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夢現
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「もうすぐ、私の人生は、終わるのかしら。」
「最早、妾に出来ることはない。」
二人の女は酒を片手に月を仰ぐ。
「お目覚めですか?貴妃様。」
若い女だ。侍女だろうか。帷が開かれて、明るい日がさす。
「此処は?」
「淑景宮です。何かあったか、覚えていらっしゃいますか?」
榮氏は首を振る。
(あ、でも………)
ずっと頭で繰り返された、義父の声。此処は、淑景宮。隣接する、淑景北宮には、凌氏が幽閉されているはずだ。
(あぁ。妾、もう、駄目かもしれないわ。)
「で?榮貴妃はどうしているの?」
「一度、目を覚まされたようです。でも、今はお休みです。」
「そう。」
永寧大長公主は、優雅に茶を嗜んでいる。小明は、溜息をついた。
「大長公主様が、こんなことをなさるとは思いませんでした。」
「………」
永寧は黙る。
「人生は、ときに、残酷よね。」
「大長公主様?」
それから、永寧は暫く、口を開くことをしなかった。
茶の水面にぼんやりと映る、己の顔を眺めていた。
(酷い顔をしているわね。私。)
自分だって、こんなことをしたくてしている訳ではない。だが、宗室の信頼が失われることになる。それだけは、絶対に、避けたかった。
(ごめんなさいね、榮莉鸞。)
赦して、だなんて、言えない。そんな資格は自分には無いのだと、理解している。
(でもね、これ以外に、とうすれば良いのか、私には、分からないのよ。)
淑景北宮から、度々、呻き声が聞こえる。凌氏のものだろう。
「間違っているかしら、私。」
永寧大長公主は俯く。それを、小明はとめた。
「仕方がない、ですよ。権力者は、時に冷酷にならねばならぬのですから。そう、気を病まないで下さいまし。」
―この娘が言うと、説得力が、あるわね。
そうだ。この娘は、名家である圓家に底辺まで落とされたのだった。
「それより、大長公主様。主上様に、榮莉鸞貴妃様が淑景宮におられること、知られてしまったそうですよ。小耳に挟みました。どうしますか?」
「莉鸞は、淑景宮にいるのかい?それは、本当か!?」
旲瑓は勢い良く立ち上がった。
「すぐに往く。」
車にも輿にも乗らず、身分にも似合わないのに、自ら走って其処へ向かった。
(姉さんに、あれを知らせなければ!)
書庫にあった記録。それを見て、一つ、分かったことがあった。新事実だ。
『莉鸞が見ようとしていたのは、これなのか?』
『相違ありません。』
そうして渡されたのは、嶷煢郡主と旲瑓についての記録だった。
『これを見て、何になるのだ…………』
違う。彼女は、嶷煢はここ最近になってから、夢に見ることになった。
『何か、あるのか?』
「姉さん!」
「え?」
淑景宮に駆け込んだ旲瑓を見て、永寧は目を丸くした。
「どうしたのよ、いったい。」
「莉鸞が、此処に、いるのだろ!?」
永寧は覚悟をした様に、「そうよ」と答えた。
「莉鸞を、離してくれ。頼む。」
「どうしたのよ、いったい!」
やっと息が安定した旲瑓は、懐から、二つの書物を取り出して、永寧に見せた。
「姉さん。龗家が外界にあった頃、なんと名乗っていたか、覚えているかい?」
「えっ。ええと、確か………」
永寧は、何かに気がついたのだろう、目を大きく見開いた。
「凌………家………」
「つまり、龗家と繫がっているはずだ。」
永寧はそれを聞くと、ぷつりと何かが切れてしまった様に、倒れ込んだ。
(私がやったことは、無駄、じゃない………)
「榮氏が、外界に生き残った龗氏の子孫、とねぇ。」
女は呟いた。
「でも、良かったわ。」
「………」
「その女を后にすれば、この御世で、どの家も力を持てなくなるわ。ただし、榮氏とのつ繋がりを公にしてはならないわ。」
「けして許されることではないのよ。」釘を刺した。
「最早、妾に出来ることはない。」
二人の女は酒を片手に月を仰ぐ。
「お目覚めですか?貴妃様。」
若い女だ。侍女だろうか。帷が開かれて、明るい日がさす。
「此処は?」
「淑景宮です。何かあったか、覚えていらっしゃいますか?」
榮氏は首を振る。
(あ、でも………)
ずっと頭で繰り返された、義父の声。此処は、淑景宮。隣接する、淑景北宮には、凌氏が幽閉されているはずだ。
(あぁ。妾、もう、駄目かもしれないわ。)
「で?榮貴妃はどうしているの?」
「一度、目を覚まされたようです。でも、今はお休みです。」
「そう。」
永寧大長公主は、優雅に茶を嗜んでいる。小明は、溜息をついた。
「大長公主様が、こんなことをなさるとは思いませんでした。」
「………」
永寧は黙る。
「人生は、ときに、残酷よね。」
「大長公主様?」
それから、永寧は暫く、口を開くことをしなかった。
茶の水面にぼんやりと映る、己の顔を眺めていた。
(酷い顔をしているわね。私。)
自分だって、こんなことをしたくてしている訳ではない。だが、宗室の信頼が失われることになる。それだけは、絶対に、避けたかった。
(ごめんなさいね、榮莉鸞。)
赦して、だなんて、言えない。そんな資格は自分には無いのだと、理解している。
(でもね、これ以外に、とうすれば良いのか、私には、分からないのよ。)
淑景北宮から、度々、呻き声が聞こえる。凌氏のものだろう。
「間違っているかしら、私。」
永寧大長公主は俯く。それを、小明はとめた。
「仕方がない、ですよ。権力者は、時に冷酷にならねばならぬのですから。そう、気を病まないで下さいまし。」
―この娘が言うと、説得力が、あるわね。
そうだ。この娘は、名家である圓家に底辺まで落とされたのだった。
「それより、大長公主様。主上様に、榮莉鸞貴妃様が淑景宮におられること、知られてしまったそうですよ。小耳に挟みました。どうしますか?」
「莉鸞は、淑景宮にいるのかい?それは、本当か!?」
旲瑓は勢い良く立ち上がった。
「すぐに往く。」
車にも輿にも乗らず、身分にも似合わないのに、自ら走って其処へ向かった。
(姉さんに、あれを知らせなければ!)
書庫にあった記録。それを見て、一つ、分かったことがあった。新事実だ。
『莉鸞が見ようとしていたのは、これなのか?』
『相違ありません。』
そうして渡されたのは、嶷煢郡主と旲瑓についての記録だった。
『これを見て、何になるのだ…………』
違う。彼女は、嶷煢はここ最近になってから、夢に見ることになった。
『何か、あるのか?』
「姉さん!」
「え?」
淑景宮に駆け込んだ旲瑓を見て、永寧は目を丸くした。
「どうしたのよ、いったい。」
「莉鸞が、此処に、いるのだろ!?」
永寧は覚悟をした様に、「そうよ」と答えた。
「莉鸞を、離してくれ。頼む。」
「どうしたのよ、いったい!」
やっと息が安定した旲瑓は、懐から、二つの書物を取り出して、永寧に見せた。
「姉さん。龗家が外界にあった頃、なんと名乗っていたか、覚えているかい?」
「えっ。ええと、確か………」
永寧は、何かに気がついたのだろう、目を大きく見開いた。
「凌………家………」
「つまり、龗家と繫がっているはずだ。」
永寧はそれを聞くと、ぷつりと何かが切れてしまった様に、倒れ込んだ。
(私がやったことは、無駄、じゃない………)
「榮氏が、外界に生き残った龗氏の子孫、とねぇ。」
女は呟いた。
「でも、良かったわ。」
「………」
「その女を后にすれば、この御世で、どの家も力を持てなくなるわ。ただし、榮氏とのつ繋がりを公にしてはならないわ。」
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