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凌貴人はほくそ笑んだ。
榮氏に復讐をしようとして、思いついたのだ。
榮莉鸞が一番大切に想っているのは、旲瑓だ。多分、恋をしている。ただ、それが虚しく散るのだと、彼女は分かっているだろう。だから、旲瑓を見る眼差しは、とても寂しげなものだった。
旲瑓が一番大切に想っているのは、榮莉鸞ではない。
他の妃よりは、思い入れがあるのだろう。下界から態々、本人が拾って来たらしい。
では、旲瑓が大切にしているのは、誰だろう。
「ご機嫌麗しゅう、俐才人様。」
その日、凌氏は、俐才人の元に呼ばれていた。俐才人は、圓寳闐賢妃の宮の一部に暮らしている。
「貴女は、何か得意なものはあるの?」
「琵琶が得意ですわ。」
俐才人が手を叩くと、侍女が琵琶を抱えてやって来た。
凌貴人はそれを受け取る。そして、それを弾いた。
(やっぱりそうだわ。)
榮氏の得意な曲と、同じだった。それに仕草や癖も、全く同じ。他人にそんなの、有り得るのだろうか。
(しかし、母娘なら、どうだろう。)
母娘で、凌氏が榮氏に琵琶を手ほどきしたならば、癖がそっくりなのも、頷ける。
凌氏には、不思議に思ったことがある。
唯一男御子を産んだ、稜鸞は、何故后にならないのかと。
(普通ならば、立后するはずよ。)
その従姉妹が賢妃-今の後宮では、榮氏に次ぐ-がいるからだろうか。
(何か、理由、あるのかしら。)
「ご機嫌麗しゅう、圓昭儀様。」
凌氏は圓稜鸞の元を訪れた。
「御機嫌よう、凌貴人。頭をあげなさい。」
稜鸞は凌氏に席に座るように促す。
「昭儀様の御子様は、男御子でおられましたわね、確か、璙寍皇子とおっしゃいまきた。」
「そうね。」
「貴方様は、唯一男御子をお産みになった方。家柄も身分も申し分ない。なのに、如何して、后にはならないのですか?」
うぅんと唸る稜鸞。野心がある人間ならば、不満があるはずだ。
「后になりたかったわ。でもね、そうしたら、圓家出身の妃が二人も上位にいることになるわ。龗家は、圓家にはあまり力を持って欲しくないと思うの。それに、主上(旲瑓)は、わたくしよりも、寳闐の方を大切になさっているわ。あの人は野心も何もないからね。」
「主上の一番大切な方は誰なのでしょうか。」
すると、稜鸞は開けずに答えた。
「龗珞燁様。永寧大長公主様よ。」
-永寧大長公主様よ。
その台詞に、違和感がした。大切な人、と言って、叔母が出てくるのは、変なことではない。身内として敬愛しているのかもしれない。
しかし、凌氏は、恋愛感情を持つ『大切にしている人』という意味で言った。稜鸞もそれに答えた。
榮氏は、旲瑓を想っている。旲瑓は、永寧大長公主を想っている。
凌氏は実の娘である榮氏が嫌いだ。報復したいと思っている。
あの話が本当ならば、榮氏をもう一度殺す代わりに、永寧大長公主を殺害してしまおう。そうすれば、旲瑓も悲しがるだろう。純粋なあの子だ、閉じこもってしまうかもしれない。そして、榮莉鸞は、構ってもらえず、孤独を味わうだろう。
(面白そうね。)
白い帷を開くと、陽の光が差し込んできた。眩しい。腹を抱えた女が、空を仰いでいた。
榮氏に復讐をしようとして、思いついたのだ。
榮莉鸞が一番大切に想っているのは、旲瑓だ。多分、恋をしている。ただ、それが虚しく散るのだと、彼女は分かっているだろう。だから、旲瑓を見る眼差しは、とても寂しげなものだった。
旲瑓が一番大切に想っているのは、榮莉鸞ではない。
他の妃よりは、思い入れがあるのだろう。下界から態々、本人が拾って来たらしい。
では、旲瑓が大切にしているのは、誰だろう。
「ご機嫌麗しゅう、俐才人様。」
その日、凌氏は、俐才人の元に呼ばれていた。俐才人は、圓寳闐賢妃の宮の一部に暮らしている。
「貴女は、何か得意なものはあるの?」
「琵琶が得意ですわ。」
俐才人が手を叩くと、侍女が琵琶を抱えてやって来た。
凌貴人はそれを受け取る。そして、それを弾いた。
(やっぱりそうだわ。)
榮氏の得意な曲と、同じだった。それに仕草や癖も、全く同じ。他人にそんなの、有り得るのだろうか。
(しかし、母娘なら、どうだろう。)
母娘で、凌氏が榮氏に琵琶を手ほどきしたならば、癖がそっくりなのも、頷ける。
凌氏には、不思議に思ったことがある。
唯一男御子を産んだ、稜鸞は、何故后にならないのかと。
(普通ならば、立后するはずよ。)
その従姉妹が賢妃-今の後宮では、榮氏に次ぐ-がいるからだろうか。
(何か、理由、あるのかしら。)
「ご機嫌麗しゅう、圓昭儀様。」
凌氏は圓稜鸞の元を訪れた。
「御機嫌よう、凌貴人。頭をあげなさい。」
稜鸞は凌氏に席に座るように促す。
「昭儀様の御子様は、男御子でおられましたわね、確か、璙寍皇子とおっしゃいまきた。」
「そうね。」
「貴方様は、唯一男御子をお産みになった方。家柄も身分も申し分ない。なのに、如何して、后にはならないのですか?」
うぅんと唸る稜鸞。野心がある人間ならば、不満があるはずだ。
「后になりたかったわ。でもね、そうしたら、圓家出身の妃が二人も上位にいることになるわ。龗家は、圓家にはあまり力を持って欲しくないと思うの。それに、主上(旲瑓)は、わたくしよりも、寳闐の方を大切になさっているわ。あの人は野心も何もないからね。」
「主上の一番大切な方は誰なのでしょうか。」
すると、稜鸞は開けずに答えた。
「龗珞燁様。永寧大長公主様よ。」
-永寧大長公主様よ。
その台詞に、違和感がした。大切な人、と言って、叔母が出てくるのは、変なことではない。身内として敬愛しているのかもしれない。
しかし、凌氏は、恋愛感情を持つ『大切にしている人』という意味で言った。稜鸞もそれに答えた。
榮氏は、旲瑓を想っている。旲瑓は、永寧大長公主を想っている。
凌氏は実の娘である榮氏が嫌いだ。報復したいと思っている。
あの話が本当ならば、榮氏をもう一度殺す代わりに、永寧大長公主を殺害してしまおう。そうすれば、旲瑓も悲しがるだろう。純粋なあの子だ、閉じこもってしまうかもしれない。そして、榮莉鸞は、構ってもらえず、孤独を味わうだろう。
(面白そうね。)
白い帷を開くと、陽の光が差し込んできた。眩しい。腹を抱えた女が、空を仰いでいた。
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