どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
18 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その18 ひととき

しおりを挟む
  昼休み。鍵は午前中の全ての授業が終わると、ぐんと伸びをした。
  四時限続けての座学となると、流石の身体も疲れ、訛りかけていた。

「さてと、」

  鍵は席から立ち上がると、そのまま教室を後にする。今日も部室で昼食を摂るつもりだった。
  肝心の弁当はあるものの、飲み物だけは用意してなく、鍵はまず最初に自販機へと向かい、その後に部室に寄るのがいつもの流れだった。
  廊下を歩き、階段を下り、中庭を突っ切って、食堂の前まで来ると自販機は目の前にあった。ペットボトルや缶、更にはパックまでの飲料が用意されており、意外にも種類豊富なんだなーと、入学当初は思わされた鍵だ。
  百円硬貨を自販機に投入し、そのまま小さいペットボトルのミルクティーのボタンを押す。ガコン、という音とともに、自販機から選んだペットボトル飲料が降りてきた。
  コーヒーを飲めない鍵にとって、紅茶は最高の友であった。何故かは知らないが、鍵はコーヒーとはかなり相性が悪く、一口飲むだけで吐き気を催すくらいだった。
  そんな中、鍵がコーヒーの次に目をつけたのが、ミルクティー……紅茶だった。高校生になり、急に大人びてコーヒーを飲みたかったのに、飲めなかった鍵だったが、紅茶ならば……と思って飲んでみると、意外とイケる口だったのだ。
  それからというもの、鍵は紅茶を飲むようになり、今では弁当のお供として毎日飲んでいるのだ。

「ケン後輩」

  と、鍵を呼ぶ声。その呼び方をするのは一人と決まっていた。

「どうしたんですか、路世先輩」

  見れば先輩は、缶コーヒーを片手に僕の隣に立っていたのだ。
  その姿は彼女を初めて見る者からすれば、教師と生徒に見えるだろう。それほど、路世先輩のスタイルはとても良い方と言えるだろう。
  ……しかし、僕はそれでも特に何も思わないが。

「まぁちょいと自販機に用があってだね。ケン後輩は今からお昼か?」
「そうですよ。路世先輩はもうご馳走になったんですか?」
「いや、実は俺もまだなんだ。良かったら一緒にどうだ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」

  と、僕は路世先輩に誘われるがままに中庭の方へと向かっていく。そこには、小さなテラスのようなものが準備されていた。木箱のようなものが大小それぞれ数個置いてあり、きっと路世先輩専用の居場所なんだろう。

「さて、お昼にしようか」
「そうですね」

  僕らだけの秘密のテラスで、僕は路世先輩とともにお昼を一緒になるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

バタフライエフェクト

ゆた
青春
ユニット、「炭酸水」は、「ソーダ」というファンがいる。 だが、アイドル業界は、崩壊の一途を辿っていた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

同調、それだけでいいよ

あおなゆみ
青春
 同調と共感。 私が選ぶ、その人はーーー  高二の修学旅行。 そこで逃避を試みた山村沙咲は、あるきっかけから、片想いしていた仁井詩音と夜の街に繰り出す。 それを機に親しくなる二人だったが、仁井が沙咲に近づいたのには、沙咲を支配し続ける中学からの同級生、小路理花子が関わっていた。 さらには、仁井の親友の涼月司が、 「アイツは俺のコピーみたいなところがある。頼むから、アイツが沙咲のことを本気で好きになる前に、俺と付き合ってほしい。俺はアイツから逃れたいんだ」 と、自分は仁井に感情をコピーされ、沙咲への想いも仁井に真似されてしまうと言って告白までしてくる。 自分とは違う司に魅力を感じ、惹かれていくが、それは同時に、仁井と自分は似ていることを気付くきっかけになり・・・  高校卒業後に、沙咲の隣にいるのは誰なのか。 反対に、その後を知ることができなくても、思い出として残したいのは誰なのか。 青春を経て、 「同調、それだけでいいよ」 の意味は変わる。

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!

コウ
青春
またダメ金か、、。 中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。 もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。 [絶対に入らない]そう心に誓ったのに そんな時、屋上から音が聞こえてくる。 吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。

優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!

M・K
青春
久我山颯空。十六歳。  市販の安いブリーチで染め上げた片側ツーブロックの髪型。これ見よがしに耳につけられた銀のピアス。腰まで下ろしたズボン、踵が潰れた上履き。誰もが認めるヤンキー男。  学力は下の下。喧嘩の強さは上の上。目つきも態度も立ち振る舞いまでもが悪い彼が通うのは、言わずと知れた名門・清新学園高等学校。  品行方正、博学卓識な者達ばかりが集まる学校には似つかわしくない存在。それは自他ともに持っている共通認識だった。  ならば、彼はなぜこの学校を選んだのか? それには理由……いや、秘密があった。  渚美琴。十六歳。  颯空と同じ清新学園に通い、クラスまでもが一緒の少女。ただ、その在り方は真逆のものだった。  成績はトップクラス。超が付くほどの美少女。その上、生徒会にまで所属しているという絵にかいたような優等生。  彼女の目標は清新学園の生徒会長になる事。そのため"取り締まり"という名の点数稼ぎに日々勤しんでいた。  交わる事などありえなかった陰と陽の二人。  ひょんな事から、美琴が颯空の秘密を知ってしまった時、物語が動き出す。

へたくそ

MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。 チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。 後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。 3人の視点から物語は進行していきます。 チームメイトたちとの友情と衝突。 それぞれの想い。 主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。 この作品は https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています) 小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS にも掲載しています。

タビスルムスメ

深町珠
青春
乗務員の手記を元にした、楽しい作品です。 現在、九州の旅をしています。現地取材を元にしている、ドキュメントふうのところもあります。 旅先で、いろんな人と出会います。 職業柄、鉄道乗務員ともお友達になります。 出会って、別れます。旅ですね。 日生愛紗:21歳。飫肥出身。バスガイド=>運転士。 石川菜由:21歳。鹿児島出身。元バスガイド。 青島由香:20歳。神奈川出身。バスガイド。 藤野友里恵:20歳。神奈川出身。バスガイド。 日光真由美:19歳。人吉在住。国鉄人吉車掌区、車掌補。 荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。 鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。 坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。 橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。 三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。 松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。

処理中です...