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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その32 助っ人
しおりを挟む「こんちわー」
いつもの如く、部室の扉を開けてみんなのいる部室へと入室する僕。
今日は望子先輩とちぃだけが、部室で好き勝手に活動していて、そこに路世先輩の姿だけがなかった。
いつもならば、パソコンの目の前に目がついてしまい、誰よりも早く僕が路世先輩の存在に気づくというのに、今日だけは彼女の姿がなかったのだ。
「あれ? 先輩、路世先輩はどうしたんですか?」
「あぁー……路世ちゃんなら、部活の助っ人に行ったよー」
「助っ人……ですか?」
路世先輩が? 何の助っ人なのだろうか? 僕は疑問に思ってしまった。
路世先輩だから……ゲーム部の助っ人だろうか? しかし、この学校にそんな部活は存在しないが……?
と、きょとんとしていた僕に望子先輩が説明する。
「今日は女子ソフトの助っ人なんだってー」
「女子……ソフト……?」
女子ソフトって……女子ソフトボール部の事なのだろうか? 僕の疑問はさらに深まるばかりだった。
ゲームの達人である路世先輩が、アウトドアスポーツの助っ人になるなんて、誰が想像できるだろうか? 路世先輩が懸命にスポーツをやっている姿が想像出来なかった。
と、頭を抱えながらこの状況を理解出来なかった僕に、ちぃが補足する。
「路世先輩はゲームだけじゃなく、スポーツも上手いんですよ、先輩。いつもはああして、パソコンの前でカチカチしてますが、元々運動神経もよく、色んな部活動から勧誘を受けてるらしいです」
「あ、そうだったんだ……」
なんだ、路世先輩ってゲームだけでもなく、スポーツも得意だったのか。
いつもゲームばかりしてるから、てっきりスポーツはニガテかとずっと思っていたが……それはどうやら間違いのようだ。
「凄いですよね。ゲームも上手いし、成績もよく、おまけに運動神経もいいなんて……」
「凄く理想の先輩って感じがするよね」
と、僕はそうぼそりと呟いた直後。はっ、と背後にいる望子先輩の方を振り返る。
……さっきの言葉は失言だった。望子先輩も一応は僕らの先輩であり、この部活の部長だ。そんな人の前で、そんな事を言ってしまえば……。
『そうですよー。私はどうせ子どもっぽいから、鍵くんやちぃちゃんから先輩とは思われてないんですよー』
と、ふてくされるに違いない。
僕は恐る恐る背後の先輩を見ると……
「うーん……」
ソファの上で昼寝をしていた。どうやら、さっきの言葉は聞いていなかったようで、僕はホッ、と胸を撫で下ろした。
しかし、本当にこんなに完璧主義の先輩が、カップ麺やコンビニのおにぎりの食べ方すら知らないなんて……完璧であって、どこか抜けている路世先輩だった。
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