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第四章
218『思わぬ人の死』
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航海は順調に進んでいた。
例の海賊襲撃事件から数日は喧しかったが、基本商人は拝金主義である。
自分の商品が戻ってきた事と、少なかったが海賊たちの持ち物を分け合った事で、すっかり今は落ち着いていた。
アンナリーナの方はと言えば。
彼女は今、テオドール、セト、イジの誰か1人を見張りに残し、日中は転移を使い、デラガルサのダンジョンに赴いたりしている。
デラガルサと言えば、アンナリーナがしばらく寄り付かなかった間に大変な事が起きていた。
……マチルダが亡くなったのだ。
アンナリーナがあちこち飛び回っていたので連絡が取れず、こんな事になってしまったと、ジャマーが項垂れた。
とりあえず、ポーション類を卸すと慌ててツリーハウスに戻り、ネロを訪ねた。
「少し前に亡くなった人間を、アンデッドにしたいと思うのだけど……
すでに埋葬されて日が経っているの。
やはり傷んでいると思うけど、ある程度の修復は可能かしら?」
アンナリーナも死霊魔法の使い手だが、それ自体のレベルは上げていない。
この魔法に関しては、特に特化しているネロに任せた方が良い結果を得ることができる。
「完全に骸骨化していなければ、どうにかなるものですよ。
リーナ様、どうなさいました?」
「私が【魔獣の森】から出て、初期の頃に知り合った人が亡くなったの。
……気の良い老婦人でね。
このままお墓で眠らせてあげるのも良いけどもったいないわ。
私は、出来たら彼女にはここで雑務を引き受けて欲しいの。
今はアラーニェやアンソニーが何となく受け持ってくれているけど、マチルダさんがいたら彼女らも専門に熱中出来ると思うのよ」
「マチルダ、さんと仰るのですか?
その方。
……ではリーナ様、今宵深夜に墓に行ってみましょう。
掘り返さずともある程度の事は分かりますし。お付き合い、願いますよ?」
「ありがとう」
草木も眠る丑三つ時、ここはデラガルサの町外れ……墓地だ。
夜霧に霞む墓地は見るからに不気味で、フクロウの鳴き声ひとつ聴こえてこない……今にも死者が起き上がってきそうだ。
そんななか、アンナリーナの歩みに迷いはない。
昼間に来たばかりなのだ。
迷うはずもない。
「ここよ」
そこには地味だがきれいに掃除された2基の墓があった。
新しい方がマチルダの、いくらか古いのかおそらくマチルダの夫のものだろう。
「どう?」
すでに腰を落として土に触れていたネロが頷いた。
「問題ありません。
さほど傷んでいないので補修可能です。こちらの男性は……申し訳ないがスケルトンですね」
アンナリーナはマチルダしか考えていなかったが、たしかにマチルダの感情が図れない。
「では、まずマチルダさんからお願い」
土魔法を使ってごっそりと土を除けていく。
ネロの魔法で棺桶の蓋が開き、眠るように横たわっていたマチルダの身体が持ち上げられてきた。
「完全にアンデッドにする前に、一度話されますか?」
「そうね。お願い」
「マチルダさん、私が知らない間にこんな事になって……」
『リーナさん、もう寿命だったの。
それだけよ』
マチルダの微笑みは生前と変わらない。
その頬が少し痩けていたけど。
「マチルダさんが安らかに眠っているところを起こしてごめんなさい。
でもどうしても諦めきれなくて……
マチルダさん、もしよければ私たちのお手伝いをして頂けないかしら」
『お手伝い? 一体、どのような事を?』
「マチルダさんには私の家で雑務一般の纏めをお願いしたいの。
そのためにはアンデッドになっていただく訳ですけど」
『そうね。
リーナさんのところで第2の人生?も良いかもしれないわね』
チラリと隣の墓を見て、マチルダはその瞳を揺らした。
「ご主人もご一緒にいかがですか?
ただ、スケルトンになりますけど」
『あの人ともう一度逢えるの?』
これに関しては適当な返事はできない。
アンナリーナはネロを振り返った。
「どうなの?」
「その男はいつ頃死亡したのです?」
『3年ほど前です』
「では問題ないですね。
3年くらいなら記憶の損傷は軽微でしょう」
『では、夫婦共々よろしくお願いします』
空中に浮いたまま、マチルダはきれいなカーテシーをして見せた。
例の海賊襲撃事件から数日は喧しかったが、基本商人は拝金主義である。
自分の商品が戻ってきた事と、少なかったが海賊たちの持ち物を分け合った事で、すっかり今は落ち着いていた。
アンナリーナの方はと言えば。
彼女は今、テオドール、セト、イジの誰か1人を見張りに残し、日中は転移を使い、デラガルサのダンジョンに赴いたりしている。
デラガルサと言えば、アンナリーナがしばらく寄り付かなかった間に大変な事が起きていた。
……マチルダが亡くなったのだ。
アンナリーナがあちこち飛び回っていたので連絡が取れず、こんな事になってしまったと、ジャマーが項垂れた。
とりあえず、ポーション類を卸すと慌ててツリーハウスに戻り、ネロを訪ねた。
「少し前に亡くなった人間を、アンデッドにしたいと思うのだけど……
すでに埋葬されて日が経っているの。
やはり傷んでいると思うけど、ある程度の修復は可能かしら?」
アンナリーナも死霊魔法の使い手だが、それ自体のレベルは上げていない。
この魔法に関しては、特に特化しているネロに任せた方が良い結果を得ることができる。
「完全に骸骨化していなければ、どうにかなるものですよ。
リーナ様、どうなさいました?」
「私が【魔獣の森】から出て、初期の頃に知り合った人が亡くなったの。
……気の良い老婦人でね。
このままお墓で眠らせてあげるのも良いけどもったいないわ。
私は、出来たら彼女にはここで雑務を引き受けて欲しいの。
今はアラーニェやアンソニーが何となく受け持ってくれているけど、マチルダさんがいたら彼女らも専門に熱中出来ると思うのよ」
「マチルダ、さんと仰るのですか?
その方。
……ではリーナ様、今宵深夜に墓に行ってみましょう。
掘り返さずともある程度の事は分かりますし。お付き合い、願いますよ?」
「ありがとう」
草木も眠る丑三つ時、ここはデラガルサの町外れ……墓地だ。
夜霧に霞む墓地は見るからに不気味で、フクロウの鳴き声ひとつ聴こえてこない……今にも死者が起き上がってきそうだ。
そんななか、アンナリーナの歩みに迷いはない。
昼間に来たばかりなのだ。
迷うはずもない。
「ここよ」
そこには地味だがきれいに掃除された2基の墓があった。
新しい方がマチルダの、いくらか古いのかおそらくマチルダの夫のものだろう。
「どう?」
すでに腰を落として土に触れていたネロが頷いた。
「問題ありません。
さほど傷んでいないので補修可能です。こちらの男性は……申し訳ないがスケルトンですね」
アンナリーナはマチルダしか考えていなかったが、たしかにマチルダの感情が図れない。
「では、まずマチルダさんからお願い」
土魔法を使ってごっそりと土を除けていく。
ネロの魔法で棺桶の蓋が開き、眠るように横たわっていたマチルダの身体が持ち上げられてきた。
「完全にアンデッドにする前に、一度話されますか?」
「そうね。お願い」
「マチルダさん、私が知らない間にこんな事になって……」
『リーナさん、もう寿命だったの。
それだけよ』
マチルダの微笑みは生前と変わらない。
その頬が少し痩けていたけど。
「マチルダさんが安らかに眠っているところを起こしてごめんなさい。
でもどうしても諦めきれなくて……
マチルダさん、もしよければ私たちのお手伝いをして頂けないかしら」
『お手伝い? 一体、どのような事を?』
「マチルダさんには私の家で雑務一般の纏めをお願いしたいの。
そのためにはアンデッドになっていただく訳ですけど」
『そうね。
リーナさんのところで第2の人生?も良いかもしれないわね』
チラリと隣の墓を見て、マチルダはその瞳を揺らした。
「ご主人もご一緒にいかがですか?
ただ、スケルトンになりますけど」
『あの人ともう一度逢えるの?』
これに関しては適当な返事はできない。
アンナリーナはネロを振り返った。
「どうなの?」
「その男はいつ頃死亡したのです?」
『3年ほど前です』
「では問題ないですね。
3年くらいなら記憶の損傷は軽微でしょう」
『では、夫婦共々よろしくお願いします』
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