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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その28 紗琉と望子先輩とコピー機
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「しっかし、まさかこうなるとはなぁ……」
「先生も先生で、案外抜けてる所もあるものね……」
僕と紗琉は二人で、学校の廊下を歩いていた。廊下には生徒の姿がまったくと言っていいほど見当たらない。
そりゃそうだ。他の生徒は全員教室で授業を受けているからだ。
では何故、僕たちだけは教室で授業を受けずにこうして、廊下を歩いているのかと言うと……。
「先生も先生だよ。『授業で使うプリントを印刷するのを忘れたから印刷してきてくれ』だなんて、そんなの自分でやればいいのに……」
「まぁ、仕方ないわよ。先生も授業の準備で忙しそうだったし」
まぁ、そういうワケで、僕と紗琉は授業が始まっている中、こうして特別に廊下を歩いて印刷室へと向かっていたのだ。
勿論、先生からは印刷で遅れた分の時間は遅刻にはカウントしないと言われたので、別に問題はないだろう。
ぼちぼちと、紗琉と二人で歩きながら一階の印刷室へと向かう。印刷室はコピー機の熱と、インクの匂いが充満しており、まるでサウナのように暑苦しかった。
「さてと、ちゃっちゃと印刷してしまおうか」
「そうね」
紗琉が先生から預かった原稿を、コピー機に挟む。コピー機が原稿を読み取っている間に僕が、コピーカードと呼ばれる、コピー機専用の通貨のようなカードをコピー機に差し込み、印刷を開始する。
ガガガー、と機械の音を鳴らしながら、コピー機が印刷を始める。それを僕と紗琉は眺めながら、呆けていた。
「……暇だね」
「そうね」
何十枚ものコピーを印刷している中、ここでそれを待つのはなかなかに退屈な事だった。先生に頼まれたとはいえ、こんなに退屈な時間はないと思った。
と、そんな時、唐突にガラガラと印刷室の扉が開かれる。
「……ってあれ? 鍵くん?」
「望子先輩!? どうしてこんな所に?」
望子先輩だった。片手にA4サイズくらいの紙を握り締め、印刷室に入ってきたのだ。
今は授業中なのに、どうして先輩がここにいるのだろうか?
「いやー、先生に印刷を頼まれちゃってさー。あっははははー」
「へー。先輩も頼まれたんですか」
「うん。『先生、プリント忘れましたー!』って言ったら、『今すぐに印刷してこーい!』って言われちゃってさー」
先輩。それは先生に頼まれたのではなく、先生に命令されたの間違いでは……?
そんな事を思いつつ、僕はこっちの用事を思い出す。印刷はすでに半分終わっており、やっとの折り返し地点に達していた。
と、先輩はポケットの中をまさぐりながら、何やら疑問の声をあげる。
「あれー? おっかしいなー……」
「どうしました?」
「いやー……コピーカードがなくてさー……」
「それなら、僕のを貸しましょうか?」
「え、ホントに? ありがとー!」
僕は先輩にカードを差し出すと、まるで跳ねるように先輩はカードを受け取っていく。紗琉はいつの間にか、先輩の原稿を(勝手に)コピー機に挟もうとしてるし……。何かと世話を焼いてくれる親切な生徒会長だこと。
「あっ」
ばたん、とスキャナーのフタが勝手に閉じ、紗琉の頭が挟まってしまう。
「だ、大丈夫っ!?」
先輩が心配そうに駆け寄る。と、それと同時にぴ、と何かの音が。
がー、がー、がー……。
「い、印刷始まってるじゃないですかっ!?」
「はわわわ……! ち、中止中止!」
「ちょっと! 挟まってるんですけどっ!」
みんな大慌ての中、何とか先生から頼まれた分のコピーは無事に完了したが、僕のコピーカードの残高は減り、紗琉はコピー機によって、その顔がモノクロで印刷され、大惨事になってしまったのだった。
「先生も先生で、案外抜けてる所もあるものね……」
僕と紗琉は二人で、学校の廊下を歩いていた。廊下には生徒の姿がまったくと言っていいほど見当たらない。
そりゃそうだ。他の生徒は全員教室で授業を受けているからだ。
では何故、僕たちだけは教室で授業を受けずにこうして、廊下を歩いているのかと言うと……。
「先生も先生だよ。『授業で使うプリントを印刷するのを忘れたから印刷してきてくれ』だなんて、そんなの自分でやればいいのに……」
「まぁ、仕方ないわよ。先生も授業の準備で忙しそうだったし」
まぁ、そういうワケで、僕と紗琉は授業が始まっている中、こうして特別に廊下を歩いて印刷室へと向かっていたのだ。
勿論、先生からは印刷で遅れた分の時間は遅刻にはカウントしないと言われたので、別に問題はないだろう。
ぼちぼちと、紗琉と二人で歩きながら一階の印刷室へと向かう。印刷室はコピー機の熱と、インクの匂いが充満しており、まるでサウナのように暑苦しかった。
「さてと、ちゃっちゃと印刷してしまおうか」
「そうね」
紗琉が先生から預かった原稿を、コピー機に挟む。コピー機が原稿を読み取っている間に僕が、コピーカードと呼ばれる、コピー機専用の通貨のようなカードをコピー機に差し込み、印刷を開始する。
ガガガー、と機械の音を鳴らしながら、コピー機が印刷を始める。それを僕と紗琉は眺めながら、呆けていた。
「……暇だね」
「そうね」
何十枚ものコピーを印刷している中、ここでそれを待つのはなかなかに退屈な事だった。先生に頼まれたとはいえ、こんなに退屈な時間はないと思った。
と、そんな時、唐突にガラガラと印刷室の扉が開かれる。
「……ってあれ? 鍵くん?」
「望子先輩!? どうしてこんな所に?」
望子先輩だった。片手にA4サイズくらいの紙を握り締め、印刷室に入ってきたのだ。
今は授業中なのに、どうして先輩がここにいるのだろうか?
「いやー、先生に印刷を頼まれちゃってさー。あっははははー」
「へー。先輩も頼まれたんですか」
「うん。『先生、プリント忘れましたー!』って言ったら、『今すぐに印刷してこーい!』って言われちゃってさー」
先輩。それは先生に頼まれたのではなく、先生に命令されたの間違いでは……?
そんな事を思いつつ、僕はこっちの用事を思い出す。印刷はすでに半分終わっており、やっとの折り返し地点に達していた。
と、先輩はポケットの中をまさぐりながら、何やら疑問の声をあげる。
「あれー? おっかしいなー……」
「どうしました?」
「いやー……コピーカードがなくてさー……」
「それなら、僕のを貸しましょうか?」
「え、ホントに? ありがとー!」
僕は先輩にカードを差し出すと、まるで跳ねるように先輩はカードを受け取っていく。紗琉はいつの間にか、先輩の原稿を(勝手に)コピー機に挟もうとしてるし……。何かと世話を焼いてくれる親切な生徒会長だこと。
「あっ」
ばたん、とスキャナーのフタが勝手に閉じ、紗琉の頭が挟まってしまう。
「だ、大丈夫っ!?」
先輩が心配そうに駆け寄る。と、それと同時にぴ、と何かの音が。
がー、がー、がー……。
「い、印刷始まってるじゃないですかっ!?」
「はわわわ……! ち、中止中止!」
「ちょっと! 挟まってるんですけどっ!」
みんな大慌ての中、何とか先生から頼まれた分のコピーは無事に完了したが、僕のコピーカードの残高は減り、紗琉はコピー機によって、その顔がモノクロで印刷され、大惨事になってしまったのだった。
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