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第四章
86『最深到達報告 その2』
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しばらくして、犠牲者のギルドカードを回収して戻ってきた兵士たちと合流し、アンナリーナたちはまた先に進む事になった。
「こうして身元がわかるだけでもプラスになる。
これで調べればどんな連中と一緒に入ったかわかるし、その連中の安否だって確認出来る」
隊長は自分自身に言い聞かせるようにそう言った。
「うん、そうだね」
アンナリーナは相槌を打つしか出来なかった。
「今日は早めに、この8階層で一泊しましょう。
いくら【身体強化】してると言っても、いえ、しているからこそ身体に負担がかかっているでしょう。
特にギルド職員さん」
「マークだ。俺の名はマーク・ホフマンと言う」
彼は初めてまともに話したのではないだろうか。
「リーナです。よろしく」
実はマーク、この度の最深到達報告は眉唾物ではないかと疑っていたのだ。
だが、先ほどのあのオークに対する戦闘を見て自分の考えを改めた。
今はアンナリーナの事を、まるで正体のわからない、恐ろしいもののように感じていた。
「このあたりでいつも野営するんですよ」
そこだけぽっかりと拓けた場所があり、アンナリーナがテントを出すと周りにテーブルや椅子を出す。
「皆さんのテントもなるべく近くに張って下さいね。できればこのあたりに……」
それからアンナリーナはぐるりと線を引いた。
「大体、このあたりから結界で囲みます。だからこの外には出ないで下さいね」
「結界?」
「そう、結界がないとダンジョンの中で泊まれないでしょう?」
マークはきょとんとしている。
「ですから安全地帯?安息地?がない場合、自前で結界を張らなきゃ、いくら不寝番を立てても、もうこのレベルの魔獣相手では役に立たないでしょう?」
今、一行はアンナリーナの作った夕食に舌鼓を打っていた。
今夜の献立はグヤーシュ。
これはスープ風ではなくシチュー風で、ゴロゴロとしたミノタウロス肉が大量に入っていて、肉料理としてメインの一品だ。
アンソニーが前日からしっかりと煮込んでくれて、肉がほろほろと崩れるほど柔らかい。
付け合わせは人参やインゲンのバター炒めとマッシュポテト。
簡単なトマトとチーズのサラダはアンナリーナが作り、オリーブオイルをたっぷりとかけた。
ルッコラとレタスのグリーンサラダはバルサミコ酢のドレッシングで和えて。
「サラダ……」
「青菜」
普段の生活でも滅多にお目にかからない献立にアンナリーナたち以外は目を丸くしている。
そんななか、マークとの会話が始まったのだ。
「ダンジョン探索……それも6階層以降を攻略しようと思えば連泊は避けられません。
その場合、結界は絶対に必要なもので、展開出来る魔法職がいない場合は、魔道具を使う必要がありますよね?
あれはかなり高価なものですが一度買えばずっと使えるものですし、ギルドで販売されたらいかがでしょう?」
マークは目からウロコが落ちた瞬間だった。
「それと、これは本当に緊急避難的なものですが……階層間の階段。
あそこは今のところ魔獣が出た事はありません。
階段で夜を明かす事も有りですよね」
マークはまた目を見開いた。
「どちらにしても9階層からは魔獣も格段に強くなります。
今までどのくらいの冒険者が行方不明になっているのか知りませんが、恐らく9、10階層が多いのでしょうね」
「リーナさん、それは……」
「明日、行ってみればわかりますよ」
アンナリーナは、またニッコリと笑った。
「こうして身元がわかるだけでもプラスになる。
これで調べればどんな連中と一緒に入ったかわかるし、その連中の安否だって確認出来る」
隊長は自分自身に言い聞かせるようにそう言った。
「うん、そうだね」
アンナリーナは相槌を打つしか出来なかった。
「今日は早めに、この8階層で一泊しましょう。
いくら【身体強化】してると言っても、いえ、しているからこそ身体に負担がかかっているでしょう。
特にギルド職員さん」
「マークだ。俺の名はマーク・ホフマンと言う」
彼は初めてまともに話したのではないだろうか。
「リーナです。よろしく」
実はマーク、この度の最深到達報告は眉唾物ではないかと疑っていたのだ。
だが、先ほどのあのオークに対する戦闘を見て自分の考えを改めた。
今はアンナリーナの事を、まるで正体のわからない、恐ろしいもののように感じていた。
「このあたりでいつも野営するんですよ」
そこだけぽっかりと拓けた場所があり、アンナリーナがテントを出すと周りにテーブルや椅子を出す。
「皆さんのテントもなるべく近くに張って下さいね。できればこのあたりに……」
それからアンナリーナはぐるりと線を引いた。
「大体、このあたりから結界で囲みます。だからこの外には出ないで下さいね」
「結界?」
「そう、結界がないとダンジョンの中で泊まれないでしょう?」
マークはきょとんとしている。
「ですから安全地帯?安息地?がない場合、自前で結界を張らなきゃ、いくら不寝番を立てても、もうこのレベルの魔獣相手では役に立たないでしょう?」
今、一行はアンナリーナの作った夕食に舌鼓を打っていた。
今夜の献立はグヤーシュ。
これはスープ風ではなくシチュー風で、ゴロゴロとしたミノタウロス肉が大量に入っていて、肉料理としてメインの一品だ。
アンソニーが前日からしっかりと煮込んでくれて、肉がほろほろと崩れるほど柔らかい。
付け合わせは人参やインゲンのバター炒めとマッシュポテト。
簡単なトマトとチーズのサラダはアンナリーナが作り、オリーブオイルをたっぷりとかけた。
ルッコラとレタスのグリーンサラダはバルサミコ酢のドレッシングで和えて。
「サラダ……」
「青菜」
普段の生活でも滅多にお目にかからない献立にアンナリーナたち以外は目を丸くしている。
そんななか、マークとの会話が始まったのだ。
「ダンジョン探索……それも6階層以降を攻略しようと思えば連泊は避けられません。
その場合、結界は絶対に必要なもので、展開出来る魔法職がいない場合は、魔道具を使う必要がありますよね?
あれはかなり高価なものですが一度買えばずっと使えるものですし、ギルドで販売されたらいかがでしょう?」
マークは目からウロコが落ちた瞬間だった。
「それと、これは本当に緊急避難的なものですが……階層間の階段。
あそこは今のところ魔獣が出た事はありません。
階段で夜を明かす事も有りですよね」
マークはまた目を見開いた。
「どちらにしても9階層からは魔獣も格段に強くなります。
今までどのくらいの冒険者が行方不明になっているのか知りませんが、恐らく9、10階層が多いのでしょうね」
「リーナさん、それは……」
「明日、行ってみればわかりますよ」
アンナリーナは、またニッコリと笑った。
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