どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その18 ひととき

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  昼休み。鍵は午前中の全ての授業が終わると、ぐんと伸びをした。
  四時限続けての座学となると、流石の身体も疲れ、訛りかけていた。

「さてと、」

  鍵は席から立ち上がると、そのまま教室を後にする。今日も部室で昼食を摂るつもりだった。
  肝心の弁当はあるものの、飲み物だけは用意してなく、鍵はまず最初に自販機へと向かい、その後に部室に寄るのがいつもの流れだった。
  廊下を歩き、階段を下り、中庭を突っ切って、食堂の前まで来ると自販機は目の前にあった。ペットボトルや缶、更にはパックまでの飲料が用意されており、意外にも種類豊富なんだなーと、入学当初は思わされた鍵だ。
  百円硬貨を自販機に投入し、そのまま小さいペットボトルのミルクティーのボタンを押す。ガコン、という音とともに、自販機から選んだペットボトル飲料が降りてきた。
  コーヒーを飲めない鍵にとって、紅茶は最高の友であった。何故かは知らないが、鍵はコーヒーとはかなり相性が悪く、一口飲むだけで吐き気を催すくらいだった。
  そんな中、鍵がコーヒーの次に目をつけたのが、ミルクティー……紅茶だった。高校生になり、急に大人びてコーヒーを飲みたかったのに、飲めなかった鍵だったが、紅茶ならば……と思って飲んでみると、意外とイケる口だったのだ。
  それからというもの、鍵は紅茶を飲むようになり、今では弁当のお供として毎日飲んでいるのだ。

「ケン後輩」

  と、鍵を呼ぶ声。その呼び方をするのは一人と決まっていた。

「どうしたんですか、路世先輩」

  見れば先輩は、缶コーヒーを片手に僕の隣に立っていたのだ。
  その姿は彼女を初めて見る者からすれば、教師と生徒に見えるだろう。それほど、路世先輩のスタイルはとても良い方と言えるだろう。
  ……しかし、僕はそれでも特に何も思わないが。

「まぁちょいと自販機に用があってだね。ケン後輩は今からお昼か?」
「そうですよ。路世先輩はもうご馳走になったんですか?」
「いや、実は俺もまだなんだ。良かったら一緒にどうだ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」

  と、僕は路世先輩に誘われるがままに中庭の方へと向かっていく。そこには、小さなテラスのようなものが準備されていた。木箱のようなものが大小それぞれ数個置いてあり、きっと路世先輩専用の居場所なんだろう。

「さて、お昼にしようか」
「そうですね」

  僕らだけの秘密のテラスで、僕は路世先輩とともにお昼を一緒になるのだった。
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