85 / 126
背徳
しおりを挟む
『お前は、つくづく可哀想な子ね。』
永寧大長公主は、昔のことを思い出していた。それも、二十年以上前のことである。
まだ、自分の兄が父だと、信じて疑わなかった時代だ。
その頃、太后に嫌われていた永寧は、其処で下女の真似事なることをされていた。旲瑓は生まれたばかりだった。
「私ね、当時は、旲瑓のこと、嫌いだったのよ。」
永寧大長公主は言った。
「父親の身分は同じなのに、旲瑓は祝福されて生まれたけれど、私は疎まれたじゃないの。だから、本当は、殺すつもりだったの。」
だが、旲瑓の記憶に残っている、最初の永寧大長公主の姿は、穏やかだった。
青い粗末な襖裙を着て、木でできた簪を挿していた。十二三だったが、とても大人びた印象があった。
「如何してなのでしょうね。分からないわ。でもね、度々貴方を見ているうちに、情が湧いてしまったのだわ。殺せなかったの。」
だから、今、旲瑓がいる訳だが………
「色々あったけれど、私は、今は幸せよ、きっと、ね。」
『吾子に、何をしているの!』
娘が鞭打たれる。ばたりと倒れたのは、十の頃の永寧大長公主だった。
『まさか、毒でも盛ったのじゃないの!!』
永寧大長公主は、いつも怒鳴られていた。泣いていた旲瑓をあやしただけで、それだけのことで殴られたり鞭で打たれたりするのだ。
永寧大長公主のことを、最初は本当に下女だと思っていた。それが、姉だと知ったのは、随分と後。更に、叔母であると知ったのは、十八か十九の頃だった。
『可愛い子ね、お前。』
成人した十五の夜、二十三だった永寧大長公主と床を共にした。
この国の伝統的な儀式のひとつだと知っておきながら、背徳的な気分になった。だが、とても心地よい夜だった。
『人はね、背徳的な部分を何かしら持っているのよ。』
その夜、永寧大長公主が言っていた。姉弟で、そんなことをしていいのかと恥じていた旲瑓に。
それから何年かして、禁忌と知りながらも、永寧大長公主に通っていた。
もう、道理も何も、分かっていたくせに。
永寧大長公主は、昔のことを思い出していた。それも、二十年以上前のことである。
まだ、自分の兄が父だと、信じて疑わなかった時代だ。
その頃、太后に嫌われていた永寧は、其処で下女の真似事なることをされていた。旲瑓は生まれたばかりだった。
「私ね、当時は、旲瑓のこと、嫌いだったのよ。」
永寧大長公主は言った。
「父親の身分は同じなのに、旲瑓は祝福されて生まれたけれど、私は疎まれたじゃないの。だから、本当は、殺すつもりだったの。」
だが、旲瑓の記憶に残っている、最初の永寧大長公主の姿は、穏やかだった。
青い粗末な襖裙を着て、木でできた簪を挿していた。十二三だったが、とても大人びた印象があった。
「如何してなのでしょうね。分からないわ。でもね、度々貴方を見ているうちに、情が湧いてしまったのだわ。殺せなかったの。」
だから、今、旲瑓がいる訳だが………
「色々あったけれど、私は、今は幸せよ、きっと、ね。」
『吾子に、何をしているの!』
娘が鞭打たれる。ばたりと倒れたのは、十の頃の永寧大長公主だった。
『まさか、毒でも盛ったのじゃないの!!』
永寧大長公主は、いつも怒鳴られていた。泣いていた旲瑓をあやしただけで、それだけのことで殴られたり鞭で打たれたりするのだ。
永寧大長公主のことを、最初は本当に下女だと思っていた。それが、姉だと知ったのは、随分と後。更に、叔母であると知ったのは、十八か十九の頃だった。
『可愛い子ね、お前。』
成人した十五の夜、二十三だった永寧大長公主と床を共にした。
この国の伝統的な儀式のひとつだと知っておきながら、背徳的な気分になった。だが、とても心地よい夜だった。
『人はね、背徳的な部分を何かしら持っているのよ。』
その夜、永寧大長公主が言っていた。姉弟で、そんなことをしていいのかと恥じていた旲瑓に。
それから何年かして、禁忌と知りながらも、永寧大長公主に通っていた。
もう、道理も何も、分かっていたくせに。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
【完結】ヒロイン、俺。
ユリーカ
ファンタジー
5/26更新:
この度はご覧いただいてありがとうございます!書きながらなんとなく話の方向性が決まりました。主人公がひたすら穴を掘って無自覚に落ちる話。アホだ。
現在絶賛ハイファンタジーですが、後半はSFファンタジー(と呼べるか)になる予定です。主人公アホのためバカップル(暴力ヒロイン)の展開になりつつありますが引き続きよろしくお願いします。キャラも増えてシリアスパートもあります。
=====================
ゴンドアナと呼ばれる大陸に人族最大の王国・ラトスリアがあった。その王都の、とある伯爵家の寝室でその日、一人の青年が目を覚ました。
俺の名はルキアス。この世界に転生した。
目覚めたのは今朝で自分の立ち位置がよくわからんが勇者、魔導士系は勘弁。キツい!怖い!危険!なのは断固拒否。望むは権力者金持ちのコバンザメ!モブ上等!とにかく危険なしで楽できるキャラだったらいいんだがなぁ
というところから始まります。今朝目覚めたての予備知識なし。真っ白主人公ルキアスが希望を胸に、自分のステータスも何も知らないままにこれから自分の運命に直面。乱立するエンドフラグをベッキベキにへし折っていきます。
ルキアスは無事に新しい修羅の世界で生き残れるのか。どうでしょうかねぇ。無事は無理か。
話がどうなるかまだふわっふわです。進行の過程でタグ修正予定です。頑張って王道SFファンタジーを目指します!
イラストはたろたろ様からお借りしました。ありがとうございます!(加工OK素材のため目の色や髪の色など色を一部変えています)
※ 06話から毎日20時(たまに7時)更新を目標にします。とんでしまったらごめんなさい
※ 短編→長編に訂正しました。失礼いたしました。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
上から王子と底辺令嬢。~押しつけ恋愛、間に合ってます~
若松だんご
恋愛
王太子殿下の花嫁さがし。
十七から二十五歳までの貴族の令嬢はすべて強制参加という、花嫁さがし。ふざけんじゃないわよと思わないでもないけれど、参加しなけりゃ、お家がお取り潰しになると言われちゃ仕方ない。
ギリギリ選考基準に引っかかってしまったからには、落選希望で参加するしかない。
けど、その思惑はひょんなことからハズレてゆき……。
――喜べ!! キサマを最終選考に残してやったぞ!!
どこまでも上から目線。居丈高。高圧的。高飛車。
ふんぞり返って腰に手を当て、ハーハッハッハッと高笑いされて喜ぶヤツがいるだろうか!? いやいない。(反語的表現)
そもそも、私、最終選考に残してくれ、なんてお願いすらしてない。むしろ残すな、解放しろと思ってたぐらいだ。だから、「ありがとう」とも、「感謝します」とも言わない。
淡々と、白けた目で目の前の男を眺めるだけ。もちろん顔は、お面のように無表情。
「なんだ!? うれしすぎて言葉もでないか? ん!?」
いいえ、まったくそんなことはありません。むしろ、残されて迷惑です。
嫌われて、皿の端っこに残されたピーマンやニンジンはこんな気分なんだろうか。
「そうだろう、そうだろう。あれだけの難関をくぐり抜けての最終選考だからな。喜ばぬはずがない」
いやいや。
話、聞いてます!?
今の私、どのへんが喜んでいると?
勝手にウンウンと納得したように頷くなっ!!
「このままいけば王太子妃、つまりはオレの妻になれるのだからな。お前のような令嬢には望外の喜びといったところか」
いえいえ。
どっちかというと青天の霹靂。降って湧いた災難。
疫病神にでも憑りつかれた気分です。
どこをどう見たら、私が候補に選ばれて喜んでいるように見えるのか。
勝手に始まって、勝手に目をつけられた私、アデル。
お願いだから自由にさせてよ、このクソバカ高飛車上から王子!!
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる