どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
47 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その47 エントリー

しおりを挟む

 その日の放課後。僕たちはとんでもないものを目撃してしまったのだ。

「お、おい! お前たち!」

 くるり、とイスを回転させながら路世先輩は慌てながら僕らに声をかける。
 僕とちぃはいつも通り読書をし、望子先輩は自分の物置となっている部室の押入れの中を整理している真っ最中だった。

「どうしたんですか、路世先輩? そんなに慌てて」

 というか、僕は路世先輩の慌てふためく姿をこの目で初めて見てしまった。
 いつもはクールで冷静な路世先輩だが、こうして慌てている姿は普通なんだなーと僕は思ってしまった。
 ……いや、そりゃ慌てている時にクールな口調で「タイヘンだー」とか言われても、本当に大変なのか疑ってしまうけれども。
 それでも、いつもクールな路世先輩の意外な一面を見れて僕は驚いてしまったのだ。

「これ! これを見てくれ!」

 と、路世先輩はパソコンの画面を指差す。
 僕とちぃは読んでいた本にしおりを挟み、望子先輩は荷物をそのまま放置した状態にして、みんな揃ってパソコンの画面の前へと集まる。
 そこには僕たちのこの前の試合の動画が動画サイトにアップロードされており、更には別のウィンドウには「どん・だー」の予選応募チームの中に僕ら「b’s」の名前までもが記載されていたのだ。

「へー。僕たちのこの前の試合の動画もあがってるし、結局どん・だーには出場するようにしたんですね」

 と、感心しながら僕はそう呟いた。
 きっとこれも望子先輩が単独でやってくれたのだろう。先輩はいつも口に出すより行動するのが先な人だから、今回もつい先にこんなことをしてしまったのだと僕は思った。
 しかし、僕の予想は裏切られ、望子先輩は険しい顔つきでこんなことを口にしたのだ。

「……どうして、私たちがどん・だーに出場するようになってるんだろ?」
「……え? 先輩がやったんじゃないんですか?」

 意外だった。
 この前の結果の嬉しさのあまり、望子先輩が独断で応募したのかと思っていたが……望子先輩ですら、僕らが「どん・だー」の予選に応募していることを知らなかったのだという。

「私はまだ、みんなと話してからにしようと思ってたんだけど……」
「じゃ、一体誰が……?」

 僕はうーん……と唸った。
 心当たりのある人間はすでにこの部室にいるのだが、全員知らないのだ。
 つまり、第三者が僕らを「どん・だー」に出場させようと計画しているということなのだ。
 一体誰が、どんな目的なのか、まったく検討はつかないが、それでも誰かがやっていることには違いなかった。

「それに、この前の練習試合も相手チームもウチも誰もビデオなんて撮ってなかったんだよ? それなのに、どうして動画サイトにこんな動画があがってるんだろ?」

 と、望子先輩は頭を抱えながら、うーん……と唸り始めた。
 つまり、今回の「どん・だー」予選への出場も、練習試合のビデオのアップロードも、すべて望子先輩がやったことではないのだ。
 誰かが試合のビデオを撮り、そして僕らを「どん・だー」へと出場させようと計画を立てているのかもしれない。

「誰がなんの目的かは知らんが……少なくとも、俺たちに危害を加えることはなさそうだな」
「……どうしてそう断言できるんですかね、路世先輩」

 さっきまで驚いていた路世先輩だが、いつの間にかいつものクールな口調に戻っていた。
 しかし、それでも僕にはまったく分からなかった。
 一体誰が、なんのために僕らの試合の動画をアップロードし、更には「どん・だー」予選にまで出場させたのだろうか。
 真相はわからないまま、こうして放課後は過ぎていくのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ネットの彼女がヤンデレで僕のリアルを破壊してくるんですが?!

そるそーそ
青春
ネットとリアルは別だ。ネットの彼女とリアルでの関係は持たない。そのはずだったのだけど・・・

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

愛犬との想い出

ムーワ
青春
筆者が子どもの頃、愛犬と出会い愛犬と過ごした想い出を思い出しながら綴った作品です。 まだ今のようにSNSが盛んな時代ではなかったので写真が数枚残っている程度ですが、表紙はまだ子犬の頃の写真です。 遥か昔のことですが、一番筆者が記憶に残っているのは、愛犬との出会いと別れのシーンです。 人は人生の中で必ず出会いと別れのシーンがあります。学校では入学式と卒業式、親子の間では子どもが誕生した日と死ぬ時です。 人間、出会いと別れのシーンはいつまでたっても心の中で鮮明に記憶しているものです。

桃色DK×4

山本記代 (元:青瀬 理央)
青春
のんびり、時々騒がしい仲良し四人組の男子高校生は、遊びに部活、恋にバイトと大忙し。 大人から見れば正にゆるゆるライフ。 でも、それを送る彼らは必死で真剣。 楽しければそれで良し! 面白ければ尚最高! 足りないものは、笑いとあの子とテストの点数。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...