上 下
365 / 577
第四章

125『クランハウスでの夕餉』

しおりを挟む
 エメラルダとアーネストの無事を確認してホッとしたアンナリーナは今、4人で再会の夕餉を囲んでいる。

「ちゃんと用意してなかったから、あり合わせのものになっちゃうけど~」

 クランハウスの簡易のキッチンで、ローストビーフ(ミノタウロス)の塊を切り分けたアンナリーナが2種類のソースを取り出した。
 これは以前試しに作ったソースで、少なくてもこの3人は食していない。
 ひとつは玉ねぎのすりおろしをベースにしたオニオンソースだ。
 醤油やみりん、砂糖、酒、にんにくのすりおろし、生姜のすりおろし、りんごジュースをひと煮立ちさせた甘みのあるソース。
 もうひとつは麺つゆをベースにしたわさびソースだ。
 これはピリッとわさびが効いていて、特に酒に合う。
 アンナリーナ以外は基本酒飲みなので、今日は酒のつまみになるものを出すつもりでいる。

「まずはビールで乾杯!!」

 キリッと冷えたドライなビールは、もちろん揚げ物にも合う。
 以前好評だった極楽鳥の南蛮漬けタルタルソースは案の定、エメラルダとアーネストにも好評で、屋台で買い込んだケバブをトルティーヤ風の薄焼きパンでトマト、レタスの薄切りとともに包み、オーロラソースで食べる、今日の主食は皆に絶賛された。

「ビールが進むわぁ~」

 ジョッキのビールを一気飲みし、プファ~と息を吐くエメラルダはまるで町のおっさんだ。
 その美貌がもったいなすぎる。

 野菜を食べないエメラルダのために、キッチンに立ったアンナリーナは、あり合わせの材料……人参と大根の千切りと水菜、アボガド、それにスモークサーモンをライスペーパーで巻いて生春巻きを作った。
 スィートチリソースを添える。

「これも美味しいわぁ!」

 楽しい夜は更けていく。



 クランハウスを後にしたアンナリーナは、ツリーハウスの寝室でテオドールの膝に抱かれていた。
 風呂上がりの濡れた髪を、甲斐甲斐しく拭いてやるテオドール。
 芳しい薔薇の香りを吸い込んで、こめかみに口づけると、一層強く抱き込んだ。
 毎日髭を剃るようになって、頬ずりしても嫌がられなくなり、それはふたりのコミュニケーションとなっていた。

「これからどうするつもりでいる?」

「うん、もう少しだけドピタで仕事して、北の方に……もう少し大きな町に行こうと思ってる。
 この国にも魔獣の森があるだろうし、色々見てから越境するよ」

「おまえに限って大丈夫だと思うが、あまり無理をするなよ」

 テオドールの心配には訳がある。
 アンナリーナは先ほどこちらに戻って来るときに、デラガルサかダンジョン穴の魔獣を狩りたいと言い出したのだ。

「ひょっとしたら変異種が出るかもしれない」

 珍しい素材に目のないアンナリーナは、それを傷つけない為に限られた魔法を使う。
 彼女の能力なら遠距離から極大魔法で屠る事も可能なはずなのに【血抜き】か【サファケイト】を好んで使うのだ。

「まずはデラガルサかな。
 商品を納品しがてら、行ってみようか」

 実はこの時、アンナリーナはある商品を開発中であった。
 これが完成すれば、一時しのぎにはなるだろう品は、今までの常識を覆す画期的な商品なのだが、アンナリーナにはその自覚がない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...