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第四章

187『新しいダンジョンに向かって』

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 思い立ったが吉日……と言うわけではないが、アンナリーナたちは早速ダンジョンに向かっていた。
 今回はちょうど、ダンジョン行きの馬車があったのでふたりはそれに乗っている。

 アンナリーナは目だけを動かして、これからダンジョンに潜るだろう、同乗している冒険者たちを観察している。
 彼らは皆それぞれの装備で身を固めていた。

『熊さん、ここに乗ってる人たちは良くてC級止まりみたい』

『……そんな感じだな。
 出来て間なしだから上級冒険者にはまだ広がってないのかもな』

 普通、新しいダンジョンが発生した時、上級冒険者はある程度の攻略がなされるまで腰をあげない。
 今回はまだ、まったくと言っていいほど情報がなく、アンナリーナたちも現地のギルド出張所で詳しい説明を受けるように、と言われてきた。

「今夜は途中の野営地で一泊なのかしら」

 思わず唇から漏れた疑問に、隣に座っていたパーティーの1人が答えてくれた。

「お嬢さんは……初めて見る顔だね。
 お察しの通り、今夜は途中の空き地で一泊だよ。そこもまだ野営地としての整備が追いついてなくて、本当にただの空き地。
 ダンジョンの周りもまだ何もなくて、びっくりするんじゃないかな」

 テオドールと同じくらいか、もしくはもう少し年長かもしれない男が気さくに教えてくれる。
 アンナリーナはその親切にもう少し甘える事にした。

「そうなんですか?
 このダンジョンは発生して、まだそれほど経ってない?」

「ああ、小規模な “ 湧き ”があったのが……」

「38日前ですよ、お嬢さん」

 パーティー一行の中の比較的若い男が口を挟んできた。装備を見れば、彼は大剣使いであるようだ。
 ちなみに、最初に声をかけてきた彼は盾職だ。

「38日……討伐に数日かけたとしても、攻略可能になってひと月ちょっと。
 現在はどのくらい進んでいるのですか?」

「昨日、伝から仕入れた情報では8階層まで攻略したそうだ。
 今は9階層に挑戦中らしい」

「では、私たちが到着する頃には10階層まで進んでいるかもしれませんね。地図の作成はどうですか?」

「それが……後回しになっている。
 皆、先に進む事ばかりに目が行ってな。とりあえず浅い階層の、下に降りる階段への道だけ、簡単な地図が有志によって作成され、公開されているんだ」

「これはまだまだ大変そうですね。
 申し遅れました、私はリーナ。ハルメトリアの冒険者です。こっちはテオドール」

「よろしく、リーナ嬢。
 俺はヘンリクス、こっちがマルティン。あとは右からニコ、ノアハ、セルファース、ヨリックだ」

 ひとりひとりが名前の紹介の時に片手をあげて挨拶してきた。
 アンナリーナも挨拶したが、必要以上に声をかけてこないのが好感を持てる。



 うつらうつらしていたアンナリーナは、ガタンと馬車が揺れて目を覚ました。

「熊さん?」

「ああ、着いたみたいだ」

 いつの間にか眠ってしまったアンナリーナは今、テオドールの太ももの上で横抱きされていた。
 そして身体の上にはテオドールのマントがかけられていて、ぬくぬくと眠っていたことに気づいた。

「ごめん、ありがとう」

 キョロキョロとあたりを見回すと、降りる支度を始めているヘンリクスと目が合う。

「おお、やっと起きたか。
 先に夜見張りの順番を決めてから飯だ。リーナ嬢は免除な」

 以前のテオドールのような髭面が笑う。

「“ 嬢 ”はくすぐったいので、リーナと呼んで下さい。
 それと、私の代わりに従魔を出します」

「リーナは召喚士なのか?」

 それなら頷ける。
 彼の目には、彼女は冒険者としてはあまりにも華奢すぎるように見えていた。

「ええ、サブですけどね」

 この世界では、複数の職種を持つのはかなり珍しい。
 アンナリーナの公式な職種は【薬師】と【召喚士】だが、その他に【魔導師】や【賢者】なども兼ねている。

「そうか、そちらが従魔を出してくれるなら助かる。よろしく頼むわ」

「はい、わかりました」

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