恋情を乞う

乙人

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背徳

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『お前は、つくづく可哀想な子ね。』

 永寧大長公主は、昔のことを思い出していた。それも、二十年以上前のことである。
 まだ、自分の兄が父だと、信じて疑わなかった時代だ。
 その頃、太后に嫌われていた永寧は、其処で下女の真似事なることをされていた。旲瑓は生まれたばかりだった。
「私ね、当時は、旲瑓のこと、嫌いだったのよ。」
 永寧大長公主は言った。
「父親の身分は同じなのに、旲瑓は祝福されて生まれたけれど、私は疎まれたじゃないの。だから、本当は、殺すつもりだったの。」
 だが、旲瑓の記憶に残っている、最初の永寧大長公主の姿は、穏やかだった。
 青い粗末な襖裙を着て、木でできた簪を挿していた。十二三だったが、とても大人びた印象があった。
「如何してなのでしょうね。分からないわ。でもね、度々貴方を見ているうちに、情が湧いてしまったのだわ。殺せなかったの。」
 だから、今、旲瑓がいる訳だが………
「色々あったけれど、私は、今は幸せよ、きっと、ね。」

『吾子に、何をしているの!』
 娘が鞭打たれる。ばたりと倒れたのは、十の頃の永寧大長公主だった。
『まさか、毒でも盛ったのじゃないの!!』
 永寧大長公主は、いつも怒鳴られていた。泣いていた旲瑓をあやしただけで、それだけのことで殴られたり鞭で打たれたりするのだ。
 永寧大長公主のことを、最初は本当に下女だと思っていた。それが、姉だと知ったのは、随分と後。更に、叔母であると知ったのは、十八か十九の頃だった。

『可愛い子ね、お前。』
 成人した十五の夜、二十三だった永寧大長公主と床を共にした。
 この国の伝統的な儀式のひとつだと知っておきながら、背徳的な気分になった。だが、とても心地よい夜だった。
『人はね、背徳的な部分を何かしら持っているのよ。』
 その夜、永寧大長公主が言っていた。姉弟で、そんなことをしていいのかと恥じていた旲瑓に。
 それから何年かして、禁忌と知りながらも、永寧大長公主に通っていた。
 もう、道理も何も、分かっていたくせに。
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