上 下
306 / 577
第四章

66『大公妃のサロンにて』

しおりを挟む
 アンナリーナが大公妃とのお茶を楽しんでいると、先ぶれがあって大公だけでなくエレアント公爵を始めとした一行がやってきた。
 アンナリーナは大公妃とともにカーテシーで迎える。

「ローズ=マリー、邪魔をするよ。
 リーナ殿、退屈ではなかったかね?」

「退屈なんて、そんな!
 大公妃様のお話はとっても参考になります」

「それはよかった」

 ニコニコとする大公と比べて、公爵たちは顔色が良くない。

「ユングクヴィスト様?」

 大公家の従者たちが追加の椅子を持ってきて席を作り、侯爵以下男たちが腰掛けていく。
 アンナリーナたちはお茶を楽しんでいたが、男たちには酒が供されるようだ。

「あっ、私、少し持って来てるんですよ」

「何、本当か!?」

 思わず、といった様子で中腰になるエレアント公爵。

「あの、お出ししてもよろしいですか?」

 その異国の酒の事を聞き及んでいた大公の目が期待に輝き、すぐに了承された。
 アンナリーナは袖口に隠された、腕輪の宝石に細工された小型の異空間収納から【薬師のアイテムバッグ】を取り出し、酒瓶を取り出し始めた。

「やはり、これとこれ……ですか?」

【異世界買物】でも値の張る国産高級ウイスキーと、フランス産の有名高級ブランデーがローテーブルに並び、男たちの目は釘付けだ。

「えっと、お毒味して下さいね」

 その芳醇さを聞いていたのだろう、大公はかぶりを振って自ら瓶を手に取った。
 アンナリーナは慌ててグラスを取り出し、アイスペールに氷を作り出して入れ、ピッチャーに魔力水を注ぎ入れた。

「このグラスも素晴らしい」

【異世界買物】で大量購入しておいた、やはりフランスの超有名クリスタルメーカー製のウイスキーグラスとアイスペール、ピッチャーのセットは贈答用として何組も用意している。

「では、あとでお近づきの印に差し上げますね」

「いや、これで充分だぞ」

 まさか大公に使用したものを贈るわけにはいかない。
 何とか言葉を尽くして納得してもらい、ホッとするアンナリーナ。
 ここで自分が空腹なのに気づいたアンナリーナは、おつまみになるような異世界料理を取り出した。

 ……クラッカーにクリームチーズとスモークサーモンを乗せたもの。
 玉子多めのタルタルソースを乗せたもの。さつまいもに似た甘い芋を使ったポテトサラダを乗せたもの。
 アボガドと生ハムを乗せたもの。
 それに定番のトサカ鳥のから揚げを出し皆に勧める。


 確か今宵は舞踏会に来たはずなのだが、現在隔離中であって、どうしてこうなったかとアンナリーナの目が死につつある。
 実は今現在もダンス中の国王と会わせないためもあるのだが、アンナリーナはそこまでは思い至れない。

「あの、少しお話があるのですが」

 男たちにあまり酒が回らないうちに、アンナリーナは声をかけた。

「何だい、リーナ殿」

「あの~、さっき王様とご一緒だった方は……」

「カテレイン殿だ」

 酒が不味くなる、と言わんばかりの大公の態度。

「側室様ですか?」

「いや、あのものは側室にもなれない……敢えて言えば “ 寵姫 ”だな」

 その違いがよくわからないアンナリーナに、エレアント公爵が丁寧に説明してくれた。

 この世界では明確な身分制度が敷かれていて、それは貴族間でも例外ではなく、例えば国王の正妃=第一妃となれるのは王族(他国を含む)の姫、及び公爵家の令嬢、側室は侯爵家と伯爵家の令嬢と決まっていた。
 例外で子爵家の令嬢が後宮に入ることがあるが側室になれる家柄は決まっていた。
 だが、代々の国王が女優などを愛人とする事があり、この場合は寵姫と呼ばれる。しかし寵姫は決して “ 妃 ”にはなれず、万が一子供が出来たとしても庶子とされる仕組みだ。
 そしてカテレインは平民出身。
 貴族社会としては、到底受け入れられるものではない。
「ずいぶんとお気に入り、と見えましたが」

「そうだな、現行、陛下の女人はあのものだけだ」

 若いアンナリーナが相手なので露骨な表現は避けたが、大公は忌々しそうだ。

「やっぱりそうですか……」

 黙り込んだアンナリーナはアイテムバッグを探り、ひとつの護符を取り出した。

「これには【魅了絶対対抗・解除】を仕込んであります。
 これを陛下にお渡し下さい」

「リーナ殿?」

 差し出された護符を見て大公は、訳がわからないといった表情で、アンナリーナを見つめている。

「あの寵姫の方【魅了もち】ですよ」

 その場にいたものたちの間に衝撃が走った瞬間だった。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。 35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。 彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。 ……でも世の中そううまくはいかない。 この世界、問題がとんでもなく深刻です。

農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた 少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語

これがあたしの王道ファンタジー!〜愛と勇気と装備変更〜

プリティナスコ
ファンタジー
しばらく休みます 割と普通の女子高生の時浦刹那は、深夜にDVDを返しにいった帰り道に空から降ってきた流星によって死亡、消滅する 胡散臭い天使に騙され、異世界に転生するも転生によって得たいろいろな特典をメイドに殺されかけたり、殺されたりなどで次々失う展開になり、挙げ句の果てに 唯一のこったスキル"ウエポンチェンジ"も発動条件がみたせなくって!?なかなか無双できない主人公が頑張ったり、頑張らなかったり、勝ったり、負けたり、笑ったり、泣いたり、喜んだり、悲しんだり、傷つけたり、傷ついたり、怒ったり、謝ったり、手に入れたり、手放したり、誰かの為だったり、自分のためだったり、躓いたり、転んだりしながらも。 それでも頑張ってハッピーエンドを目指す王道ファンタジーです。   男もそこそこでてきます。ご注意を 最低、1日1話更新します。かける日はいっぱい書きます 初めて書いた作品です、少しづつ成長していくので、最新話までお付き合いいただけると嬉しいです。

偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう
ファンタジー
 ・渓谷の翼竜  竜に転生した。  最強種に生まれ変わった俺は、他を蹂躙して好きなように生きていく。    ・渡り鳥と竜使い  異世界転生した僕は、凡人だった。  膨大な魔力とか、チートスキルもない──  そんなモブキャラの僕が天才少女に懐かれて、ファンタジー世界を成り上がっていく。  ・一番最初の反逆者  悪徳貴族のおっさんに転生した俺は、スキルを駆使して死を回避する。  前世の記憶を思い出した。  どうやら俺は、異世界に転生していたらしい。  だが、なんということだ。  俺が転生していたのは、デリル・グレイゴールという名の悪徳貴族だった。  しかも年齢は、四十六歳──  才能に恵まれずに、努力もせず、人望もない。    俺には転生特典の、スキルポイント以外何もない。

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

ダンジョン・ホテルへようこそ! ダンジョンマスターとリゾート経営に乗り出します!

彩世幻夜
ファンタジー
異世界のダンジョンに転移してしまった、ホテル清掃員として働く24歳、♀。 ダンジョンマスターの食事係兼ダンジョンの改革責任者として奮闘します!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...