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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その34 雨と傘
しおりを挟む「あ、雨降ってきたねー」
部室の窓から外の景色を見ながら、先輩がぼそりと呟く。外ではザーッ、と土砂降りになっており、ほんの数分前の小降りとは景色が変わっていた。
「ホントですねー……傘なんて持ってきてませんよー」
「良かったー。こんな時のために置き傘してたんだよねー」
先輩は部室の物置から傘を取り出す。遊び道具の入っている物置の中に、まさか傘が入っていたとは思わなかった。
昇降口の傘立てにあると思っていたのだが……。
「まぁ俺は今日は迎えが来るからなんとかなるが……」
「私も折り畳み傘があるのでなんとか」
「じゃ、傘持ってないのは鍵くんだけだねー」
「やーい、仲間はずれー」なんて言いながら、先輩は傘のない僕を小ばかにしてくる。
まぁ、雨が降るとは知らなかったのでしょうがないが……置き傘くらいしておくべきだった。
「予備なんて誰も持ってないですよね……。まぁいいです。準備してなかった僕が悪いので、濡れながら帰る事にしますよ」
過度な期待はせず、僕は覚悟を決め、濡れながら帰る事にした。
と、部活動終了のチャイムが鳴り響き、僕ら太鼓部の部員はこれにて解散となった。
部室を出て、そのまま昇降口へと向かう。先輩たちはそれぞれ自分の傘を展開し、雨の中帰路に着く。
僕はなんとか雨が小降りにならないかと、昇降口の前で突っ立って待っていた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん、なんとかね。僕の事は放っておいて先に帰ってていいよ、ちぃ」
「分かりました」
ちぃは折り畳み傘を展開し、正門の方へと向かっていった。僕はちぃを見送りながら、雨が小降りになるのを期待しながら待っていた。
今日の朝は天気予報も見てなかったし、折り畳み傘なんて通学バックの中に入れてなかった。なので、まさかこうして振ってくるとは思いもよらなかった。
「あら? 鍵じゃない? どうしたのよ、こんな所で」
と、そこへ紗琉が現れる。片手に自分の傘を持ちながら、土砂降りの雨を見つめながら今にも傘を開こうとしていた。
「どうしたも……傘を忘れてきたんだよ。小降りになるのを待っててさ……」
「ふぅーん……」
と、紗琉はどうでもいいかのような返答を返した。まぁ確かに、傘を忘れてくる僕が悪いんだし、そりゃどうでもいいだろうさ。
そう思いながら、雨が小降りになるのを待っていると、目の前に誰かの傘が差し出される。紗琉だった。
「ほら。貸してあげるから」
「え……?」
「貸してあげるって言ってるの。置き傘していたのに、持ってきてしまったから……。それともいらないの?」
「い、いや借ります借ります!」
紗琉の差し出した傘を受け取りながら、僕は雨の中帰路に着く。まさか置き傘しておきながら傘を持ってきているなんて。
「ありがと、紗琉。この恩はいずれ返すよ」
「期待せずに待ってるわね」
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