるかも?そして、冷徹で冷静な氷雨冷奈(ひさめ れいな)は寒冷前線の化身。彼女が現れると、瞬く間に周囲の空気が冷え込み、まるで冬が訪れたかのような静寂が広がる。さらに、軽口が得意な偏西風の青年・西風悠(にしかぜ ゆう)も登場し、隼人の平穏な日々は一気にカオスへと変貌する。彼女たちはそれぞれが持つ独特な能力で、隼人の生活に次々と波乱を巻き起こしていく。彼が求めるのは、ただの平凡な日常なのに…!笑いあり、ハラハラドキドキありの気まぐれガールズたちが織りなす異色の天気予報。天気を操る彼女たちとの出会いは、隼人にとって驚きと感動の日々となるのか、それともさらなるトラブルの幕開けなのか?風が吹き、雨が降り、太陽が輝く中で繰り広げられる、ちょっぴり不思議で愉快な学園生活が今、始まる!

桃色DK×4

山本記代 (元:青瀬 理央)
青春
のんびり、時々騒がしい仲良し四人組の男子高校生は、遊びに部活、恋にバイトと大忙し。 大人から見れば正にゆるゆるライフ。 でも、それを送る彼らは必死で真剣。 楽しければそれで良し! 面白ければ尚最高! 足りないものは、笑いとあの子とテストの点数。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

処理中です...