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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その27 優しさ
しおりを挟む「ごめーん、一夜ちゃん! ここ教えてー!」
「いいわよー」
午前中の授業が終わり、昼休みとなった今、一夜はクラスメートの世話を焼いていた。
生徒会副会長兼クラス委員長の一夜は、こうして時たま、クラスメートの話を聞いたり、授業で分からない所を教えたりしているのだ。
一夜は嫌な顔せずにニコニコ、と笑顔を振りまきながら対応してくれるので、こちらからしてもとても話しやすい。
「やっぱすごいな……一夜って」
と、遠巻きにその光景を見ながら僕はぼそりと呟いた。
これだけ頼りにされてるという事は、逆に凄い事だ。紗琉もそうだが、ウチのクラスにいる生徒会関係者は、学年問わず色んな人に頼りにされている。
信頼というのは、失うのはカンタンだが、手に入れるのはなかなか難しいものだ。それを二人は、生徒会という役でこの学校の生徒全員の信頼を得たのだろう。
そのおかげか、こうして高校2年で生徒会長と副会長になれたのかもしれない。そう考えると、一夜と紗琉はとても凄いのかもしれない。
「何ボーッと突っ立ってるのよ?」
と、噂をすればなんとやら。ポン、と肩に手を置かれる。
紗琉だ。疑問の表情を見せながら、彼女はそう告げた。
「いや……一夜も、色んな人から頼られるなって……」
「そりゃ、一夜は人がいいもの。一夜は人以上に人間って生き物を大切にする人だからね、見なさいよあの笑顔を。面倒な数式教えているのに、まるで楽しそうに教えてるでしょ?」
確かに。よく見ると、一夜はその笑顔を取り乱さずに、ずっとニコニコと笑顔で話していた。
周りから見れば、その様子は少し怖いが……彼女に悪意がないと思えば、好意の持てる笑顔だった。
「……確かに」
「一夜は人を世話できるのが楽しいって思ってるのよ。それが例え、面倒な数式を教えていたとしてもね」
「そうなんだ……」
と、紗琉と話していると、一夜のティーチングは終わったようで、こちらに駆け寄ってくる一夜。
「二人とも、何の話をしてたのかしら?」
「別に何でもないわよ。鍵が今日は、私たちと昼食を一緒にしたいって」
「え?」
紗琉は急に変な事を言い始めたのだ。確かに、今日も太鼓部室で食べようと考えていたが、紗琉たちと昼食を共にするとは一言も言ってなかった。
「そうなの? じゃあ、ケンくんを待たせてはいけないわね。早く生徒会室に行きましょうか」
「生徒会室!?」
思わず僕は、素っ頓狂な声を上げる。そんな所で二人は昼食を摂っているとは聞いていたが……まさか、僕まで生徒会室で食べていいとは。
「別にいいわよ。お昼は私たちしか行かないし、ケンなら特に入っても害はないわ」
「は、はぁ……」
「生徒会長もこう言ってるんだし、きっと大丈夫よ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
そのまま僕は、その場の空気に流されるがの如く、一夜と紗琉と生徒会室で昼食を摂るのだった。
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