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第四章
329『辛い記憶の村』
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スタンピートが起きた小国群のダンジョンに一番近い転移点は、デラガルサ鉱山の向こう側にあたる村だった。
ここはフランクが所帯を持っていた村だ。
今はもう、彼の事を思い出しもしないアンナリーナだが、あの裏切りは彼女の心に暗い影を落としていた。
「デラガルサのある地域は、国境線が入り組んでいるっていうのは知っていたけど、小国群連合体とも隣接しているとは知らなかったな。
勉強不足だったね」
「あそこは鉱山だったろ?
だから昔は相当激しくやり合ってたらしい。
だが山の向こう側から坑道を掘ることが出来なくて……これは地下水の噴出と立て続けに起きた落盤のせいらしいが、この村はその時の名残りだな」
国境線が絡み合う辺境の地域には、魔素が多く含まれる森が隣接している。
ここが冒険者の狩場として最適で、それがこの村が存在している理由だ。
転移点から姿を現したアンナリーナたち一行は、テオドールが止めるのも聞かずにどんどん村の中に入っていく。
ここには冒険者ギルドがあって、スタンピートの情報を得ようと言うのだ。
「やっぱり、何となく雰囲気が暗いわね……それに人通りが少ない」
スタンピートの影響かしら、と呟いたアンナリーナは先頭立ってギルドの扉を潜っていった。
「こんにちわ。
今日はどのようなご用件でしょうか?」
冒険者ギルドには珍しい、老婆の職員が声をかけてきた。
「こんにちわ。
少し情報をいただきたいのです。
……隣国のスタンピートについて」
和かな笑みが瞬間崩れた。
その後、取ってつけたような作り笑いを浮かべた老婆は手元の書類を引き寄せた。
「件のスタンピートは今朝の段階では、発生したダンジョンがある小国群のひとつバンモントを蹂躙し、小国群連合体から隣国サンジェラスに侵攻しています。
サンジェラスについては被害の規模はまだわかっていませんが、各国の軍、そして冒険者ギルドから派遣された冒険者たちも手をこまねいている状況です」
老婆は一巻の巻物を取り出し、アンナリーナたちの方に向けて広げて見せた。
「これはこのあたりの地図です。
この村はここ。
どの国にも属さない大森林がこの区域で、サンジェラスとの国境はここからここまでです」
初めて見た地図は詳細で入り組んだ国境線も見てとれる。
「最新の情報では、スタンピートの先端はこのあたりでしょうか」
老婆が指差したそこの近くには、町の印がついている。
「それはサンジェラスの王都です。
今回は王都の場所がこの位置にある事が、この件に対して後手に回った理由ですね」
すでに王族は逃げ出しているらしい。
これは国民に対してかなりのマイナスだ。
「それと、お尋ねしたい事があるのですけど……
2年ほど前、この村にフランクと言う冒険者がいたと思うのですが、彼は今どうしてますか?」
「お知り合いですか?」
老婆は溜息を吐いた。
「ええ、まあ」
アンナリーナに付き従う、テオドールたちの雰囲気が見るからに変わった。
その無言の威圧に、昔B級冒険者だった老婆の背中に冷や汗が流れる。
「彼は……最初は有望な冒険者でした。すぐにランクが上がってC級になりましたし、ソロでB級の魔獣を討伐出来る腕前の持ち主でした。
でも、ある日突然戦えなくなり、依頼の失敗が続いて……最後は違約金が払えなくなって鉱山奴隷に堕ちました。
今、どこにいるのか、生きているのかどうなのかわかりません」
「そう……
どうもありがとう」
それを最後にアンナリーナは踵を返し、冒険者ギルドから出て行った。
ここはフランクが所帯を持っていた村だ。
今はもう、彼の事を思い出しもしないアンナリーナだが、あの裏切りは彼女の心に暗い影を落としていた。
「デラガルサのある地域は、国境線が入り組んでいるっていうのは知っていたけど、小国群連合体とも隣接しているとは知らなかったな。
勉強不足だったね」
「あそこは鉱山だったろ?
だから昔は相当激しくやり合ってたらしい。
だが山の向こう側から坑道を掘ることが出来なくて……これは地下水の噴出と立て続けに起きた落盤のせいらしいが、この村はその時の名残りだな」
国境線が絡み合う辺境の地域には、魔素が多く含まれる森が隣接している。
ここが冒険者の狩場として最適で、それがこの村が存在している理由だ。
転移点から姿を現したアンナリーナたち一行は、テオドールが止めるのも聞かずにどんどん村の中に入っていく。
ここには冒険者ギルドがあって、スタンピートの情報を得ようと言うのだ。
「やっぱり、何となく雰囲気が暗いわね……それに人通りが少ない」
スタンピートの影響かしら、と呟いたアンナリーナは先頭立ってギルドの扉を潜っていった。
「こんにちわ。
今日はどのようなご用件でしょうか?」
冒険者ギルドには珍しい、老婆の職員が声をかけてきた。
「こんにちわ。
少し情報をいただきたいのです。
……隣国のスタンピートについて」
和かな笑みが瞬間崩れた。
その後、取ってつけたような作り笑いを浮かべた老婆は手元の書類を引き寄せた。
「件のスタンピートは今朝の段階では、発生したダンジョンがある小国群のひとつバンモントを蹂躙し、小国群連合体から隣国サンジェラスに侵攻しています。
サンジェラスについては被害の規模はまだわかっていませんが、各国の軍、そして冒険者ギルドから派遣された冒険者たちも手をこまねいている状況です」
老婆は一巻の巻物を取り出し、アンナリーナたちの方に向けて広げて見せた。
「これはこのあたりの地図です。
この村はここ。
どの国にも属さない大森林がこの区域で、サンジェラスとの国境はここからここまでです」
初めて見た地図は詳細で入り組んだ国境線も見てとれる。
「最新の情報では、スタンピートの先端はこのあたりでしょうか」
老婆が指差したそこの近くには、町の印がついている。
「それはサンジェラスの王都です。
今回は王都の場所がこの位置にある事が、この件に対して後手に回った理由ですね」
すでに王族は逃げ出しているらしい。
これは国民に対してかなりのマイナスだ。
「それと、お尋ねしたい事があるのですけど……
2年ほど前、この村にフランクと言う冒険者がいたと思うのですが、彼は今どうしてますか?」
「お知り合いですか?」
老婆は溜息を吐いた。
「ええ、まあ」
アンナリーナに付き従う、テオドールたちの雰囲気が見るからに変わった。
その無言の威圧に、昔B級冒険者だった老婆の背中に冷や汗が流れる。
「彼は……最初は有望な冒険者でした。すぐにランクが上がってC級になりましたし、ソロでB級の魔獣を討伐出来る腕前の持ち主でした。
でも、ある日突然戦えなくなり、依頼の失敗が続いて……最後は違約金が払えなくなって鉱山奴隷に堕ちました。
今、どこにいるのか、生きているのかどうなのかわかりません」
「そう……
どうもありがとう」
それを最後にアンナリーナは踵を返し、冒険者ギルドから出て行った。
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