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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その45 お昼寝
しおりを挟む「じゃ、これからも自由に部活動を楽しんでいきましょー!」
いつもの部活の時間。望子先輩が最初に告げた言葉はそれだった。
なんとか練習試合に勝利し、僕ら太鼓部は廃部になることを免れたのだ。
そのため、今もこうして自由に部活動を行うことが出来るのだ。
僕とちぃは本を読み、路世先輩はパソコンでゲーム。望子先輩は今日はお昼寝をしているようだった。ソファで仰向けになり、ぐっすり眠っていた。
その寝顔はまるで無邪気な子どものようで、望子先輩らしいといえば望子先輩らしかった。
いつまでも子ども心を忘れない先輩だからこそ、そんな寝顔が一番似合うのだろう。
先輩の寝顔を見ているだけでなんだか犯罪の匂いがしそうで、僕はなんだか胸の奥底がドギマギしていた。
例え僕が、この部活で男子として扱われていなくとも一応は男子なんだ。
そりゃ、女子の寝顔を見るだなんてそれはなんだかイケナイことをしているようで、少し緊張してしまう。
「路世せんぱぁ~い……」
路世先輩に助けを求めようとするが、先輩はひらひらといつものように手を振るだけだった。
先輩はいつもこうだ。困ったことがあっても、自分でどうにかしろと言ってくる。
きっと自分が出てしまえば全て解決してしまうと分かりきっているからだろう。
自分はなにもしない。全てはキミの力で解決しろ――――そう言いたいのだろう。
「ちぃ……」
「先輩。『触らぬ神に祟りなし』ですよ」
ちぃは静かに本を読みながら、ページに目を向けたままそう答えた。
きっと気にしてはいけない、と言いたいのだろう。
そりゃ、路世先輩やちぃは望子先輩と同じ性別だから気にもならないだけなのだろう。
しかし僕は、ちぃや先輩とは違う。いい年頃の男の子なのだ。
そりゃ無防備な、それも可愛い先輩の寝顔を見ていたら動揺してしまうだろう。誰だってそーなる、僕だってそーなる。
だからこそ、気にしないようにしていても気にはなるものだ。例えそれが先輩だとしても、だ。
本を読んでいるような素振りを見せながら、ぐっすりと天使の寝顔を見せる望子先輩に目を向ける。
……やっぱり先輩は良い顔立ちをしている。
普段は凛とした表情だが、部活になるとその凛とした表情から一変。無邪気な子どものような表情になる。
そして、こうして眠っている状態では完全に子どもの表情のままだ。
「……どんな夢見てるんでしょう?」
と、先輩の寝顔を見つつ、先輩んが見ている夢が気になってしまった。
先輩の表情が一瞬曇ると、もごもごと口を動かした。
「う~ん……鍵くん、違うよぉ~~……」
一体何が違うのだろうか?
気になった僕は、先輩の寝言に耳を澄ませる。
と、先輩は寝言でありながら、ヘンなことを言い始めたのだ。
「ピロシキって食べ物なんだよぉ~~~……」
「……え?」
にやり、と表情を和らげながら、先輩はそう告げたのだ。
流石の僕も、ピロシキが食べ物くらいは知っている。
……先輩の寝言はとても不可思議で、一体どんな夢を見ているのか、とても気になってしまったのだった。
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