恋情を乞う

乙人

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戯言

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 遠い國の昔話を致しましょう。
 ある妃嬪が言った。

 一人の姫宮がおりました。
 その姫宮は、義母に疎まれ、婚期を逃してしまいました。
 その姫宮は大層お悲しみになりました。
 その姫宮には、彼の義母が産んだ弟がいました。歳は十近く離れた弟でした。
 身体の弱い弟を助けているうちに、ふと、愛着が湧いてしまい、また、それが別の感情に変わってしまいました。それは、禁忌で御座いました。
 その姫宮は、弟が位を父宮から受け継いだ日、とても裏切られた気がしたそうです。後宮に、沢山の姫君が入って来ました。
 姫宮は、弟の補佐になりました。それも、弟が望んだことでした。姫宮は大層お喜びになりました。婚期を逃したことも、全て忘れられました。
 姫宮は賢しいお人で、臣下に尊ばれ、愛されておりました。ですが、義母には疎んじられており、宗室の宴には、必ず招待されませんでした。
 姫宮が三十路に足を踏み入れた頃でした。
 寵姫が、姫宮を産みました。
 弟に恋情を抱いてしまった姫宮は、とても心を痛められました。
 ある時、姫宮は仰せになりました。
『私をお前の後宮に、入れて。』
 姫宮は秘密裏に弟の妃になりました。ですが、それは、誰にも知られていないことでした。
 姫宮は、女三の宮を産みました。
 しかし、その姫は父と母を隠す為、市井に落とされてしまいました。
 姫宮は剣で首を掻っ切って、自害なされました。笑っていらっしゃいました。
 女一の宮は、寵姫によって、二十一になるまで、幽閉されておりました。
 やっと出られ、本来の身分を取り戻した時には、やはり、婚期を逃していました。
 それを、一人の青年が慰めましたのです。一の宮は、その青年に心を奪われてしまいました。
 一の宮が降嫁すれば良い。ですが、その青年は、妹宮の夫君でした。
 落としめられた一の宮は、遂に罪人として流されることになりました。
 そして、その一の宮は最後の日、池に飛び込み、こう、仰ったのです。
『今は静かに眠りたい。』
 そのまま、一の宮は流されました。
 そして、彼の姫宮は、九泉で苦痛に喘いでいると。
 恐ろしい話でありますわ。

「昔話は以上に御座います。」
 その妃嬪は立ち上がって、背を向けて言った。
「後宮とは、恐ろしき所なり。」
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