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第四章

199『朝食は具沢山スープ』

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 太陽も月も出ないダンジョン内で時間を計るのは難しい。
 アンナリーナたちは【腕時計】を持っているので問題ないが、その他の者たちにとっては時間の感覚がわからなくなり、かなりのベテランでもその体内時計を狂わせてしまう。
 そして無理な行程で攻略を進め、知らず知らずのうちに体力を消耗してしまうのだ。


「おい、そろそろ起きてくれ」

 昨日からずっと不機嫌そうなテオドールの声と、肩を揺すられる感覚に、心地よい眠りから覚まされたエンゲルブレクトは一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。

「あ?ああ、わかった。すまない」

 岩をくり抜いたような階段の踊り場の、その壁にもたれて眠っていたエンゲルブレクトは、身を包んでいたマントを取り去りながら立ち上がった。

「朝餉だ。食べたら出発の準備を調えておいてくれ」

 のっしのっしとテントに向かうテオドールは、もうすでにいつでも出発できるよう、準備万端のようだ。
 エンゲルブレクトは手渡されたスープを立ったまま口にする。

「!」

 具沢山のスープはそれだけでもかなりのボリュームがあったが、彼はパンを取り出し、スープに浸しながらガツガツと食べた。
 キャベツと玉ねぎと根菜の入ったスープには大きさを揃えたベーコンがたっぷりと入っていて、さらに彼が見たこともない小さな卵のゆで玉子も入っている。

「美味い……この味は一体何なんだろうか」

【異世界買物】で購入した鶏ガラスープの素は万能調味料の役目を充分に果たしている。
 それに野菜の甘みが混じって、朝からやさしい味のスープに仕上がっていた。


「おはようございます」

 そこに現れたアンナリーナは昨日と同様、セトに抱かれていた。
 ダンジョンの気温に合わせて暖かそうな外套を着て、編み上げのブーツを履いている。
 昨日は余裕が無くて詳しく観察していなかったが、その身につけているものはすべて一級品だ。
 外套は、分厚く織ったアラクネ絹であるし、本来ダンジョン装備には必要ない、豪奢な刺繍も施されている。
 編み上げブーツは見るからに竜種の革で作られているし、ちらちら見えるレギンスも温度調節の付与されたアラクネ絹で出来ている。

「おはよう。
 その……もう体調はいいのかい?」

「自分ではそのつもりなんですけどね」

 そう言ったアンナリーナに、ジロリと視線を向けてきたのはテオドールだけではない。
 今朝もアンナリーナを抱いているセトも、テントをしまおうとしていたイジからも非難の眼差しを受けて、少々反省したようだ。

「今日も、よろしく、セト」

「主人は昨日のように寝ていたらいい。あとは俺たちでやる」

「うん、でもこの階段を降りたら8階層なんでしょ?
 私も、ちゃんと視なきゃ」

「そうだな、もうそろそろ何がしかの痕跡があってもおかしくない」

 セトは悲観的な意味でそう言ったのだがアンナリーナは諦めていないようだ。

「20人……
 少し人数は多いけど、階層の境の階段に避難出来ていたら、まだ望みはあると思うの」

 エンゲルブレクトによると、持っていった食料もほぼ底を尽きかけているだろうとの事だ。

「魔獣を狩って食べていたらいいのだけど……」

 アンナリーナは知らなかった。
 ダンジョン攻略では普通、料理をしないのだ。
 日持ちのするパンと干し肉、よくてりんごなどすぐに食べられる果物。
 今回は男ばかりなので【調理】する術もないだろうという事を。

「では、出発しましょうか」

 皮袋から水をラッパ飲みしながら、エンゲルブレクトは一行に続いた。

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