115 / 126
櫞葉公主
しおりを挟む
「ごめんなさいね。別に、貴女が嫌いだとは思ってもなくてよ。」
永寧の秘密裏の出産は無事に終了した。無事と言っても、彼女が無事なだけで、お付きは鏖にされていたのだが。
女の子であった。名を、櫞葉と付けた。
公主の名は、基本、母が付ける。そして、その娘の諱(本名)は、父が決めるのが、この国の習慣だ。
「しかし、上手くつけたことだ。」
この名を深読みすると、永寧大長公主か浮かび上がる。それが分かっていて付けたのだろう。
櫞、という字には、檸檬なる物の意がある。黄色い果物だ。
黄色は、実は下界の皇帝の衣裳に使われる色である。元は黄色ではなかったらしいが、ある者が用いてからは、庶民は畏れ多くて着れない、となり、やがて衣裳は黄色になっていったとか。
葉は、そのまま植物の葉だろう。
倭国に、常盤という色がある。深い緑だ。植物の葉の色らしい。その葉の色は季節が移れども変わらぬことから、「常盤」なのだが、その言葉は、「永久」を連想させなくもない。
皇族で、永の字を持つ女となれば、今のところは、永寧しかいない。
「倭国の色のことなんて、誰も知らないだろうなぁ。」
流石である。永寧は倭国に行きたいと言っていたことがあったので、その為に勉強したのかもしれない。でなければ、中華かぶれのこの国で、倭国の衣裳なんて着ないだろう。
「櫖娵雎」
それが、櫞葉公主に、父である旲瑓が付けた名だった。
名の通り、皇族ではない。つまり、降らせるつもりなのだろう。
名家に降ろされるのだから、苦労はしないだろう。皇族、公主様として生きられなくても、名門のお嬢様としては生きられる。得はしないが、損もしないと思われる。
「櫞葉は、臣籍降下させるの?」
臣籍降下と言うのは、皇族が臣下に降りることを指す。後ろ盾があまり期待出来ない者がする。
臣籍降下したら、皇族に絶対に戻れないわけではないが、あまり外聞は良くなさそうだ。
「違うよ。臣籍降下はさせない。ただ、預けるだけだ。時が来れば、公主として呼び戻すし、あちらにも、公主として、扱う様に伝えるつもりだよ。」
公主、郡主の大半が嫁いてゆく家。それくらいの扱いはなれているだろう。成程。これ以上の家はなさそうだ。
「櫞葉公主?そう。確かにそう仰るのね?」
准后は、女に尋ねた。
圓家は、現在、妃を輩出した家の中では、最も格上。父や稜鸞は沢山の密偵を放っている。それは例外でもなく、永寧大長公主の離宮にもいた。
離宮でお付きが小明とやらを除いて、鏖にされたこと。こっそりと公主を産んだこと。そして、その公主を櫞葉と名付けたこと。
「大義であった。決して、漏らさぬようにな。」
密偵は恭しく頭を下げて、去った。
「はぁ。」
准后は溜め息をつく。
(榮皇后様は御存知かしら。)
あの嫉妬深い榮氏のことだ。もし知っていたら、癇癪を起こしていただろう。何もないのは、まだ知らないことだ。
(皇后には知らせない方が良いだろう。)
知ってしまえば、確実に病んでしまう。永寧大長公主を殺すくらい考えそうだ。親さえ躊躇く殺せる、あの化物は。
「どうすれば良いやら。」
永寧の秘密裏の出産は無事に終了した。無事と言っても、彼女が無事なだけで、お付きは鏖にされていたのだが。
女の子であった。名を、櫞葉と付けた。
公主の名は、基本、母が付ける。そして、その娘の諱(本名)は、父が決めるのが、この国の習慣だ。
「しかし、上手くつけたことだ。」
この名を深読みすると、永寧大長公主か浮かび上がる。それが分かっていて付けたのだろう。
櫞、という字には、檸檬なる物の意がある。黄色い果物だ。
黄色は、実は下界の皇帝の衣裳に使われる色である。元は黄色ではなかったらしいが、ある者が用いてからは、庶民は畏れ多くて着れない、となり、やがて衣裳は黄色になっていったとか。
葉は、そのまま植物の葉だろう。
倭国に、常盤という色がある。深い緑だ。植物の葉の色らしい。その葉の色は季節が移れども変わらぬことから、「常盤」なのだが、その言葉は、「永久」を連想させなくもない。
皇族で、永の字を持つ女となれば、今のところは、永寧しかいない。
「倭国の色のことなんて、誰も知らないだろうなぁ。」
流石である。永寧は倭国に行きたいと言っていたことがあったので、その為に勉強したのかもしれない。でなければ、中華かぶれのこの国で、倭国の衣裳なんて着ないだろう。
「櫖娵雎」
それが、櫞葉公主に、父である旲瑓が付けた名だった。
名の通り、皇族ではない。つまり、降らせるつもりなのだろう。
名家に降ろされるのだから、苦労はしないだろう。皇族、公主様として生きられなくても、名門のお嬢様としては生きられる。得はしないが、損もしないと思われる。
「櫞葉は、臣籍降下させるの?」
臣籍降下と言うのは、皇族が臣下に降りることを指す。後ろ盾があまり期待出来ない者がする。
臣籍降下したら、皇族に絶対に戻れないわけではないが、あまり外聞は良くなさそうだ。
「違うよ。臣籍降下はさせない。ただ、預けるだけだ。時が来れば、公主として呼び戻すし、あちらにも、公主として、扱う様に伝えるつもりだよ。」
公主、郡主の大半が嫁いてゆく家。それくらいの扱いはなれているだろう。成程。これ以上の家はなさそうだ。
「櫞葉公主?そう。確かにそう仰るのね?」
准后は、女に尋ねた。
圓家は、現在、妃を輩出した家の中では、最も格上。父や稜鸞は沢山の密偵を放っている。それは例外でもなく、永寧大長公主の離宮にもいた。
離宮でお付きが小明とやらを除いて、鏖にされたこと。こっそりと公主を産んだこと。そして、その公主を櫞葉と名付けたこと。
「大義であった。決して、漏らさぬようにな。」
密偵は恭しく頭を下げて、去った。
「はぁ。」
准后は溜め息をつく。
(榮皇后様は御存知かしら。)
あの嫉妬深い榮氏のことだ。もし知っていたら、癇癪を起こしていただろう。何もないのは、まだ知らないことだ。
(皇后には知らせない方が良いだろう。)
知ってしまえば、確実に病んでしまう。永寧大長公主を殺すくらい考えそうだ。親さえ躊躇く殺せる、あの化物は。
「どうすれば良いやら。」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する
はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。
スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。
だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。
そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。
勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。
そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。
周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。
素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。
しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。
そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。
『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・
一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
上から王子と底辺令嬢。~押しつけ恋愛、間に合ってます~
若松だんご
恋愛
王太子殿下の花嫁さがし。
十七から二十五歳までの貴族の令嬢はすべて強制参加という、花嫁さがし。ふざけんじゃないわよと思わないでもないけれど、参加しなけりゃ、お家がお取り潰しになると言われちゃ仕方ない。
ギリギリ選考基準に引っかかってしまったからには、落選希望で参加するしかない。
けど、その思惑はひょんなことからハズレてゆき……。
――喜べ!! キサマを最終選考に残してやったぞ!!
どこまでも上から目線。居丈高。高圧的。高飛車。
ふんぞり返って腰に手を当て、ハーハッハッハッと高笑いされて喜ぶヤツがいるだろうか!? いやいない。(反語的表現)
そもそも、私、最終選考に残してくれ、なんてお願いすらしてない。むしろ残すな、解放しろと思ってたぐらいだ。だから、「ありがとう」とも、「感謝します」とも言わない。
淡々と、白けた目で目の前の男を眺めるだけ。もちろん顔は、お面のように無表情。
「なんだ!? うれしすぎて言葉もでないか? ん!?」
いいえ、まったくそんなことはありません。むしろ、残されて迷惑です。
嫌われて、皿の端っこに残されたピーマンやニンジンはこんな気分なんだろうか。
「そうだろう、そうだろう。あれだけの難関をくぐり抜けての最終選考だからな。喜ばぬはずがない」
いやいや。
話、聞いてます!?
今の私、どのへんが喜んでいると?
勝手にウンウンと納得したように頷くなっ!!
「このままいけば王太子妃、つまりはオレの妻になれるのだからな。お前のような令嬢には望外の喜びといったところか」
いえいえ。
どっちかというと青天の霹靂。降って湧いた災難。
疫病神にでも憑りつかれた気分です。
どこをどう見たら、私が候補に選ばれて喜んでいるように見えるのか。
勝手に始まって、勝手に目をつけられた私、アデル。
お願いだから自由にさせてよ、このクソバカ高飛車上から王子!!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる