上 下
397 / 577
第四章

157『検証』

しおりを挟む
 彼らの隊商は本当にたまたま、アルファ・ケンタウリを目前とした最後の村で宿泊する事が出来ず、さらに村の中に入ることもできなかったので野営する事になったらしい。

「どうして村に入れてもらえなかったの?」

「もうすでに、宿に泊まれない旅人を受け入れていっぱいだと言われたんだ」

 隊商の、比較的前の方の馬車を護衛していたメイルという冒険者が、そう説明した。
 村の敷地内の野営に適した場所をすべて解放していたそうだが、それもいっぱいだったようだ。
 アンナリーナは数日前に立ち寄った村の様子を思い出して、そんなものだろうと、考えを流した。

「それであの野営地で野営することになったのね」

 そこでバルトリが頷いた。
 隊商の商人たちが集まり、翌日の予定を変更すべきか話し合いを持ち、休むためにそれぞれのテントに戻ったところ襲撃されたそうだ。

「一体、何が起きたかわからなかった。突然、爆発があって隣のテントが吹っ飛び、私も吹き飛ばされたんだ。
 その時はどうにか這い出す事が出来たが、仲間たちと合流しようとしていたのだが……それから先は記憶がない」

 恐らくその時に攻撃を受けたのだろう。
 今回の襲撃は特徴的で、初期の攻撃はすべて魔法職によるものだ。

「俺もその時の爆発に巻き込まれて意識を失ったようだ」

 ジルがそう言うと、それまで心ここに在らずといった様子だった男が口を開いた。

「俺はサリトナー、この5人の中では比較的後の方まで意識があったと思う。
 魔法職の奴は1人、黒いローブに仮面をつけていた。そして剣を持った盗賊が10人くらい。そいつらも目だけ出した布のマスクをしていて符号のような言葉しか発していなかった」

 これは言葉の方言などを知られないようにそうしているのだろう。
 ずいぶんと細かい。

「護衛はほとんどがやられた。
 ……雇い主だった商人の方たちやその側仕えの連中は縛り上げられて連れて行かれちまった」

 サリトナーが、悔しそうに唇を噛み締める。

「魔法が相手なんだもの。
 遠距離攻撃に対抗するすべはなかったと思う。あなた達はこれからアルファ・ケンタウリに行き憲兵に証言する事によって、盗賊団逮捕に貢献できるんです」

 アンナリーナはすでに昨夜のうちから探索を広げて不審な集団を探していたが、かんばしくない。
 盗賊団と拉致された旅人たちを合わせると、かなりの人数になるはずなのに、相当広範囲に広げても引っかかるものがない。
 だった1日、人質を抱えてそう遠くに行けるはずがないのに、アンナリーナは不思議でしょうがなかった。

「あなたたちは助かったんです。
 ほとんど丸一日放置されていて、本当に運が良かった。
 特にバルトリさんはかなり重篤な状態だったのですよ。
 皆さん、しばらく造血剤は欠かさないで下さいね」

「あの、今更だがあんたは一体……」

「ジルさんに名乗っていたので忘れてました。
 私はリーナ、旅の薬師です」

「それでポーションがポンポン出てくるのか……」

 ジルが納得したように呟いている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...