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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その21 親友
しおりを挟む「んふー……」
午前中の授業も終わり、僕はぐんと伸びをした。やはり座学ばかりは退屈で、身体の節々が鈍りに鈍っていた。
「お疲れ様、ケンくん」
と、一夜は僕に声をかけてくる。
「あぁ、お疲れ、一夜。今日も生徒会室でお昼かい?」
「えぇ。まだやるべき仕事は残ってるし、紗琉ちゃんもきっとお昼を食べながら仕事しているハズだわ。少しでも紗琉ちゃんの荷を軽くさせるのが私の役目だから」
と、一夜は窓の外を眺めながら、そう独り言のように呟く。
「忙しそうだもんな、生徒会」
「えぇ。紗琉ちゃんってば、他の委員会をまったく信用していない訳でもないのに、自分で仕事を抱え込むから……」
確かに、紗琉は何かと生徒会の仕事を一人で捌こうと必死すぎる。ただでさえ、自分が生徒に支持されているとはいえ、生徒会の仕事は多い。
それを紗琉は自分だけでどうにかしようとばかり考えているのだ。それをサポートするためにも、一夜は生徒会副会長として、紗琉の親友としてその役目を担っているのだ。
「でもさ、紗琉も流石にキツい時は自分から助けを求めるんじゃないの?」
「いいえ。紗琉ちゃんはどんな仕事でも、自分だけでどうにかしようと背負い込むのよ。生徒会長だからこれくらい出来て当然!と思ってるんでしょうね」
紗琉の考えている事はどうやら、一夜にはすべてお見通しのようだ。確かに紗琉は、問題を一人で抱え込むことが多い。生徒会の仕事も、クラスの仕事も、すべて一人で捌こうと必死だ。
勿論、紗琉が弱音を吐いた事はない。自分が弱音を吐けば、生徒たちが不安になるとでも思っているからだろうか? 紗琉はいつも、強がりな部分だけを周りに見せ、自分の本当の気持ちを表に出すことはなかった。
「そうだよな。紗琉ってあんまり自分から助けを必要とするような感じじゃないし」
「えぇ。だからこそ、紗琉ちゃんが参る前に私がサポートに回るの」
「……そういえば、一夜は紗琉と幼馴染だったっけ?」
「そうよ。だから私は、紗琉ちゃんの考えている事はすべてお見通しなの」
と、さも当然のように言う一夜。紗琉の事を考えている一夜は、流石幼馴染といったところだろうか。相手の考えている事さえも読めるようだ。
「それじゃケンくん、また後で」
「うん。一夜もムリしないで」
そう言い返すと、一夜は教室を出て、生徒会室へと向かっていった。それを見送ると、僕は深いため息を吐いた。
「いいな、紗琉は。こんなに自分の事を思ってくれる親友がいてくれてさ」
僕に親友と呼べるような人間はいない。だからこそ、こうして自然に出てきてしまった言葉だった。人畜無害の僕はそもそも、人と関わる事が少なく、友達も指で数え切れるほどだ。その中で、僕の事を思ってくれる人間がいるのかさえも分からない。
だからこそ、こうして自分の事を大事にしてくれている一夜みたいな親友を持てて、羨ましかったのだ。
「あら、私はケンくんの事も思ってるのよ?」
「うわぁっ!? 一夜!? もう終わったの?」
「いいえ、忘れ物をしたから取りに来たの。それで、ケンくんは自分の事を心配してくれる親友がほしいのかしら?」
「べ、別にそんなことは言ってないよ!! ほら早く! 紗琉が待ってるよ!」
「ふふ。私は紗琉ちゃんもだけど、ケンくんの事も大事な親友として見てるのよ」
くすり、と笑いながら、今度こそ本当に一夜は教室を後にしたのだった。
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