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「珞燁、貴女、どうするつもりなの?」
璡姚が肩を強く掴んでいる。眼差しは、いつになく真剣だ。
「龗家は終わってしまうのかしら。」
永寧大長公主は、急遽、旲瑓の宮の寝所に運ばれていた。大騒ぎするわけにはいかなかった。決して、バレてはならないことだから。
「無理をしたんだね。」
旲瑓は白湯を持って来てくれた。そんなこと、侍女にでもやらせれば良いのに、態々。
旲瑓も、その周りの者も、永寧大長公主が倒れたのは、過労から来る疲れだと思っている。実際は違うが、とても、都合の良い勘違いをしてくれている。
「そうかしら。」
永寧大長公主は白湯を受け取り、啜る。温かかった。それで、食事もそこそこにしていてことも思い出した。それでは倒れてしまうのも、頷けた。
「ごめんなさい、ごめんなさいね。貴方、今、忙しいはずなのに。」
これは、甘えだ。やってはいけない。それを許される立場にはいない。それを、自分が望んだ。
「私はあと一年しか生きれないから…………」
ぼそりと、呟く。聞こえたか聞こえなかったかは、分からない。
「だから、自分の手で、なんとか、したいのよ。」
誰もいなくなった、旲瑓の宮。永寧大長公主はこっそりと其処を抜け出す。しんと静かで、物寂しい。
「廃后。」
不名誉な呼び名に、魖菫児は顔を上げる。闉黤賢妃はまだ目を覚まさない。首をつったと聞いた。
「魖家の謀反について、お前は、どう思うの?」
「唐突ね。」
不機嫌だ。それに、疲れきった顔をしている。ずっと軟禁されている。姪っ子は首をつって意識を失っている。永寧だったら、思考を放棄したくなる。
「知らなかったわ、そんなこと。魖家が龗家を恨んでいたことしか、知らないもの。」
龗家を恨んでいることは、知っていた。迫害されたのだから、仕方がない。だが、魖菫児には、他の目的もあるのではないかと、思ってしまう。
魖菫児廃后の母は、郡主だ。名は忘れたが、圓寳闐の母、七寚郡主と似た名だった。彼女は勿論、龗家の出身だ。
ならば、疑問も生まれた。何故、母の実家である龗家を恨むのかと。
魖菫児が太后の位を与えられたのは、母が郡主であったこともあるが、それと同時に、龗家が迫害してしまった魖家に対する償いでもあった。名誉を回復させるためだったのだ。
彼女は、それを棒に振った。名誉はまた、地に堕ちた。それは、彼女の意思だったのだろうか。それとも、魖家のしたことだったのだろうか。
どちらにしろ、魖菫児は死刑だ。それは、変わらない。旲瑓は渋っている。ならば、自分がそれを受け持とう。そうすれば、彼は母親殺しの罪を背負わなくて済む。どうせ、自分は、あと一年の生命なのだから。
「これが、何か分かる?」
永寧大長公主は懐から小瓶を取り出す。
「砒素というのよ。」
璡姚が肩を強く掴んでいる。眼差しは、いつになく真剣だ。
「龗家は終わってしまうのかしら。」
永寧大長公主は、急遽、旲瑓の宮の寝所に運ばれていた。大騒ぎするわけにはいかなかった。決して、バレてはならないことだから。
「無理をしたんだね。」
旲瑓は白湯を持って来てくれた。そんなこと、侍女にでもやらせれば良いのに、態々。
旲瑓も、その周りの者も、永寧大長公主が倒れたのは、過労から来る疲れだと思っている。実際は違うが、とても、都合の良い勘違いをしてくれている。
「そうかしら。」
永寧大長公主は白湯を受け取り、啜る。温かかった。それで、食事もそこそこにしていてことも思い出した。それでは倒れてしまうのも、頷けた。
「ごめんなさい、ごめんなさいね。貴方、今、忙しいはずなのに。」
これは、甘えだ。やってはいけない。それを許される立場にはいない。それを、自分が望んだ。
「私はあと一年しか生きれないから…………」
ぼそりと、呟く。聞こえたか聞こえなかったかは、分からない。
「だから、自分の手で、なんとか、したいのよ。」
誰もいなくなった、旲瑓の宮。永寧大長公主はこっそりと其処を抜け出す。しんと静かで、物寂しい。
「廃后。」
不名誉な呼び名に、魖菫児は顔を上げる。闉黤賢妃はまだ目を覚まさない。首をつったと聞いた。
「魖家の謀反について、お前は、どう思うの?」
「唐突ね。」
不機嫌だ。それに、疲れきった顔をしている。ずっと軟禁されている。姪っ子は首をつって意識を失っている。永寧だったら、思考を放棄したくなる。
「知らなかったわ、そんなこと。魖家が龗家を恨んでいたことしか、知らないもの。」
龗家を恨んでいることは、知っていた。迫害されたのだから、仕方がない。だが、魖菫児には、他の目的もあるのではないかと、思ってしまう。
魖菫児廃后の母は、郡主だ。名は忘れたが、圓寳闐の母、七寚郡主と似た名だった。彼女は勿論、龗家の出身だ。
ならば、疑問も生まれた。何故、母の実家である龗家を恨むのかと。
魖菫児が太后の位を与えられたのは、母が郡主であったこともあるが、それと同時に、龗家が迫害してしまった魖家に対する償いでもあった。名誉を回復させるためだったのだ。
彼女は、それを棒に振った。名誉はまた、地に堕ちた。それは、彼女の意思だったのだろうか。それとも、魖家のしたことだったのだろうか。
どちらにしろ、魖菫児は死刑だ。それは、変わらない。旲瑓は渋っている。ならば、自分がそれを受け持とう。そうすれば、彼は母親殺しの罪を背負わなくて済む。どうせ、自分は、あと一年の生命なのだから。
「これが、何か分かる?」
永寧大長公主は懐から小瓶を取り出す。
「砒素というのよ。」
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