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第四章
144『小さなハプニング』
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新しく乗車してきたふたりが、元々居た乗客からどう見えていたかと言うと、初めは世慣れた行商人たちから見れば裕福な暮らしに慣れた少女とその護衛といった様子だったが、1日もしないうちに家族だと判断していた。
見るものが見ればすぐにわかる、アンナリーナたちの出で立ち。
テオドールは、アンナリーナの師匠の遺品である上位ドラゴンの皮を使った革鎧と、ダンジョン産の魔鋼製の戦斧でその身を固めている。
アンナリーナのチュニックはアラクネ絹で、細かな花柄は見たことがないほど鮮やかな染料で染められている。
そして彼女は読書をしているのだが、行商人の1人がたまたま通りかかった時に覗き込んだところ、それは大陸共通語ではなかったのだ。
もう、そうなると一般人ではないことになる。
2日目以降、彼らは遠巻きにアンナリーナたちを窺っていた。
その日も、昼休憩にちょうど良い場所を確保できず、各自昼食は馬車の中で摂っていた。その後、ようやく馬を休ませるのに適した場所を見つけ、休憩出来たのは夕刻も近づいた、所謂お茶の時間であった。
「熊さん、お茶しようか? それともコーヒーがいい?」
最近、テオドールは好んでコーヒーを飲んでいる。
紅茶はどうしても気取った感じがして苦手だったが、昼日中から酒を飲むわけにもいかず、そんな時コーヒーはちょうど良い飲み物なのだ。
「ああ、コーヒーがいいな」
豆を手に入れて、アンナリーナが焙煎を研究し、アンソニーにやり方を指導して最近は毎日飲むことが出来るようになっていた。
「うん、いつものブラックでいい?」
「ああ」
馬車から降りて、少し散策して、インベントリから椅子を出すとふたり並んで座った。
ふくいくたるコーヒーの香りがあたりに漂い、乗客の何人かがアンナリーナたちの方を見ていた。
「美味いな」
「うん、アンソニーは淹れるのもうまくなったね」
アンナリーナはミルクと砂糖をたっぷり入れてコーヒーを啜る。
「おやつを食べたいところだけど……
何か、雲行きがあやしいね」
「天気が悪くなるようには見えないが?」
「そっちじゃ、ないわよ~」
「どういう事だ?」
「今日はここから、動かないかもしれないってこと」
アンナリーナはチラリと馬車の方に視線を移した。
そこでは御者のダマスクと護衛たちが固まって、話し合っている。
テオドールが空を見上げた。
「そうだな……
俺たちはこのあたりの地理に明るくないが、下手に進むと野営地すらないのだろう。
そうなると野宿になる。それは避けたいんだろうな」
一応、馬車を停められる野営地と、街道沿いだが森に隣接した空き地に停まる野宿とは、自ずから危険度が違う。
「少し離れたところに魔獣がいるみたいだけど、あとで狩っておくよ。
夜間も薄く結界張っておこうか?」
「ああ、そうだな」
その時、ダマスクが大声で話し始めた。
「皆さん!ちょっと聞いて下さい!!
今日は少し早いがここで野営します。
そのかわり明日はいつもより3時間早く……夜明け前、あたりが明るくなったら出発します。
申し訳ないが了承して下さい!」
旅慣れた行商人は平然と頷いている。
だが、父子とあのうるさい少女は戸惑いを隠せないようだ。
マルセルたちがテントの設営をはじめ、ダマスクが馬の世話に向かう。
テオドールはその御者に手伝いを申し入れ、一緒に馬車から馬を外していた。
アンナリーナは目の前の桶に【ウォーター】で水を入れていた。
テオドールは干し草を馬車の専用の収納場所から出してきて与えている。
「すまない、お二方。
お客にこんなこと、させちまって」
「俺たちは慣れているから気を遣わなくていい」
「うんうん、そうだよ!」
見るものが見ればすぐにわかる、アンナリーナたちの出で立ち。
テオドールは、アンナリーナの師匠の遺品である上位ドラゴンの皮を使った革鎧と、ダンジョン産の魔鋼製の戦斧でその身を固めている。
アンナリーナのチュニックはアラクネ絹で、細かな花柄は見たことがないほど鮮やかな染料で染められている。
そして彼女は読書をしているのだが、行商人の1人がたまたま通りかかった時に覗き込んだところ、それは大陸共通語ではなかったのだ。
もう、そうなると一般人ではないことになる。
2日目以降、彼らは遠巻きにアンナリーナたちを窺っていた。
その日も、昼休憩にちょうど良い場所を確保できず、各自昼食は馬車の中で摂っていた。その後、ようやく馬を休ませるのに適した場所を見つけ、休憩出来たのは夕刻も近づいた、所謂お茶の時間であった。
「熊さん、お茶しようか? それともコーヒーがいい?」
最近、テオドールは好んでコーヒーを飲んでいる。
紅茶はどうしても気取った感じがして苦手だったが、昼日中から酒を飲むわけにもいかず、そんな時コーヒーはちょうど良い飲み物なのだ。
「ああ、コーヒーがいいな」
豆を手に入れて、アンナリーナが焙煎を研究し、アンソニーにやり方を指導して最近は毎日飲むことが出来るようになっていた。
「うん、いつものブラックでいい?」
「ああ」
馬車から降りて、少し散策して、インベントリから椅子を出すとふたり並んで座った。
ふくいくたるコーヒーの香りがあたりに漂い、乗客の何人かがアンナリーナたちの方を見ていた。
「美味いな」
「うん、アンソニーは淹れるのもうまくなったね」
アンナリーナはミルクと砂糖をたっぷり入れてコーヒーを啜る。
「おやつを食べたいところだけど……
何か、雲行きがあやしいね」
「天気が悪くなるようには見えないが?」
「そっちじゃ、ないわよ~」
「どういう事だ?」
「今日はここから、動かないかもしれないってこと」
アンナリーナはチラリと馬車の方に視線を移した。
そこでは御者のダマスクと護衛たちが固まって、話し合っている。
テオドールが空を見上げた。
「そうだな……
俺たちはこのあたりの地理に明るくないが、下手に進むと野営地すらないのだろう。
そうなると野宿になる。それは避けたいんだろうな」
一応、馬車を停められる野営地と、街道沿いだが森に隣接した空き地に停まる野宿とは、自ずから危険度が違う。
「少し離れたところに魔獣がいるみたいだけど、あとで狩っておくよ。
夜間も薄く結界張っておこうか?」
「ああ、そうだな」
その時、ダマスクが大声で話し始めた。
「皆さん!ちょっと聞いて下さい!!
今日は少し早いがここで野営します。
そのかわり明日はいつもより3時間早く……夜明け前、あたりが明るくなったら出発します。
申し訳ないが了承して下さい!」
旅慣れた行商人は平然と頷いている。
だが、父子とあのうるさい少女は戸惑いを隠せないようだ。
マルセルたちがテントの設営をはじめ、ダマスクが馬の世話に向かう。
テオドールはその御者に手伝いを申し入れ、一緒に馬車から馬を外していた。
アンナリーナは目の前の桶に【ウォーター】で水を入れていた。
テオドールは干し草を馬車の専用の収納場所から出してきて与えている。
「すまない、お二方。
お客にこんなこと、させちまって」
「俺たちは慣れているから気を遣わなくていい」
「うんうん、そうだよ!」
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