恋情を乞う

乙人

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 魖家は終わる。じきに、力を失って、消えてなくなってしまう。
 太后は、何も考えたくなかった。

「菫児も、可哀想な女だったんだな………」
 妟纛は哀愁漂う雰囲気で、外の景色を眺めている。
「手駒として、使われていたのだから。」
 殆どの妃嬪達は、そうだろう。代表的な人を言うと、圓寳闐等。
 圓寳闐徳妃が、太后の従姉妹にあたると知って、吃驚した。二人の母親は、年の離れた姉妹だったそうだ。
 罪もなく、家も違うが、太后と血縁関係があるため、申し訳ないが、位を一つ、下げさせて貰った。つまり、圓徳妃から、圓賢妃に戻ったわけである。
 魖太后と魖賢妃の位は廃させた。また、魖家の領地は取り上げ、龗家の領地にすることを検討している。
 その、全てを決めたのは、永寧大長公主だ。この人は、女にしておくのが勿体無い程、有能だ。期限付きというらしいが、このまま東宮でいるのが良いのだと思ってしまう。
 だが、それは、出来ないことだった。

「永寧大長公主様!」
 しゃがみ込んだ永寧大長公主を、小明が心配して、駆け寄る。
「また、無理をしたんですね。」
 旲瑓もやって来て、上着を永寧大長公主に掛けてやる。
「如何したの、姉さ……………」
 永寧大長公主は倒れてしまった。

『愚かな女ね。』
 背後から、声がした。振り返ると、若き頃の太后がいる。
『その腹は、如何したの?』
 永寧大長公主は腹を庇うように、手を前に組む。厚着をしていたから、バレないと思っていたのに…………
『い、卑しい女には、言われとうないわ。』
『でも、お前は、身分を弁えることが出来ない、うつけじゃないの。減らず口を叩くんじゃないよ!』
 五十歩百歩だが、口争いを、暫く続けていた。
『魖廃后。』
 新しく決められた、太后の呼び名だ。とても、不名誉な名である。
『旲瑓は、お前の子では、ないわね?』
 魖廃后が目を見開く。
『旲瑓の父親は、確かに皇族。だけれど、末流だったみたいね。だから、本当は旲瑓は皇族と呼ぶべき人じゃない。』
 淡々と、永寧大長公主は話を続ける。
『それでね、旲瑓が生まれた年、とある皇族から、男の子が盗まれた、と記録があるの。それが、旲瑓ね。』
 良かったわね、と永寧大長公主は笑う。
『旲瑓が茶毛に、紅い瞳を持っていて。あれだけ血が離れていれば、とうに薄れても変じゃないのよ。』
 男御子や公主でも、母の身分が低かったりすると、紅い瞳や茶色の毛を持たない場合もある。ただ、その場合は、皇位を引き継ぐことは出来ない。女帝璡姚の血が薄いということとなるからだ。
 旲瑓のことを調べていたら、わかった。彼の父親は皇族としては末席だが、旲瑓の母親が、落ちぶれた郡主だった。夫を亡くした彼女を拾って、こっそりと妻とした。同じ龗家の人間なため、結婚は、本来出来ないはずなのに。
『私と旲瑓は、血は繋がっていようとも、近くない。』
 それに、似たもの同士だ。
 父と母は、何かしらの禁忌をおかしている。そして、その末に生まれた子が、永寧大長公主であり、旲瑓である。
『私は愚かな女ではない。』
 永寧大長公主はまっすぐと廃后を見つめる。

(姉さん、ごめん。)
 旲瑓は一人、自室にいた。
(貴女だけに、手を汚させるんだね。)
 その手には、小さな瓶があった。
『主上。これを、廃后様に飲ませてくださいな?死んじゃうから。』
 そう、赤い女官服を着た永寧大長公主の侍女、小明に手渡された。
 そして、こう、言われた。
『砒素ですよ?』
 それを、受け取ってしまった。太后をどうするかは、旲瑓の意思次第だ。

 今更、犯した禁忌を贖えるのだろうか。だが、少しでも、罪が軽くなるならば-
 
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