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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その40 こぼれ話①
しおりを挟む太鼓部員たちに事情を説明し終え、紗琉は生徒会室へと戻っていく。
彼らはこの練習試合に部の存続を賭けているとはいえ、それでも希望を捨てずに頑張ろうという気迫だった。
それが何よりも悔しくて、紗琉は下唇を強く噛んだ。
……どうして練習もしてきていないのに、勝とうという自信が生まれるのだろうか?
それが謎すぎて、紗琉は余計腹が立っていた。
「あら、おかえり。紗琉ちゃん」
「……ん」
生徒会室に戻ると、一夜が書類に印を押している最中だった。
この時期、部活動の新入部員のリストをまとめるのが生徒会の仕事だったのだ。
それを一夜に任せ、紗琉はこうして太鼓部に伝達をしてきていたのだ。
「それで、ケンくんたちはどうだったのかしら?」
「……絶望するどころか、逆効果だったみたいね」
ため息混じりに紗琉はそう報告した。それを見据えていたかのように一夜は、静かに微笑んだ。
「まさか、生徒会長である紗琉ちゃんがこんな見え見えのウソを吐くなんてね」
「……別にいいでしょ」
そう。理事長が練習試合を組んだ事以外すべて虚無の話なのだ。練習試合に負ければ廃部だなんて、そんなの紗琉のでっちあげたウソだ。
そもそも、練習試合の申し込みを理事長に頼み込んだのは、他ならぬ紗琉だ。そのため、今回の事件の首謀者は紗琉と言っても過言ではなかった。
「どうしてそこまでして、太鼓部にいじわるするのかしらね……。私はそんな子に育てた覚えはないわよ?」
「べ、別にアンタに育ててもらった覚えはないわよっ!」
ばんっ、と机を叩いて反論する。
いつもの一夜のからかい癖だ。何かと紗琉をからかっては面白がるのが一夜の悪い癖だ。
「……もしかして、昔の事、まだ根に持ってるの?」
「……別に」
一夜のその心配そうな言葉に、紗琉は顔を逸らしながらそうぶっきらぼうに答えた。
……その話はあまりしてほしくはないし、紗琉自身、あの出来事はもう忘れたいほどだった。
何とか過去の話から逸らそうと、紗琉はぱんぱん、と手を叩く。
「さ、仕事に戻りましょ。まだやるべきことは沢山あるわよ」
そうこれ以上、太鼓部の話はしたくない。そう思い、紗琉は生徒会の仕事と向き合うのだった。
まだまだ仕事は多い。なんとかゴールデンウィークまでにはこの山積みの仕事を終わらせたいと思う紗琉なのだった。
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