94 / 126
愛 壱
しおりを挟む
「愛されたいのは、どうして?」
淑景北宮にやっと見つかった榮氏は、ぐったりとしていて、意識もなかった。
手足は縛られ、磔にされている。
(これは、まずい!)
旲瑓は永寧大長公主から預かった剣で、縄を切ってやった。
磔というのは、脱臼等の原因から首が圧迫され、呼吸困難に陥り、死んでしまう、と言う様な話を聞いたことがある。
榮氏は息をしていた。ほっと胸をなでおろす。
(また死んでしまったら、確実に堕獄していただろう。本当に間に合って良かった。)
「大丈夫ですよ、永寧大長公主。此処に来て下さったのですもの。貴女の大切なものは、お返し致します。莉鸞が来た後にね。」
凌氏は美しい衣裳を紅く染めていた。
「誰か、殺したのね?」
「莉鸞を淑景宮に連れて来るのを、見られてしまいましたの。でも、安心です。それは奴婢でしたので。」
―似ている。榮氏と凌氏はそっくりだ。二人とも、血に染められた美しい女だ。そして、狂っている。
「奴婢、なんて虐げる様な言葉、お前、使うのね。貴妃は言っていたわ。『あるはずのない自由や平等を追い求める、愚かな女』だと。」
「莉鸞!莉鸞!起きろ!起きてくれ!」
榮氏はまだ、意識を取り戻さない。顔は青く、身体はとても冷え切っていた。
(此処は、無慈悲な世界だな。)
此処は、本来、普通の人間がいるべきではない。何故なら………
「私ね、莉鸞のこと、嫌いだったの。」
ここまで実子を恨む母親を、永寧は見たことがなかった。いや、自分の母親だってそうだったのか。赤子の永寧の手の腱を切ったのだから。
「だって私、お妃様になりたかったの。」
金持ちとは言え、所詮は成金。身分なんて、どうすることも出来ない。
「夫は優しかったわ。でも、それだけだった。優しいだけの、能無しだったの。だから、結婚生活は単純で、とてもつまらないものだったわ。」
榮家は古く、良い家柄だったが、既に没落していた。だが、それを、凌氏の父が、金銭的な援助をすると言うことで、結婚が成り立ったのだ。
榮家は凌家の財産、凌家は榮家の身分、家柄が目当てだった。
これくらいの政略結婚、よくある話だといい聞かされていた。耳にタコができるくらいに。
「莉鸞はね、私に似ていた。でも、あの小娘は、私が持っていないもの、どんなに望んでも手に入れられなかったものを、普通に持っていた。だから、憎たらしかった。」
家柄のことだろう。金がなくても、身分さえあれば、後宮には入れる。
「優しすぎて、ボンボンな夫にも、嫌気がさしていたの。」
「だから、殺したのね?」
「ええ。ちっとも悲しくなかったわ。だって、私にはもう、愛する人がいたから。莉鸞も懍懍も、生意気だったけど、お嬢サマの莉鸞に比べて、懍懍は可愛げがあった。」
榮莉鸞は、とても舞踊が得意だった。ならば、それを売り飛ばしてしまえば良いと、安易に考えた。金が欲しかった。再婚相手は、貧民だったからか、金などなかった。
「それで、戻って来た、怒り狂った貴妃に殺されたわけね。」
「そうです。」
「それでは、一概に、何方が悪いかは、分からないわ。親を殺した榮氏にも罪はある。だが、娘を売り飛ばしたのも、貴方の罪じゃ、なくて?」
榮氏。凌氏。分かりあえない二人は、同じで台詞を口にした。
『愛されたいのは、どうして?』
淑景北宮にやっと見つかった榮氏は、ぐったりとしていて、意識もなかった。
手足は縛られ、磔にされている。
(これは、まずい!)
旲瑓は永寧大長公主から預かった剣で、縄を切ってやった。
磔というのは、脱臼等の原因から首が圧迫され、呼吸困難に陥り、死んでしまう、と言う様な話を聞いたことがある。
榮氏は息をしていた。ほっと胸をなでおろす。
(また死んでしまったら、確実に堕獄していただろう。本当に間に合って良かった。)
「大丈夫ですよ、永寧大長公主。此処に来て下さったのですもの。貴女の大切なものは、お返し致します。莉鸞が来た後にね。」
凌氏は美しい衣裳を紅く染めていた。
「誰か、殺したのね?」
「莉鸞を淑景宮に連れて来るのを、見られてしまいましたの。でも、安心です。それは奴婢でしたので。」
―似ている。榮氏と凌氏はそっくりだ。二人とも、血に染められた美しい女だ。そして、狂っている。
「奴婢、なんて虐げる様な言葉、お前、使うのね。貴妃は言っていたわ。『あるはずのない自由や平等を追い求める、愚かな女』だと。」
「莉鸞!莉鸞!起きろ!起きてくれ!」
榮氏はまだ、意識を取り戻さない。顔は青く、身体はとても冷え切っていた。
(此処は、無慈悲な世界だな。)
此処は、本来、普通の人間がいるべきではない。何故なら………
「私ね、莉鸞のこと、嫌いだったの。」
ここまで実子を恨む母親を、永寧は見たことがなかった。いや、自分の母親だってそうだったのか。赤子の永寧の手の腱を切ったのだから。
「だって私、お妃様になりたかったの。」
金持ちとは言え、所詮は成金。身分なんて、どうすることも出来ない。
「夫は優しかったわ。でも、それだけだった。優しいだけの、能無しだったの。だから、結婚生活は単純で、とてもつまらないものだったわ。」
榮家は古く、良い家柄だったが、既に没落していた。だが、それを、凌氏の父が、金銭的な援助をすると言うことで、結婚が成り立ったのだ。
榮家は凌家の財産、凌家は榮家の身分、家柄が目当てだった。
これくらいの政略結婚、よくある話だといい聞かされていた。耳にタコができるくらいに。
「莉鸞はね、私に似ていた。でも、あの小娘は、私が持っていないもの、どんなに望んでも手に入れられなかったものを、普通に持っていた。だから、憎たらしかった。」
家柄のことだろう。金がなくても、身分さえあれば、後宮には入れる。
「優しすぎて、ボンボンな夫にも、嫌気がさしていたの。」
「だから、殺したのね?」
「ええ。ちっとも悲しくなかったわ。だって、私にはもう、愛する人がいたから。莉鸞も懍懍も、生意気だったけど、お嬢サマの莉鸞に比べて、懍懍は可愛げがあった。」
榮莉鸞は、とても舞踊が得意だった。ならば、それを売り飛ばしてしまえば良いと、安易に考えた。金が欲しかった。再婚相手は、貧民だったからか、金などなかった。
「それで、戻って来た、怒り狂った貴妃に殺されたわけね。」
「そうです。」
「それでは、一概に、何方が悪いかは、分からないわ。親を殺した榮氏にも罪はある。だが、娘を売り飛ばしたのも、貴方の罪じゃ、なくて?」
榮氏。凌氏。分かりあえない二人は、同じで台詞を口にした。
『愛されたいのは、どうして?』
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる