恋情を乞う

乙人

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 偽りで塗り固められた国だ、と、魖氏は思った。

 先帝である、龗妟纛は、歳を誤魔化して生きて来た。噂では、それは四つか五つらしいが。
 永寧大長公主と妟纛の歳の差が、おかしいと思っていたが、どちらかが歳を誤魔化していたならば、と考えた。
 妟纛が表舞台に出てきたのは、今から三十六年前。だから、三十六歳で通せるのだろう。
 四十年前に、一人の公主がいた。その公主は四つになる頃には、死んでいる。後宮での陰謀に巻き込まれて、殺害されたと伝えられている。
 言ってしまおう、気がついた。これが、先帝だ。妟纛だ。
 それに、面白い話を聴いたことがある。

 四十年程前のことである。
 御代は先々帝の頃。後宮は今よりも広大で、妃も多く、倍程はいたのではないか。そして、先々帝の御子も数多といた。
 妟纛は四男だった。上には、かなり歳の離れた兄が三人いた。
 妟纛の母はユー昭儀。後に太皇太后が贈られたとは言え、所詮は地方役人の家で、家格は低かったため、四人の中で、一番位に遠かった。はずだった。
 長男の母は嫉妬深く、今までに何人もの御子を産まれる前に殺してしまっていた。そして、生まれた後にも手を回し、殺そうとするので、瑜昭儀は息子を、先々帝や宗室の人間にだけ伝え、こっそり、公主として育てさせた。
 璡姚しんよう公主と呼ばれていた。物語にもなっている建国の少女と同じ名だ。
 妟纛-璡姚公主-は幸い、女の子の様に愛らしい顔立ちで、年の割に成長が遅かった。十二の頃に、八で通せた程に。
 璡姚公主が四歳になった頃、後継ぎ争いが起こった。三人の兄達、それと、その外戚達によるものだった。
 結果を言えば、共倒れをし、兄達はそれぞれ下界に流罪となり、外戚は失脚した。外戚は殆どが権門だった。いくつもの家で櫖家を抑えていたのだが、それもなくなり、櫖家の世の中となった。
 表向き、璡姚公主が薨去した。
 妟纛が生まれた。いや、生まれたことになった。
 瑜家縁の皇子を、世間はなかなか認めてはくれなかった。
 瑜家は、前王朝の皇族だった。
 ひっそりと生きて来た瑜家はある時から役人となり、遂にこの御代には、妃嬪を送り込んだ。
 妟纛は苦労して生きていただろう。
 毎日刺客に襲われたりした。
 先帝が公主として生きて来たと言うのは、まるで御伽噺だが、事実は小説よりも奇なりと申すようで、本当にあったことだった。

 宗室である龗家は、偽りだらけ。
 魖氏は笑った。
 妟纛の歳、妟纛の幼少期、永寧大長公主の父、永寧大長公主の身分、今上である旲瑓の父母、旲瑓の身分。
 短い間で、これだけの嘘に気がついた。まだあるのでは、と下衆なことを考えた。
(あと、どれくらい持つのかしら。)
 それはそれで面白いと思った。
「人はともあれ、我が身さえ富貴ならば。人間、そんなもんよね。」
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