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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その25 帰り道
しおりを挟む部活が終わり、僕とちぃは同じ通学路を通りながら、共に自宅へと向かっていた。
ちぃと僕は、小さい頃からずっと家が近所なので、今もこうして朝は一緒に登校し、学校が終われば一緒に下校しているのだ。
僕は特に何も思わないが、ちぃは恥ずかしかったりしないのだろうか……?
「そういえばさ、」
「はい?」
恐る恐るちぃに聞いてみる事にした。男女が二人、同じ道を共に歩いているのだ。周りからすれば、思わぬ誤解を招く可能性だって高い。
それなのに、ちぃは毎度の如く僕と共に下校しているのだ。
「ちぃは、僕と帰るのイヤじゃないの?」
「……え?」
「あ、いや、別に僕はちぃと帰れて嬉しいけどさ…………。でも、ちぃはどうなのかなーって……。ほら、一応僕たちも高校生じゃん? そんな中、男女二人が共に歩いてるとなるとさ……その……」
「……カップルに見えて、周りから思わぬ誤解を生むのでは? と、先輩は言いたいんですか?」
「そう……」
長々と御託を並べる僕に、ちぃはズバリと僕の言いたい事を言い当てた。流石ちぃだ、伊達に僕と長年共に過ごしてきた仲ではない。僕の言いたい事は大体分かるようだ。
「別に何も思いませんよ。先輩は私からすれば……その…………お兄ちゃん、みたいな感じですし……」
「…………」
ちぃは何気に恥ずかしい事を口にした。……僕が、ちぃのお兄ちゃん…………。
「だって、先輩もこの前言ったじゃないですか。私は先輩からすれば、妹のようだって」
「あっ、あぁ……そうだったね」
そういえば、そんな事も言ったっけ? 先輩たちの前で、ちぃとはどんな関係か、なんて聞かれた時に言ってしまったのだ。
「先輩が私の事を妹みたいだと言ってくれたので、それに対抗し、私は先輩の事を実のお兄ちゃんのように慕っていこうと思いまして」
「対抗って……」
何だかそれは違うような気はするが、まぁいいだろう。確かに、こうして長年共にしていれば、実の兄妹のような関係になりかけるだろうさ。
「まぁ、僕もちぃの事、実の妹みたいって言っちゃったし、別にいっか」
なんて、ちぃに聞こえないように小言でそう呟いた。ちぃに関しても、僕と共に下校するのに抵抗はないようで、内心ホッとした。
と、僕はふと、ちぃとのいつかの記憶を不意に思い出す。……そういえば、
「そういえばさ、ちぃっていつから僕の事を『先輩』って呼び始めたんだっけ?」
「えっと……中学入ってからぐらいだったと思いますよ。それがどうかしたんですか?」
「いやぁ。前みたいに『鍵お兄ちゃん』って呼んでくれてもいいんだけどなぁ……って思ってさ」
その言葉を口にした途端、ちぃの顔がボッ、と赤くなった。
それはまだ僕たちが幼い頃の話。僕がまだ、さちぃの事を『智広ちゃん』って呼んでた頃の話だ。ちぃはその頃、僕の事を『鍵お兄ちゃん』と呼んでいたのだ。
まだまだ他人行儀だったし、今の僕らのような関係ではなかったので、特に気にしなかったが……今思うと、呼ばれる僕も呼ぶちぃも恥ずかしかっただろう。
「な、な、な、な! 何言ってるんですか!?」
「いや~、いつも『先輩』ってばかり呼ばれてるからさ、その呼び方で呼ばれたいなってふと、思ってさ」
「何言ってるんですか!? もうその呼び方で呼んだりしませんよっ!」
ちぃから『お兄ちゃん』と呼んでもらえなくて少し残念な気持ちを残しつつ、僕らは他愛もない話をしながら、自宅までの道のりを歩いていくのだった。
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