99 / 126
夢
しおりを挟む
『本当に、何も知らないのね。』
女は涙した。
(嶷煢郡主の存在を知られてしまったということは、全てが終わってしまう日も、近いのかもしれない。)
今すぐ、彼の記憶から、その名を消してしまいたい。そして、書庫に足を運び、嶷煢郡主についての文献を、抹消してしまいたい。
(許されることなのかしら。)
腹に手をあてて、考える。胸にもやもやとした感情が芽吹いている。
(私の寿命も、もうすぐ尽きてしまう。)
そして、あの日から、もうすぐ十月なのだったと溜息をついた。
「大長公主様~。」
小明が永寧に駆け寄る。
「榮貴妃様に、注意なさってくださいね。女の勘を、舐めたらいけませんよ。」
女の勘。根拠はないが、それよりも恐ろしい物はないかもしれない。
「そうよね。榮貴妃に、ね。」
榮莉鸞貴妃と云う女は、とても嫉妬深い。彼女のものに手を出したと知られれば、癇癪を起こされてしまう。
「避けたいわね、それは。」
榮氏は人間の魂を欲す化物だ。そんなのが、後宮には居るのだ。
(旲瑓が、危ない。)
ひっそりと、誰にも気が付かれることなく、事を済ませなければならない。
(私の離宮に、そんな、口の堅い侍女や従者はいたかしら。)
場合によっては、離宮にいる関係者を全員殺す、なんてことをしなければならないかもしれない。かつて、彼の、廃后がやった様に。
『いいの?』
消えたと思っていたのに。嗚呼、また、あの女の声だ。
「五月蠅い。」
耳を塞ぐ。
『永寧大長公主が何かしてるみたいよ?』
凌氏は、淑景北宮に幽閉されている。榮氏は冷宮に幽閉することを望んだが、建物自体が古かったので、それは却下された。
「何も言うな。」
『まぁ、いいわ。明日、書庫にでも行きなさい。面白いことも分かるかもよ。』
先程から、物音がする。おかしい。此処は、普段、人が足を踏み入れることが少ないはずなのに。
(誰よ?)
榮氏は息を殺す。そして、なんとなく、落ちていた枝を握り締めている。
「誰!」
ガシャン、と大きな音がした。慌てていたのだろうか。
床には、木簡や書物が散らばっている。かなり古そうだった。
「何よこれ。」
榮氏は散らばった書物を拾う。誰ぞ知らないが、人物に対する情報だろう。
「『嶷煢郡主』?誰なのよ。聞いたことないわ。」
隣に落ちていた巻物は、肖像画であった。淡い紫の裙を着た、紅い瞳の女だった。
(誰かに似ている?)
もう一枚、少し新しい巻物があり、それを広げる。それは、旲瑓の肖像画だった。
(あ、やはり。)
誰かに似ていたと思ったら、それは旲瑓らしい。
(同じ絵師が描いたから似ている、だなんてこと、ないのかしら。)
でも、筆使い等、微妙に違う。描いたのは、きっと、別人だ。
(郡主様ってことは、血の繋がっているはず。似ていても、おかしくはないはず。)
それなのに、如何してなのだろう。
手が震えている。冷や汗が流れる。動揺している。
背後から、禍々しい気配がする。振り返ろうとしたら、その瞬間、床に何か金属の物が掠る音がした。
それ以降、何も覚えていない、
女は涙した。
(嶷煢郡主の存在を知られてしまったということは、全てが終わってしまう日も、近いのかもしれない。)
今すぐ、彼の記憶から、その名を消してしまいたい。そして、書庫に足を運び、嶷煢郡主についての文献を、抹消してしまいたい。
(許されることなのかしら。)
腹に手をあてて、考える。胸にもやもやとした感情が芽吹いている。
(私の寿命も、もうすぐ尽きてしまう。)
そして、あの日から、もうすぐ十月なのだったと溜息をついた。
「大長公主様~。」
小明が永寧に駆け寄る。
「榮貴妃様に、注意なさってくださいね。女の勘を、舐めたらいけませんよ。」
女の勘。根拠はないが、それよりも恐ろしい物はないかもしれない。
「そうよね。榮貴妃に、ね。」
榮莉鸞貴妃と云う女は、とても嫉妬深い。彼女のものに手を出したと知られれば、癇癪を起こされてしまう。
「避けたいわね、それは。」
榮氏は人間の魂を欲す化物だ。そんなのが、後宮には居るのだ。
(旲瑓が、危ない。)
ひっそりと、誰にも気が付かれることなく、事を済ませなければならない。
(私の離宮に、そんな、口の堅い侍女や従者はいたかしら。)
場合によっては、離宮にいる関係者を全員殺す、なんてことをしなければならないかもしれない。かつて、彼の、廃后がやった様に。
『いいの?』
消えたと思っていたのに。嗚呼、また、あの女の声だ。
「五月蠅い。」
耳を塞ぐ。
『永寧大長公主が何かしてるみたいよ?』
凌氏は、淑景北宮に幽閉されている。榮氏は冷宮に幽閉することを望んだが、建物自体が古かったので、それは却下された。
「何も言うな。」
『まぁ、いいわ。明日、書庫にでも行きなさい。面白いことも分かるかもよ。』
先程から、物音がする。おかしい。此処は、普段、人が足を踏み入れることが少ないはずなのに。
(誰よ?)
榮氏は息を殺す。そして、なんとなく、落ちていた枝を握り締めている。
「誰!」
ガシャン、と大きな音がした。慌てていたのだろうか。
床には、木簡や書物が散らばっている。かなり古そうだった。
「何よこれ。」
榮氏は散らばった書物を拾う。誰ぞ知らないが、人物に対する情報だろう。
「『嶷煢郡主』?誰なのよ。聞いたことないわ。」
隣に落ちていた巻物は、肖像画であった。淡い紫の裙を着た、紅い瞳の女だった。
(誰かに似ている?)
もう一枚、少し新しい巻物があり、それを広げる。それは、旲瑓の肖像画だった。
(あ、やはり。)
誰かに似ていたと思ったら、それは旲瑓らしい。
(同じ絵師が描いたから似ている、だなんてこと、ないのかしら。)
でも、筆使い等、微妙に違う。描いたのは、きっと、別人だ。
(郡主様ってことは、血の繋がっているはず。似ていても、おかしくはないはず。)
それなのに、如何してなのだろう。
手が震えている。冷や汗が流れる。動揺している。
背後から、禍々しい気配がする。振り返ろうとしたら、その瞬間、床に何か金属の物が掠る音がした。
それ以降、何も覚えていない、
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~
十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
けもみみ幼女、始めました。
暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。
*旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
上から王子と底辺令嬢。~押しつけ恋愛、間に合ってます~
若松だんご
恋愛
王太子殿下の花嫁さがし。
十七から二十五歳までの貴族の令嬢はすべて強制参加という、花嫁さがし。ふざけんじゃないわよと思わないでもないけれど、参加しなけりゃ、お家がお取り潰しになると言われちゃ仕方ない。
ギリギリ選考基準に引っかかってしまったからには、落選希望で参加するしかない。
けど、その思惑はひょんなことからハズレてゆき……。
――喜べ!! キサマを最終選考に残してやったぞ!!
どこまでも上から目線。居丈高。高圧的。高飛車。
ふんぞり返って腰に手を当て、ハーハッハッハッと高笑いされて喜ぶヤツがいるだろうか!? いやいない。(反語的表現)
そもそも、私、最終選考に残してくれ、なんてお願いすらしてない。むしろ残すな、解放しろと思ってたぐらいだ。だから、「ありがとう」とも、「感謝します」とも言わない。
淡々と、白けた目で目の前の男を眺めるだけ。もちろん顔は、お面のように無表情。
「なんだ!? うれしすぎて言葉もでないか? ん!?」
いいえ、まったくそんなことはありません。むしろ、残されて迷惑です。
嫌われて、皿の端っこに残されたピーマンやニンジンはこんな気分なんだろうか。
「そうだろう、そうだろう。あれだけの難関をくぐり抜けての最終選考だからな。喜ばぬはずがない」
いやいや。
話、聞いてます!?
今の私、どのへんが喜んでいると?
勝手にウンウンと納得したように頷くなっ!!
「このままいけば王太子妃、つまりはオレの妻になれるのだからな。お前のような令嬢には望外の喜びといったところか」
いえいえ。
どっちかというと青天の霹靂。降って湧いた災難。
疫病神にでも憑りつかれた気分です。
どこをどう見たら、私が候補に選ばれて喜んでいるように見えるのか。
勝手に始まって、勝手に目をつけられた私、アデル。
お願いだから自由にさせてよ、このクソバカ高飛車上から王子!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる