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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その26 コンビニ
しおりを挟む昼休み、今日の鍵は部室で昼食を摂ろうと考えていた。
自前の弁当を片手に、太鼓部室へと向かっていた。
きっと今日も誰かが部室で昼食を食べているだろう。そんな期待をしながら、鍵は部室の扉を開けた。
「おお、ケン後輩か」
と、部室の真ん中に位置するテーブルに向かって、路世先輩が床に座っていた。
テーブルの上には、またしてもコンビニの袋が。今日も買い弁のようだった。
「路世先輩。今からお昼ですか?」
「ああ。ケン後輩も、今から昼飯か?」
僕は「はい」と答え、そのまま路世先輩に向かうように座る。テーブルを二人で挟むように座る姿は、まるでオセロのようだった。
僕は弁当の風呂敷を開けながら、路世先輩の袋を凝視する。あの袋には何が入っているのだろうか……?
この前と同じようにカップ麺……ではなさそうだ。膨らみ方が違うのだ。カップ麺の時よりも小さな膨らみ方だ。
「先輩、今日は何を購入したんですか?」
恐る恐る聞いてみる。と、路世先輩は「これか?」と袋を指差し、袋から何かを取り出す。
それはおにぎりだった。コンビニで売ってあるあのおにぎりだ。
なるほど。おにぎりだから、今日の袋の膨らみ方がカップ麺の時より小さかったのか。
「今日はカップ麺って気分ではなかったからな。たまたま目に付いたおにぎりを買う事にしたんだ」
「そうだったんですね……」
と、僕はふと、カップ麺の時の件を思い出す。
そういえば、先輩はカップ麺の調理法も知らなかったのだ。もしかしてのもしかするとだが…………
「いや、それはないか」
流石に誰しも、コンビニのおにぎりの開け方くらいは分かるだろう。それに、わざわざ手順が数字で袋に書いてあるのだ。分からない訳がないだろう……。
と、思っていたその時だった。先輩は何を血迷ったのか、袋のままおにぎりにかぶりついたのだ。
「せ、先輩!? 何してるんですか!?」
「何って……食事だが?」
「袋すら食べるってどう考えたらそうなるんですか!? そんなのするのはアニメの作画ミスくらいですよ!?」
「……お前は何を言ってるんだ?」
まさか本当に、コンビニのおにぎりの食べ方も知らなかったとは思ってなかった。当の本人はきょとん、としており、「これが正解じゃないのか?」と言わんばかりの表情を見せていた。
「いいですか? コンビニのおにぎりはですね、ここの切れてる部分を下に引いて、こうぐるっと」
「ほうほう」
「その後、左右の袋をこう引き抜くんですよ」
と、実際に先輩のおにぎりを開封しながらレクチャーする。先輩は新しいおもちゃを買ってもらったかのような、輝かしい表情を見せながら、僕の開封の儀を凝視していた。
「なるほどな……。大変勉強になったよ、ケン後輩」
「先輩はコンビニで買い物とかした事ないんですか……?」
「いやぁ、コンビニのものはこの年になって、生まれて初めて食べたりしたものだからな」
はっはっはー、と高笑いする先輩。…………先輩がどんな家庭に生まれたのか、少し気になる僕なのだった。
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