どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
19 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その19 姉妹?

しおりを挟む
「最近、ふと思うんだが……」
「はい」

    と、路世先輩は望子先輩とちぃの方へと目を向ける。それに釣られて僕も目を向けると。

「ねぇねぇちぃちゃーん」
「なんですか、望子先輩……」

    ちぃに必要以上にベタベタとくっついていく先輩。ちぃも流石にちょっと困った様子だった。

「あー……あれですか」

    僕は小さくため息を吐きながら、路世先輩にそう返した。
    最近の先輩は、ちぃにずっとあんな感じにアプローチしていたのだ。ちぃが読書している所にわざわざ向かっていったり、ちぃの背後からおぶさったり、何かと必要以上にちぃにアプローチしていたのだ。

「流石にちぃももう我慢の限界だろう? かれこれ、ああされてもう一週間は経っているんじゃねぇか?」
「そうですね……。ちぃの顔を見る感じ、何とも言えませんが……何だかそろそろ嫌な予感がするって感じがしますよ」

    ちぃと長年一緒だった僕だからこそ分かる。あの少しむすっ、とした顔はまさしく、ちぃの機嫌が悪いサインだ。先輩に必要以上に触られ、自分の自由が奪われ、逆にイラついている。そんな気がしてならなかった。

「でも、何だか第三者から見ると姉妹に見えませんか?」
「姉妹?」
「はい。何となくですが、姉妹でじゃれているような感じがして、少し微笑ましいというかなんというか…………」

    確かに。ちぃの機嫌が悪そうなのは認める。が、しかしだ。その光景を第三者である僕らから見ると、ただ単に仲の良い姉妹のじゃれ合いのようにしか見えなかったのである。
    マイペースな姉が、妹に一生懸命にアプローチしているようで、そう捉えるとそれはそれで微笑ましい光景と言えた。

「確かにそうだな……。一見、見方を変えてみるとイメージも変わるもんだな」

    と、路世先輩は感心したかのような声だった。まぁしかし、それでも、ちぃの機嫌がどうなのかは分からないが…………。

「先輩……少し離れてください、マトモに本も読めないじゃないですか……」
「本なんか読んでないで、私と遊ぼうよー」

     必死にアプローチする先輩の姿は、まるで求愛ダンスを踊る蝶のようだった。それでも、ちぃがそれに応じる事はなく、何としてでも今手元にある本を読まなくては、という様子だった。
    と、観念したのか先輩は、急にすっく、と立ち上がった。

「トイレ行ってこよ」

    どたどた、と部室を出ていく先輩。どことなくマイペースな先輩だ……。
    やっとの思いで、先輩が離れたちぃは、謎の汗を拭きながら、読書を続けていた。そこへ、路世先輩は心配そうに声をかける。

「大丈夫か、ちぃ? ホントに面倒だと思うんだったらちゃんと言った方がいいぞ?」
「いえ、私は別に大丈夫ですよ」

    ちぃはそれでも、先輩に嫌だとは言わないとの事だ。

「どうしてだ? 流石にあんなにずっとくっつかれてちゃ、鬱陶しいだろうに」
「いえ、確かにあの望子さんは鬱陶しいですが…………それでも私は、そんな望子さんが好きなんです。なので、鬱陶しいとは思っても嫌だとは思った事はありません」

    と、ちぃはにこり、と微笑んでそう路世先輩に返したのだった。

「じゃ、別に機嫌が悪いわけではなかったんだね」
「はい。ですが、望子先輩にはこの事は秘密にしておいてくださいね。きっとその事実を知ってしまうと、もっとエスカレートしてしまう気がするので」

    と、ちぃは人差し指を口に当てながらそう告げた。
    その表情は、まるでイタズラをする子どものようで、先輩を少しからかって楽しんでるように感じ取れるものだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

【完結まで毎日更新】籐球ミットラパープ

四国ユキ
青春
主人公・阿河彩夏(あがわあやか)は高校入学と同時にセパタクロー部から熱烈な勧誘を受ける。セパタクローとはマイナースポーツの一種で、端的に言うと腕を使わないバレーボールだ。 彩夏は見学に行った時には入部する気はさらさらなかったが、同級生で部員の千屋唯(せんやゆい)の傲慢で尊大な態度が気に食わず、売り言葉に買い言葉で入部してしまう。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

美術部俺達

緋色刹那
青春
・第7回ライト文芸大賞エントリー中 ・完結済み。番外編「First Grade」は過去話。 〈あらすじ〉  自由ノ星(じゆうのほし)高校美術部には三人の男子がいる。  創作レクリエーションマニア、成宮創介(なるみやそうすけ)。  アニメと漫画大好き、大城太志(おおしろたいし)。  マイナーアイドル狂い、音来響(おとぎきょう)。  三人は美術部でありながら絵を描かず、毎日ゆるっと創作レクリエーションに明け暮れていた。  そんな美術部に、廃部の危機が! マネージャーとして新たに加わった女子部員、麻根路屋 乙女(まねじや おとめ)の指導のもと、美術部らしい活動を仕方なくスタート。  が、彼らには自由に創作できない理由(トラウマ)があった。さらに、マネージャーにもある秘密が……。  バカバカしくも苦しみを抱えた、高校生達による青春コメディ。  バカでいいじゃない? 若人だもの。 〈補足〉 ツイッターの「#創作試験問題」の解答をもとに、長編化したものです。元になった解答(ショートショート)はカクヨムにて掲載中(https://kakuyomu.jp/works/1177354054888660025)。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

親友がリア充でモテまくりです。非リアの俺には気持ちが分からない

かがみもち
青春
同じ学年。 同じ年齢。 なのに、俺と親友で、なんでこんなによって来る人が違うんだ?! 俺、高橋敦志(たかはしあつし)は、高校で出会った親友・山内裕太(やまうちゆうた)と学校でもプライベートでも一緒に過ごしている。 のに、彼は、モテまくりで、机に集まるのは、成績優秀の美男美女。 対して、俺は、バカのフツメンかブサメンしか男女共に集まってこない! そして、友情を更に作る可愛い系男子・三石遼太郎(みいしりょうたろう)と、3人で共に、友情とは、青春とは、何なのかを時にぶつかりながら探す、時にほっこり、時に熱い友情青春物語。           ※※※ 驟雨(@Rainshower0705)さんが、表紙、挿絵を描いてくれました。 「ソウルエクスキューター」という漫画をアルファポリスで描いてらっしゃるので是非一度ご覧ください!           ※※※ ノベルアップ+様でも投稿しております。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...