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第四章

121『ギルドの指名依頼』

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「指名依頼ですか?」

 あの日から2日ほど空けてギルドに赴いたアンナリーナに、受付の職員が声をかけた。

「リーナさん個人に依頼されているわけではないのです。
 実は、隣国クロンバールから特別指名依頼が発注されていて、討伐軍への物品補給を……リーナさんの場合はポーションなどの薬品類をお願いしたいのです」

「それなら納得です。
 で、どの位の数用意したらいいのでしょうか?
 薬の種類は傷薬、痛み止め、熱冷まし、そして増血剤……といったところですか」

 職員が泣き笑いのような表情を浮かべた。
 国は違ってもギルド自体は繋がっている。スタンピートに襲われている隣国を自らの国に重ねたのだろう。

「各種、総量は指定されていません。
 あちらはもう物資が尽きかけていると聞いていますので、まとまった数があるのならすぐにでも欲しいようです。
 リーナさん、いくらかお持ちではないでしょうか?」

 テオドールと目配せして、そしてギルド内の談話コーナーに身を移した。

「デラガルサに卸すつもりで作り置いていたのがあるから、それを回そうか。あちらの納期はまだ数日あるからね。ただ素材が足らないから……」

 そこにセトから念話が入った。

『主人、これから我らは魔獣の森で採取に入る。サラン草を主にあとは……』

『とりあえず、目に付いたものは片っ端から採取していって。
 みんなで手分けしてお願い』

『了解、主人も無理しないように』

 アンナリーナは薄っすらと笑んだ。
 そしてアイテムバッグから、一箱40本入りの木箱を取り出した【中級体力ポーションC】一本金貨10枚として一箱で金貨400枚。
 それを5箱……金貨2000枚だ。
 次は傷薬だ。
 これはいつもの貝殻ではなくジャムの保存用瓶に入っている。
 これ一本で貝殻の50個分だ。それを3本。
 あとは痛み止めの丸薬と熱冷ましの粉薬、そして増血剤は水薬だ。

 その頃には複数の職員がやって来て、数を確認して書類に書き込んでいく。
 この日、辺境のギルドとしては莫大な金額が動いたが、隣国に渡るときには3割増しになる。

「余計なお世話かもしれないけど……
 薬類に限っては現金と引き換えにした方がいいと思うの。
 非情だと言われるかもしれない、でも金額が大きいからね。
 相手は他国だし、何があるかわからないから」

 ギルド職員は頷いた。
 これと同じような事をギルドマスターとこの町の領主が話し合っていたのだ。

「あと、何をどの位納品したらいいですか?指定がないのならそれなりに作成していきますが」

「すみません。
 こちらでも、これからどの程度必要になるか読めないのです」

 職員の言葉は悲鳴に近かった。
 ……それはそうだろう。
 アンナリーナたちは今夜、またあの【穴】に向かって魔素を注ぎに行くつもりなのだ。
 アンナリーナのマップには、今も【穴】は魔獣を吐き出し続けていて、周辺は真っ赤に染まっている。
 その魔獣たちは濃い魔素に影響されて、いわゆるザコと言われるゴブリンや森狼でも高いレベルと体力値を持っている。ゴブリンごときと侮った冒険者がバタバタと倒れていく状況なのだ。

「わかりました。
 それと……これはお願いなのですが、私の馬車をギルド裏の駐馬車場に置かせていただきたいのですが」

「はい、馬車をお預かりする事は良くある事ですので大丈夫です。
 一応、周りに周知しておきますね」

 これで馬車を行き来させるロスをなくすことが出来る。
 さて、これから調薬祭りだ!
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