445 / 577
第四章
205『不審な影』
しおりを挟む
攻略は順調に進んでいる。
まあ、それも無理はない。
アンナリーナたちの能力は完全なオーバーキルなのだ。
眼前を遮る敵を蹴散らし、わざと魔獣が固まっている場所を探して突入し、ついでにマップを記入していく。
……当初予定していた全体マップ作成は早々に諦めた。
それはこのダンジョンが広大だという事もあるが、単にアンナリーナが面倒くさくなったからだ。
そうこうするうちに3日経ち、アンナリーナ一行は前回到達していた12階層を大きく越え、今は16階層に来ていた。
そして今、とても困った状況になっている。
それはこの階層が今までにないほど広いという事もあるが、実は別の案件でアンナリーナは悩んでいた。
それはテオドールを始め、従魔たちも同じで、どう対処すれば良いのか戸惑っていた。
それはこの16階層にきて3度目の交戦の時だった。
バラバラと分布する、この階層でメインの魔獣【ハイ・コボルト・ソルジャー】を狩っていて、何となく違和感を感じた。
それは4度目、5度目と続く。
「ねえ、ちょっと集まって」
アンナリーナのその言葉に、4人が顔が触れ合うほど近づいた。
「気づいてる?
何か、変な動きをしている個体がいるよね?」
それはいつのまにか近づいてきていて、戦闘が始まると一度引き、様子を窺っている。
そして自分が標的になる寸前、姿を消すのだ。
それがもう3度繰り返されている。
「完全に何か意図しているよね。
2度までは偶然かと思っていたけど、もうこれは必然だね」
テオドールも頷き返した。
野生の、感覚の鋭いセトとイジはそれ以上のものを感じているようだ。
「主人も感じているだろうが……悪意は感じさせない。
どうやらあちらも戸惑っているような雰囲気だが、どうだろう?」
「そうだな……
今もこちらを、ジッと見ている?」
イジは心底気持ち悪そうな顔をしている。
「あ、動き出した」
アンナリーナはマップ上の点が紫に変わっている事に気づいていた。これは普段魔獣を示す青点から変化したものだ。
「う~ん、なんだろう。
こんな事初めてだからよくわからないよ」
この場では、このまま様子を見ながら進む事にした。
そして相手に気取られないように、今までと変わりなく、高速で移動していく。
「しかし、この階層はだだっ広いね。
下に降りる階段があれば、この悩ましい状況からも解放されるのに」
基本的に、このダンジョンに生息する魔獣は階層を越えて活動しない。
だから下に降りてしまえばスッキリするのだが。
「また、来てる」
あまりの広大さに2~3日での踏破を諦めたアンナリーナたちは、今夜の野営地に定めた平原で夕餉を食していた。
「相変わらず悪意は感じないけど……
何か困っちゃうね」
大型馬車を家屋がわりに、外に魔導コンロやテーブルなどを出して、アンソニーが出張してきての夕食だった。
その周りに堅固な結界を張り、一応見張りは立てているが、全体にゆったりとした空気が流れている。
「まあ、まだ下への階段も見つかってないし、何となく長丁場になりそうな気がする。
……のんびり構えてたらいいんじゃないか?」
おっとりとテオドールが、そう提案する。
「うん、そうだね。
今のところ実害もないし」
アンナリーナがチラリと視線を巡らせた先は結界の向こう、平原を越えた森の中に向けられる。
「うん、見てる」
そのハイ・コボルト・ソルジャーは付かず離れずの距離感でアンナリーナたちを窺っていた。
まあ、それも無理はない。
アンナリーナたちの能力は完全なオーバーキルなのだ。
眼前を遮る敵を蹴散らし、わざと魔獣が固まっている場所を探して突入し、ついでにマップを記入していく。
……当初予定していた全体マップ作成は早々に諦めた。
それはこのダンジョンが広大だという事もあるが、単にアンナリーナが面倒くさくなったからだ。
そうこうするうちに3日経ち、アンナリーナ一行は前回到達していた12階層を大きく越え、今は16階層に来ていた。
そして今、とても困った状況になっている。
それはこの階層が今までにないほど広いという事もあるが、実は別の案件でアンナリーナは悩んでいた。
それはテオドールを始め、従魔たちも同じで、どう対処すれば良いのか戸惑っていた。
それはこの16階層にきて3度目の交戦の時だった。
バラバラと分布する、この階層でメインの魔獣【ハイ・コボルト・ソルジャー】を狩っていて、何となく違和感を感じた。
それは4度目、5度目と続く。
「ねえ、ちょっと集まって」
アンナリーナのその言葉に、4人が顔が触れ合うほど近づいた。
「気づいてる?
何か、変な動きをしている個体がいるよね?」
それはいつのまにか近づいてきていて、戦闘が始まると一度引き、様子を窺っている。
そして自分が標的になる寸前、姿を消すのだ。
それがもう3度繰り返されている。
「完全に何か意図しているよね。
2度までは偶然かと思っていたけど、もうこれは必然だね」
テオドールも頷き返した。
野生の、感覚の鋭いセトとイジはそれ以上のものを感じているようだ。
「主人も感じているだろうが……悪意は感じさせない。
どうやらあちらも戸惑っているような雰囲気だが、どうだろう?」
「そうだな……
今もこちらを、ジッと見ている?」
イジは心底気持ち悪そうな顔をしている。
「あ、動き出した」
アンナリーナはマップ上の点が紫に変わっている事に気づいていた。これは普段魔獣を示す青点から変化したものだ。
「う~ん、なんだろう。
こんな事初めてだからよくわからないよ」
この場では、このまま様子を見ながら進む事にした。
そして相手に気取られないように、今までと変わりなく、高速で移動していく。
「しかし、この階層はだだっ広いね。
下に降りる階段があれば、この悩ましい状況からも解放されるのに」
基本的に、このダンジョンに生息する魔獣は階層を越えて活動しない。
だから下に降りてしまえばスッキリするのだが。
「また、来てる」
あまりの広大さに2~3日での踏破を諦めたアンナリーナたちは、今夜の野営地に定めた平原で夕餉を食していた。
「相変わらず悪意は感じないけど……
何か困っちゃうね」
大型馬車を家屋がわりに、外に魔導コンロやテーブルなどを出して、アンソニーが出張してきての夕食だった。
その周りに堅固な結界を張り、一応見張りは立てているが、全体にゆったりとした空気が流れている。
「まあ、まだ下への階段も見つかってないし、何となく長丁場になりそうな気がする。
……のんびり構えてたらいいんじゃないか?」
おっとりとテオドールが、そう提案する。
「うん、そうだね。
今のところ実害もないし」
アンナリーナがチラリと視線を巡らせた先は結界の向こう、平原を越えた森の中に向けられる。
「うん、見てる」
そのハイ・コボルト・ソルジャーは付かず離れずの距離感でアンナリーナたちを窺っていた。
3
お気に入りに追加
615
あなたにおすすめの小説
元魔王おじさん
うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。
人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。
本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。
戦いあり。ごはんあり。
細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。
偽神に反逆する者達
猫野 にくきゅう
ファンタジー
・渓谷の翼竜
竜に転生した。
最強種に生まれ変わった俺は、他を蹂躙して好きなように生きていく。
・渡り鳥と竜使い
異世界転生した僕は、凡人だった。
膨大な魔力とか、チートスキルもない──
そんなモブキャラの僕が天才少女に懐かれて、ファンタジー世界を成り上がっていく。
・一番最初の反逆者
悪徳貴族のおっさんに転生した俺は、スキルを駆使して死を回避する。
前世の記憶を思い出した。
どうやら俺は、異世界に転生していたらしい。
だが、なんということだ。
俺が転生していたのは、デリル・グレイゴールという名の悪徳貴族だった。
しかも年齢は、四十六歳──
才能に恵まれずに、努力もせず、人望もない。
俺には転生特典の、スキルポイント以外何もない。
異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~
ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した
創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした
その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる
冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る
テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる
7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す
若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける
そこからさらに10年の月日が流れた
ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく
少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ
その少女の名前はエーリカ=スミス
とある刀鍛冶の一人娘である
エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた
エーリカの野望は『1国の主』となることであった
誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた
エーリカは救国の士となるのか?
それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか?
はたまた大帝国の祖となるのか?
エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……
大賢者の弟子ステファニー
楠ノ木雫
ファンタジー
この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる