どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その37 コイントス

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「ケン後輩。一つ、俺とゲームをしないか?」
「ゲームですか?」

 唐突に路世先輩が、僕に提案してくる。僕は読んでいた本にしおいりを挟みながら、路世先輩に向きなおす。

「そうだとも。ルールは簡単だ。俺がコイントスを行うので、ケン後輩は裏か表かを当てるだけだ」

 と、路世先輩は一枚のコインをポケットから取り出す。見た目は至って普通のコインだが、路世先輩のことだ、きっと何かを考えているに違いない。
 それでも別に損はなさそうなので、僕はその勝負に乗ってみようかと思った。

「いいですよ」
「決まりだ。ケン後輩が勝てば、このチョコをあげようじゃないか」
「そのコイン、チョコだったんですか!?」

 路世先輩は、金色の箔に包まれていたチョコを取り出す。僕がコインだと思っていたそれは、コイン型チョコレートだったのだ。
 それを路世先輩が投げ、それを僕が裏か表かを当てればそれを貰える、という単純でシンプルなルールだった。

「分かりました。受けて立ちます」
「よし。じゃあ行くぞ?」

 路世先輩はぶんっ、とそのコイン型チョコを投げる。
 チョコは宙をくるくると回り、重力に従いながら落下していく。
 裏か、それとも表か……。確率は五分五分。それを僕が当てられるかなんて分からない。
 ぐるぐる宙を回りながら、チョコが落ちていく。
 そのまま落ちていきながらチョコレートは……路世先輩の口の中へと吸い込まれていった。

「……え?」

 ……なんだこの茶番。
 まさか、いつものように路世先輩にはめられたのだろうか……?

「…………」
「…………」

 互いに無言になる。
 まさかこんな茶番になるとは思っておらず、僕はなんと言えばいいのか分からない状況だった。

「……すまんすまん。ちゃんとやるから、そうやって黙り込むのはやめてくれ。俺もどう反応していいのか分からなくなってしまう」

 その後ちゃんと路世先輩からチョコレートを貰うのだった。
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