69 / 126
毒
しおりを挟む
魖家は終わる。じきに、力を失って、消えてなくなってしまう。
太后は、何も考えたくなかった。
「菫児も、可哀想な女だったんだな………」
妟纛は哀愁漂う雰囲気で、外の景色を眺めている。
「手駒として、使われていたのだから。」
殆どの妃嬪達は、そうだろう。代表的な人を言うと、圓寳闐等。
圓寳闐徳妃が、太后の従姉妹にあたると知って、吃驚した。二人の母親は、年の離れた姉妹だったそうだ。
罪もなく、家も違うが、太后と血縁関係があるため、申し訳ないが、位を一つ、下げさせて貰った。つまり、圓徳妃から、圓賢妃に戻ったわけである。
魖太后と魖賢妃の位は廃させた。また、魖家の領地は取り上げ、龗家の領地にすることを検討している。
その、全てを決めたのは、永寧大長公主だ。この人は、女にしておくのが勿体無い程、有能だ。期限付きというらしいが、このまま東宮でいるのが良いのだと思ってしまう。
だが、それは、出来ないことだった。
「永寧大長公主様!」
しゃがみ込んだ永寧大長公主を、小明が心配して、駆け寄る。
「また、無理をしたんですね。」
旲瑓もやって来て、上着を永寧大長公主に掛けてやる。
「如何したの、姉さ……………」
永寧大長公主は倒れてしまった。
『愚かな女ね。』
背後から、声がした。振り返ると、若き頃の太后がいる。
『その腹は、如何したの?』
永寧大長公主は腹を庇うように、手を前に組む。厚着をしていたから、バレないと思っていたのに…………
『い、卑しい女には、言われとうないわ。』
『でも、お前は、身分を弁えることが出来ない、うつけじゃないの。減らず口を叩くんじゃないよ!』
五十歩百歩だが、口争いを、暫く続けていた。
『魖廃后。』
新しく決められた、太后の呼び名だ。とても、不名誉な名である。
『旲瑓は、お前の子では、ないわね?』
魖廃后が目を見開く。
『旲瑓の父親は、確かに皇族。だけれど、末流だったみたいね。だから、本当は旲瑓は皇族と呼ぶべき人じゃない。』
淡々と、永寧大長公主は話を続ける。
『それでね、旲瑓が生まれた年、とある皇族から、男の子が盗まれた、と記録があるの。それが、旲瑓ね。』
良かったわね、と永寧大長公主は笑う。
『旲瑓が茶毛に、紅い瞳を持っていて。あれだけ血が離れていれば、とうに薄れても変じゃないのよ。』
男御子や公主でも、母の身分が低かったりすると、紅い瞳や茶色の毛を持たない場合もある。ただ、その場合は、皇位を引き継ぐことは出来ない。女帝璡姚の血が薄いということとなるからだ。
旲瑓のことを調べていたら、わかった。彼の父親は皇族としては末席だが、旲瑓の母親が、落ちぶれた郡主だった。夫を亡くした彼女を拾って、こっそりと妻とした。同じ龗家の人間なため、結婚は、本来出来ないはずなのに。
『私と旲瑓は、血は繋がっていようとも、近くない。』
それに、似たもの同士だ。
父と母は、何かしらの禁忌をおかしている。そして、その末に生まれた子が、永寧大長公主であり、旲瑓である。
『私は愚かな女ではない。』
永寧大長公主はまっすぐと廃后を見つめる。
(姉さん、ごめん。)
旲瑓は一人、自室にいた。
(貴女だけに、手を汚させるんだね。)
その手には、小さな瓶があった。
『主上。これを、廃后様に飲ませてくださいな?死んじゃうから。』
そう、赤い女官服を着た永寧大長公主の侍女、小明に手渡された。
そして、こう、言われた。
『砒素ですよ?』
それを、受け取ってしまった。太后をどうするかは、旲瑓の意思次第だ。
今更、犯した禁忌を贖えるのだろうか。だが、少しでも、罪が軽くなるならば-
太后は、何も考えたくなかった。
「菫児も、可哀想な女だったんだな………」
妟纛は哀愁漂う雰囲気で、外の景色を眺めている。
「手駒として、使われていたのだから。」
殆どの妃嬪達は、そうだろう。代表的な人を言うと、圓寳闐等。
圓寳闐徳妃が、太后の従姉妹にあたると知って、吃驚した。二人の母親は、年の離れた姉妹だったそうだ。
罪もなく、家も違うが、太后と血縁関係があるため、申し訳ないが、位を一つ、下げさせて貰った。つまり、圓徳妃から、圓賢妃に戻ったわけである。
魖太后と魖賢妃の位は廃させた。また、魖家の領地は取り上げ、龗家の領地にすることを検討している。
その、全てを決めたのは、永寧大長公主だ。この人は、女にしておくのが勿体無い程、有能だ。期限付きというらしいが、このまま東宮でいるのが良いのだと思ってしまう。
だが、それは、出来ないことだった。
「永寧大長公主様!」
しゃがみ込んだ永寧大長公主を、小明が心配して、駆け寄る。
「また、無理をしたんですね。」
旲瑓もやって来て、上着を永寧大長公主に掛けてやる。
「如何したの、姉さ……………」
永寧大長公主は倒れてしまった。
『愚かな女ね。』
背後から、声がした。振り返ると、若き頃の太后がいる。
『その腹は、如何したの?』
永寧大長公主は腹を庇うように、手を前に組む。厚着をしていたから、バレないと思っていたのに…………
『い、卑しい女には、言われとうないわ。』
『でも、お前は、身分を弁えることが出来ない、うつけじゃないの。減らず口を叩くんじゃないよ!』
五十歩百歩だが、口争いを、暫く続けていた。
『魖廃后。』
新しく決められた、太后の呼び名だ。とても、不名誉な名である。
『旲瑓は、お前の子では、ないわね?』
魖廃后が目を見開く。
『旲瑓の父親は、確かに皇族。だけれど、末流だったみたいね。だから、本当は旲瑓は皇族と呼ぶべき人じゃない。』
淡々と、永寧大長公主は話を続ける。
『それでね、旲瑓が生まれた年、とある皇族から、男の子が盗まれた、と記録があるの。それが、旲瑓ね。』
良かったわね、と永寧大長公主は笑う。
『旲瑓が茶毛に、紅い瞳を持っていて。あれだけ血が離れていれば、とうに薄れても変じゃないのよ。』
男御子や公主でも、母の身分が低かったりすると、紅い瞳や茶色の毛を持たない場合もある。ただ、その場合は、皇位を引き継ぐことは出来ない。女帝璡姚の血が薄いということとなるからだ。
旲瑓のことを調べていたら、わかった。彼の父親は皇族としては末席だが、旲瑓の母親が、落ちぶれた郡主だった。夫を亡くした彼女を拾って、こっそりと妻とした。同じ龗家の人間なため、結婚は、本来出来ないはずなのに。
『私と旲瑓は、血は繋がっていようとも、近くない。』
それに、似たもの同士だ。
父と母は、何かしらの禁忌をおかしている。そして、その末に生まれた子が、永寧大長公主であり、旲瑓である。
『私は愚かな女ではない。』
永寧大長公主はまっすぐと廃后を見つめる。
(姉さん、ごめん。)
旲瑓は一人、自室にいた。
(貴女だけに、手を汚させるんだね。)
その手には、小さな瓶があった。
『主上。これを、廃后様に飲ませてくださいな?死んじゃうから。』
そう、赤い女官服を着た永寧大長公主の侍女、小明に手渡された。
そして、こう、言われた。
『砒素ですよ?』
それを、受け取ってしまった。太后をどうするかは、旲瑓の意思次第だ。
今更、犯した禁忌を贖えるのだろうか。だが、少しでも、罪が軽くなるならば-
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。
トロ猫
ファンタジー
仕事をやめ、なんとなく稼ぎながら暮らしていた白川エマ(39)は、買い物帰りに偶然道端で出会った虐待された少年と共に異世界に飛ばされてしまう。
謎の光に囲まれ、目を開けたら周りは銀世界。
「え?ここどこ?」
コスプレ外国人に急に向けられた剣に戸惑うも一緒に飛ばされた少年を守ろうと走り出すと、ズボンが踝まで落ちてしまう。
――え? どうして
カクヨムにて先行しております。
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
DNAの改修者
kujibiki
ファンタジー
転生させられた世界は、男性が少なく、ほとんどの女性は男性と触れ合ったことも無い者ばかり…。
子孫は体外受精でしか残せない世界でした。
人として楽しく暮らせれば良かっただけなのに、女性を助ける使命?を与えられることになった“俺”の新たな日常が始まる。(使命は当分始まらないけれど…)
他サイトから急遽移すことになりました。後半R18になりそうなので、その時になれば前もってお知らせいたします。
※日常系でとってもスローな展開となります。
『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する
はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。
スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。
だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。
そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。
勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。
そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。
周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。
素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。
しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。
そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。
『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・
一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる