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第四章

227『マチルダとトラサルディ』

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 うつらうつらしていたアンナリーナが目を覚ましたのは、マチルダが寝室に入ってきたからだった。

「マチルダさん……」

「リーナ様、大変でしたね。
 さあ、これを飲んで、またお休みになって下さい」

 差し出された盆にのっていたのはガラスのコップ。
 すぐにアンナリーナは、その中身に気づいた。

「蜂蜜レモン水……」

「しばらくまともな食事を摂っておられないと聞きました。
 召しあがれるようなら、お粥をお持ちしますが……どうなさいます?」

「ありがとう。
 では、いただくわ」

 ドアの外で気配がする。
 さほど待たずにアンソニーが現れて、上体を起こしたアンナリーナの前に、前世の映画で見た、ベッドの上で朝食を摂るためのミニテーブルが置かれた。
 そこには白地にピンクのウサギの柄の1人用の土鍋と、揃いのとんすい、そしてレンゲが置かれていた。
 アンソニーが恭しく蓋を取ると白い湯気が上がり、中から黄色い柔らかそうな食べ物が姿を現した。

「わあ!」

「玉子のおじやでございます。
 熱いので気をつけて召し上がって下さい」

 鰹だしと薄口醤油と塩の味つけ。
 ご飯は一度炊飯したものを使った。
 あと【異世界買物】で購入したブランド玉子。
 アンナリーナの目の前でマチルダが取り分けてくれる。
 それにふうふうと息を吹きかけて、スプーンで少しだけすくって口にした。

「美味しい」

 優しい味の玉子おじや。
 それをアンナリーナはすばらしい食欲を発揮して平らげていく。

「食欲があって本当にようございました」

 アンソニーとマチルダが嬉しそうだ。



「今日はぜひ聞いていただきたい事柄があって参りました」

 今アンナリーナの前に跪いているのは、スケルトンのトラサルディだ。

「はい、何でしょう?」

「まずはご報告を。
 先日、テオドール殿とイジ殿から、ポーション販売の引き継ぎを受けました。
 つつがなく取り引きを終えたのですが……リーナ様、これまではずいぶんとどんぶり勘定だったのですね。
 ちゃんとした帳簿が見当たらないのですが、今までどうなさっていたのでしょうか?」

 トラサルディは生前、商家の店主だった。
 その彼にしたらここの経営は耐えられないものだったのだろう。

「リーナ様、この部門をすべて任せていただけませんでしょうか?」

 骸骨のオーラが燃えている。
 どうやらトラサルディの商人魂に火をつけてしまったようだ。

「う、うん、構わないよ。
 いえ、よろしくお願いします」

 眼窩だけの目にじろりと睨まれて、アンナリーナは飛び上がった。
 ポーション類の販売は、最初はボランティアのようなつもりで始めたのだが、アンナリーナの作るポーションも薬も評判が良くて、特にポーションはその高い効果に、ギルドなどでは入荷すると取り合いになると言う。

「もう少し販路を広げようと考えています。リーナ様、こんな状態ではもったいないですよ」

 そう言って差し出したのは、アンナリーナが今販売している商品の一覧表。
 すでにそこには注文数が書き込まれている。

「ひゃい、お任せします」

「リーナ様、出来ますれば次のお出かけの前に、こちらの商品の補充をよろしくお願いします」

 骸骨の、本来ないはずの表情が怖い。
 アンナリーナはコクコク頷きながら、このスケルトンには絶対に逆らわないで居ようと、強く思ったのだ。

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