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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その30 辞書
しおりを挟む「そうだ。鍵くん、これ」
と、部活中。先輩が何かを僕に渡してくる。ビニール袋に包まれたソレは分厚く、まるで本でも入っているかのような感触だった。
僕は恐る恐る先輩に尋ねてみた。
「これ、何ですか?」
「この間貸してもらった『英和辞典』だよ。いい加減返さないとと思ってさー」
なるほど。確かに、先日先輩に貸したものだ。何でも、授業で必要だと言い張り、路世先輩も授業で使用するためし難くなく、僕が先輩に貸したのだ。
しかし、何故ビニール袋になんて入れて返すのだろうか? 僕が貸した時は、ビニールになんか入れずにそのまま貸したハズだ。
「あぁ……。でも何でビニール袋なんですか?」
「さーてと、明日は数学があるね。ヨシューでもしよっかな、ヨシュー……」
何だかぎこちなさそうに先輩が、いきなり予習をし始める。僕は先輩のそのぎこちなさを不思議に思いながらも、どうしてビニール袋に入れて返したのか原因を探るべく、その袋を開けてみる。
「うっ……」
ビニール袋を開いてすぐに、異臭が僕の鼻をつつく。僕はすぐさま、ビニール袋をきつく縛る。……何か、腐れた魚みたいな臭いがした。しかも辞典はテープでぐるぐる巻きにされてて、辞書が取り出せない。
これは先輩に問い詰めないと、分からない状況だった。
「望子先輩……?」
「ごめん、鍵くん。今はヨシューで忙しいんだ。悪いけど、後にしてくれないかな?」
「先輩は普段、予習なんてしないでしょ?」
「うぐぅ……」
「これはどういう事ですか? ちゃんと説明してもらいましょう」
そう言って、先輩の目の前に英和辞典が入ったビニール袋を突き出す。先輩はそのビニール袋を拒絶するかのように、両手を前に出した。
「待って待って! ちゃんと説明するから、ソレをこっちに近づけないで!!」
確かに、コレを近づけられたら誰でも拒絶するだろう。僕はソレを一旦床に置くと、テーブルの前に正座し、先輩に問い詰めた。
「……で、これはどういう事ですか?」
「それがねー……借りてから、机の上に置いてたらさー……お弁当をこぼしちゃって……。それでああなっちゃったの……」
「えぇー……」
「それで辞書がね、『へるぷみー』って言うから、救出を試みたんだよ……。でも、辞書はもうすでに手遅れ。まさに、おー、まいごっど!」
「いやいやいや……、てか英和辞典だからって、なに上手い事言っているんですか……。しかも棒読みですし……」
先輩は片言英語で、その時の事情をぺらぺらと白状した。まぁ、誤ってこぼしてしまったのならば仕方ないが……せめて、事情を説明してから返してほしいものだ、と僕はしみじみ思った。
確かに、この状態で返されても僕は困る。が、それでもちゃんとその事情を説明してくれれば、僕は別に何とも言わない。何故ならそれは事故だからだ。僕が不満なのは、どうしてその事情を説明せずに返したのか、だった。
それでも先輩は、反省しているような感じはなく、いつもの軽い口調だった。
「ってことで、さんきゅー、みすたー鍵!」
「どうしてそう誇らしげなんですか、先輩」
「でもまぁ、これで借りは返したよ。しーゆーあげいん!」
「元通りに返してから言って欲しいですよ、もう……。それにまだ、部活の時間はありますから……」
恐らく先輩は、授業が終わり、うきうきのランチタイムと洒落込もうとしていたに違いない。そんな中、辞書を机の中に仕舞わずに、そのまま放置していた。そんな中、先輩は誤ってお弁当をこぼし、そしてこの辞書にこぼれてしまったまま、放置された。そんな感じだろう、きっと。
しかし…、これどうしよう…? 電子辞書もあるからゴミ出しにでも出しておくか、と僕はため息を吐いた。
その後日。先輩はブックオフで中古ではあるが、貸した辞書と変わらないタイプの英和辞典を僕にプレゼントするのだった。謝罪は軽い口調ではあるが、それでも悪い事はしっかり謝れるのが先輩の良い所だな、と僕はしみじみ思うのだった。
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