どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
35 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その35 暇を持て余した(以下略)

しおりを挟む

「ヒマだねー」

 短くも綺麗なその茶髪の髪を掻き分けながら、望子先輩はそう呟いた。
 いつもの放課後。いつもの部活動中。
 僕とちぃはいつも通り、本を読みながら時間を潰し、路世先輩はいつも通りパソコンの前でゲームを嗜んでいた。
 きっと今日も「世界王者」という名の誰かと戦って無双記録を刻んでいるのだろう。今日も今日とて太鼓部は自由だった。
 そんな中、望子先輩だけがソファの上で退屈そうに天井を見つめていた。

「そうですねー」

 ぺら、とページをめくりながら、僕は曖昧な返事を返した。先輩がソファでまだごろごろしてた頃はそんな気はしなかったのだが、天井をじっと見つめていた時から薄々気づいてはいたのだ。

「鍵くん、なんか面白い事言ってよー」
「なんですかその無茶振り……」

 先輩の無茶振りはいつもの事だが、それでも僕はその無茶振りに慣れる事はない。その唐突の振りこそが、僕の一番困ることだ。

「いいから。なんか面白い事言ってよー」
「そうですねー……。わーなんかおもしろーい」
「すっごい棒読みだし、面白くないんだけど……」

 そう言われても、そんな唐突に面白い事と振られても……なにを言えばいいのか分からない。
 特に最近面白い事なんてなかったし、僕がそんなにギャグの言えるような人物ではないので、どうすることもできない状態だった。

「じゃあ、あと十ね」
「なんで急にカウント入れるんですか……」
「きゅーう」

 僕の問いに先輩は答えずにカウントを一進めていく。この状態では先輩をどうすることもできない。

「路世せんぱぁ~い」

 なんとか助け舟を頼もうと、路世先輩に声をかけるが先輩はひらひら、と手を振った。
 「望子の相手はケン後輩にしか出来ない」――――そう先輩の背中と、紫色の長い髪が雄弁に語っていた。

「はぁーち」

 そんな中、先輩のカウントダウンは進んでいくばかり。頼みの綱は、もう彼女しかいなかった。

「ちぃ~……」
「先輩と望子先輩って仲いいですよねー。羨ましいです」

 なぁんてちぃは言いながら、ぺらり、とページをめくっていく。完全にこっちに振ってこないで、との意思表示だった。
 こうなってしまってはもう僕だけでどうにかするしかない。

「ななー、ろぉーく……」

 そんなこんなやっていると、先輩のカウントダウンが進んでいく。僕は回らない頭を回転させながら、何か面白い事を考える。

「ごーぉ」
「面白いこと……おもしろいことっ!」
「よーん」

 鍵は必死に考えた。

「先輩の機嫌が悪い! すっごく危険だっ!」

 辺りがしん、と静まり返る。完全に空気が凍り付いていた。

「……うん。無茶振りしてごめんね、鍵くん」
「あぁぁぁぁぁっ! そんな哀れみの目で僕をみないでくださぁ~い!!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ネットの彼女がヤンデレで僕のリアルを破壊してくるんですが?!

そるそーそ
青春
ネットとリアルは別だ。ネットの彼女とリアルでの関係は持たない。そのはずだったのだけど・・・

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

燦歌を乗せて

河島アドミ
青春
「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。 久慈家の名家である天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートすると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会う。 第六作を描く。そう心に誓った色助は、己の未熟とホームレス生活を満喫しながら作品へ向き合っていく。

桃色DK×4

山本記代 (元:青瀬 理央)
青春
のんびり、時々騒がしい仲良し四人組の男子高校生は、遊びに部活、恋にバイトと大忙し。 大人から見れば正にゆるゆるライフ。 でも、それを送る彼らは必死で真剣。 楽しければそれで良し! 面白ければ尚最高! 足りないものは、笑いとあの子とテストの点数。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

処理中です...