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第四章
76『アントン』
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8階層は地獄だった。
それまでの階層で疲弊していたアントンたちは、そこで複数のオークに遭遇し、交戦した。
だが、格段に強化したオークに手も足も出ず、そこでアントンは脚を失う重傷を負い、パーティーの他の者もそれなりの傷を負って撤退を余儀なくされた。
仲間の魔法職が傷口を焼き、何とか死は逃れたが、この後どうやってダンジョンを出ようかと相談している時、絶望がすぐそばにまでやって来ていた。
8階層にはオークだけでなく、数は少ないがミノタウロスもいる。
アントンたちはよりにもよって、この時にミノタウロスに遭遇してしまったのだ。
その後は……最初は動けないアントンを庇うように闘っていたが、徐々に散り散りとなり、早々に意識を失ってしまったアントンには、パーティーがどうなったのかわからないままだ。
そして目を覚ましたのは薄暗いテントの中、視線を巡らせてみればすぐ近くに手許だけに灯をつけて本を読んでいる少女がいる。
その足許に蹲っていた大型犬が、アントンに気づいて唸り声をあげた。
「ん? ああ、起きたの」
立ち上がって覗き込んできたのは、アントンでもわかるほどの高級品を身に纏った少女だ。
シンプルだが上等の絹で作られた、足首までの長さのロングワンピース。
柔らかそうな毛織物の、刺繍の散らされたガウンを肩にかけ、ベルトは繊細な細工の恐らくミスリル製で、さりげなくつけているピアスやネックレスも宝石がふんだんに使われている。
どこかの貴族の令嬢か、富豪の娘にしか見えない少女にびっくりしていると、次にかけられた言葉に困惑を通り越して愕然としてしまった。
「久しぶりね、アントン。私がわかる?」
「おまえ……リーナか?」
その瞬間、ビシリと空気が凍った。
足許にいた大型犬が牙を剥いて唸り、魔力の威圧がアントンの体を押しつける。息が出来ず、肺が潰されると思ったその時、突然威圧から解放され、アントンはむせて咳き込んだ。
「主人、何かありましたか?」
テントの入り口の布をかき分けて入ってきたのは、見事な黒光りする鱗を持ったドラゴニュートだ。
「おや、目を覚ましたのか」
まるで虫けらを見るような目で見られて、アントンは居心地が悪い。
だが今はそんなことを言っている時ではないだろう。
「おまえ……いや、あんたが助けてくれたのか?」
その言葉遣いが気に入らないセトとジルヴァラは、冷ややかな目で人間を見ていたが、その処遇はアンナリーナに任せることにしたようだ。
「そうよ」
「俺は……あれから……皆はどうなったんだ」
ブツブツと、自分自身に問いかけるようにして言葉を発するアントンは、まだ混乱しているようだ。
「私たちがあなたを拾ったのは3日前。一応、死なない程度に治療しておいたわ。
それと、私の従魔があなたを見つけた時、あなたはひとりだった。念のため、あとで8階層を捜索してみたけど、あなたのお仲間は見つからなかったわ」
「そう……か」
彼らの行方はふたつにひとつだが、アントンはそのどちらも考えたくなかった。
沈んだ表情を見せていたアントンに、アンナリーナは容赦なく話しかけていく。
「さて、これからのお話をしなければならないわね。
ちょっと、これを見て」
マットレスに横たわるアントンの身体を覆っていた毛布が剥ぎ取られると、その全身があらわになる。
「よーく、見て」
「……っ!」
アントンはここにきて初めて現実を目の当たりにした。
彼の右脚が膝下からないのは、もうわかっているはずだったのだ。
「止血をしてくれた人は腕が良かったのね。そうじゃなきゃ、あんたはとっくに死んでたわよ?」
見てみる?と訊ねられてアントンはすぐに頭を振った。
つまらなそうに、ふうんと言ったアンナリーナは、そして邪悪な笑みを浮かべる。
「もし、脚を取り戻すすべがあるとしたら……あんたはどうする?」
アントンには、目の前のアンナリーナが悪魔に見えた。
それまでの階層で疲弊していたアントンたちは、そこで複数のオークに遭遇し、交戦した。
だが、格段に強化したオークに手も足も出ず、そこでアントンは脚を失う重傷を負い、パーティーの他の者もそれなりの傷を負って撤退を余儀なくされた。
仲間の魔法職が傷口を焼き、何とか死は逃れたが、この後どうやってダンジョンを出ようかと相談している時、絶望がすぐそばにまでやって来ていた。
8階層にはオークだけでなく、数は少ないがミノタウロスもいる。
アントンたちはよりにもよって、この時にミノタウロスに遭遇してしまったのだ。
その後は……最初は動けないアントンを庇うように闘っていたが、徐々に散り散りとなり、早々に意識を失ってしまったアントンには、パーティーがどうなったのかわからないままだ。
そして目を覚ましたのは薄暗いテントの中、視線を巡らせてみればすぐ近くに手許だけに灯をつけて本を読んでいる少女がいる。
その足許に蹲っていた大型犬が、アントンに気づいて唸り声をあげた。
「ん? ああ、起きたの」
立ち上がって覗き込んできたのは、アントンでもわかるほどの高級品を身に纏った少女だ。
シンプルだが上等の絹で作られた、足首までの長さのロングワンピース。
柔らかそうな毛織物の、刺繍の散らされたガウンを肩にかけ、ベルトは繊細な細工の恐らくミスリル製で、さりげなくつけているピアスやネックレスも宝石がふんだんに使われている。
どこかの貴族の令嬢か、富豪の娘にしか見えない少女にびっくりしていると、次にかけられた言葉に困惑を通り越して愕然としてしまった。
「久しぶりね、アントン。私がわかる?」
「おまえ……リーナか?」
その瞬間、ビシリと空気が凍った。
足許にいた大型犬が牙を剥いて唸り、魔力の威圧がアントンの体を押しつける。息が出来ず、肺が潰されると思ったその時、突然威圧から解放され、アントンはむせて咳き込んだ。
「主人、何かありましたか?」
テントの入り口の布をかき分けて入ってきたのは、見事な黒光りする鱗を持ったドラゴニュートだ。
「おや、目を覚ましたのか」
まるで虫けらを見るような目で見られて、アントンは居心地が悪い。
だが今はそんなことを言っている時ではないだろう。
「おまえ……いや、あんたが助けてくれたのか?」
その言葉遣いが気に入らないセトとジルヴァラは、冷ややかな目で人間を見ていたが、その処遇はアンナリーナに任せることにしたようだ。
「そうよ」
「俺は……あれから……皆はどうなったんだ」
ブツブツと、自分自身に問いかけるようにして言葉を発するアントンは、まだ混乱しているようだ。
「私たちがあなたを拾ったのは3日前。一応、死なない程度に治療しておいたわ。
それと、私の従魔があなたを見つけた時、あなたはひとりだった。念のため、あとで8階層を捜索してみたけど、あなたのお仲間は見つからなかったわ」
「そう……か」
彼らの行方はふたつにひとつだが、アントンはそのどちらも考えたくなかった。
沈んだ表情を見せていたアントンに、アンナリーナは容赦なく話しかけていく。
「さて、これからのお話をしなければならないわね。
ちょっと、これを見て」
マットレスに横たわるアントンの身体を覆っていた毛布が剥ぎ取られると、その全身があらわになる。
「よーく、見て」
「……っ!」
アントンはここにきて初めて現実を目の当たりにした。
彼の右脚が膝下からないのは、もうわかっているはずだったのだ。
「止血をしてくれた人は腕が良かったのね。そうじゃなきゃ、あんたはとっくに死んでたわよ?」
見てみる?と訊ねられてアントンはすぐに頭を振った。
つまらなそうに、ふうんと言ったアンナリーナは、そして邪悪な笑みを浮かべる。
「もし、脚を取り戻すすべがあるとしたら……あんたはどうする?」
アントンには、目の前のアンナリーナが悪魔に見えた。
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