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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その35 暇を持て余した(以下略)
しおりを挟む「ヒマだねー」
短くも綺麗なその茶髪の髪を掻き分けながら、望子先輩はそう呟いた。
いつもの放課後。いつもの部活動中。
僕とちぃはいつも通り、本を読みながら時間を潰し、路世先輩はいつも通りパソコンの前でゲームを嗜んでいた。
きっと今日も「世界王者」という名の誰かと戦って無双記録を刻んでいるのだろう。今日も今日とて太鼓部は自由だった。
そんな中、望子先輩だけがソファの上で退屈そうに天井を見つめていた。
「そうですねー」
ぺら、とページをめくりながら、僕は曖昧な返事を返した。先輩がソファでまだごろごろしてた頃はそんな気はしなかったのだが、天井をじっと見つめていた時から薄々気づいてはいたのだ。
「鍵くん、なんか面白い事言ってよー」
「なんですかその無茶振り……」
先輩の無茶振りはいつもの事だが、それでも僕はその無茶振りに慣れる事はない。その唐突の振りこそが、僕の一番困ることだ。
「いいから。なんか面白い事言ってよー」
「そうですねー……。わーなんかおもしろーい」
「すっごい棒読みだし、面白くないんだけど……」
そう言われても、そんな唐突に面白い事と振られても……なにを言えばいいのか分からない。
特に最近面白い事なんてなかったし、僕がそんなにギャグの言えるような人物ではないので、どうすることもできない状態だった。
「じゃあ、あと十ね」
「なんで急にカウント入れるんですか……」
「きゅーう」
僕の問いに先輩は答えずにカウントを一進めていく。この状態では先輩をどうすることもできない。
「路世せんぱぁ~い」
なんとか助け舟を頼もうと、路世先輩に声をかけるが先輩はひらひら、と手を振った。
「望子の相手はケン後輩にしか出来ない」――――そう先輩の背中と、紫色の長い髪が雄弁に語っていた。
「はぁーち」
そんな中、先輩のカウントダウンは進んでいくばかり。頼みの綱は、もう彼女しかいなかった。
「ちぃ~……」
「先輩と望子先輩って仲いいですよねー。羨ましいです」
なぁんてちぃは言いながら、ぺらり、とページをめくっていく。完全にこっちに振ってこないで、との意思表示だった。
こうなってしまってはもう僕だけでどうにかするしかない。
「ななー、ろぉーく……」
そんなこんなやっていると、先輩のカウントダウンが進んでいく。僕は回らない頭を回転させながら、何か面白い事を考える。
「ごーぉ」
「面白いこと……おもしろいことっ!」
「よーん」
鍵は必死に考えた。
「先輩の機嫌が悪い! すっごく危険だっ!」
辺りがしん、と静まり返る。完全に空気が凍り付いていた。
「……うん。無茶振りしてごめんね、鍵くん」
「あぁぁぁぁぁっ! そんな哀れみの目で僕をみないでくださぁ~い!!」
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