275 / 577
第四章
35『応援要員とティラミス』
しおりを挟む
使用済みの食器をアラーニェが下げているところに、アンナリーナがココットに入ったデザートを置いていく。
「毎晩……というわけじゃないけれど、初日なのでデザートもどうぞ。
甘さ控え目なので、殿方も大丈夫だと思いますよ」
まず手をつけたのは商人である、タイニスだ。
もう彼は、何が出てきても驚かない。
それほど常識外れした今回の馬車の旅に、もちろん商機を見出してもいたが、それを表に出さないように必死で堪えていた。
「むっ、これは……」
一口食べて、唸ったタイニスは、あとは一気に平らげた。
タイニスは自身、口が肥えているとは言わないがそれなりに豪勢な食事に慣れているとは思っている。
顧客に貴族などの富裕層が多いのもあり彼らの嗜好にも理解があるはずだった。だがこのデザートは……
わずかにチーズの香りがするが、一体何なのか、表面に振られている茶色い粉の正体もわからない。
酒精が感じられるので何がしかの酒が使われているようだが見当もつかない。
「リーナ殿、この菓子は一体……」
「あ、気に入ってもらえました?
これは【ティラミス】と言って、どちらかと言うと大人向けの菓子ですね」
ちなみにこのティラミス【異世界買物】で調達したココアを使っている。
この世界には、アンナリーナの知る限りカカオ豆はない。
完全にアンナリーナオリジナルの菓子なのだ。
「甘目のお酒を使っているから口当たりが良いでしょう?
なんと言っても、アンソニーの自信作なのだ。
食後のお茶はアラーニェに任せ、アンナリーナは皆の寝床の支度を始めた。
ポンポンポンと、テントを出して中を確認し、戻ってくる。
「一張りに2人ずつ眠れるようにしてあります。
私たちは交代でこちらのテントで休みますので……体を拭うお湯が入り用なら声をかけて下さい」
そう言って、自らのテントに引っ込んでいったアンナリーナがしばらくして出てきたとき、その後ろに伴っていたものを見てサルバドールが茶を吹き出した。
“ それ ”は夜の闇に溶け込むような、漆黒のローブに身を包み、深くフードをかぶっていた。
袖口からわずかに覗くガントレットの、指を包む銀の金属だけが光を弾いている。
そしてなによりもその顔を覆う、仮面の異様さ。
見る角度によって、笑っているようにも、泣いているようにも、怒っているようにも見える中性的な白い顔だ。
「彼はネロ、そしてこの子は」
ネロの後ろからふわふわと現れたのは、このあたりでは滅多に見ないジェリーフィッシュだ。
「アマルです。
アマルは喋れませんが、言われたことはわかっているのでコミュニケーションは取れますよ」
アルバインはもう、何も言うことが出来なかった。
「馬車が2台になったので、夜の見張りの人数を増やします。
皆さんは安心して休んで下さいね」
そう言われて『はい、そうですか』と眠ることができない2人がいる。
アルバインとサルバドールは頷きあった。
「毎晩……というわけじゃないけれど、初日なのでデザートもどうぞ。
甘さ控え目なので、殿方も大丈夫だと思いますよ」
まず手をつけたのは商人である、タイニスだ。
もう彼は、何が出てきても驚かない。
それほど常識外れした今回の馬車の旅に、もちろん商機を見出してもいたが、それを表に出さないように必死で堪えていた。
「むっ、これは……」
一口食べて、唸ったタイニスは、あとは一気に平らげた。
タイニスは自身、口が肥えているとは言わないがそれなりに豪勢な食事に慣れているとは思っている。
顧客に貴族などの富裕層が多いのもあり彼らの嗜好にも理解があるはずだった。だがこのデザートは……
わずかにチーズの香りがするが、一体何なのか、表面に振られている茶色い粉の正体もわからない。
酒精が感じられるので何がしかの酒が使われているようだが見当もつかない。
「リーナ殿、この菓子は一体……」
「あ、気に入ってもらえました?
これは【ティラミス】と言って、どちらかと言うと大人向けの菓子ですね」
ちなみにこのティラミス【異世界買物】で調達したココアを使っている。
この世界には、アンナリーナの知る限りカカオ豆はない。
完全にアンナリーナオリジナルの菓子なのだ。
「甘目のお酒を使っているから口当たりが良いでしょう?
なんと言っても、アンソニーの自信作なのだ。
食後のお茶はアラーニェに任せ、アンナリーナは皆の寝床の支度を始めた。
ポンポンポンと、テントを出して中を確認し、戻ってくる。
「一張りに2人ずつ眠れるようにしてあります。
私たちは交代でこちらのテントで休みますので……体を拭うお湯が入り用なら声をかけて下さい」
そう言って、自らのテントに引っ込んでいったアンナリーナがしばらくして出てきたとき、その後ろに伴っていたものを見てサルバドールが茶を吹き出した。
“ それ ”は夜の闇に溶け込むような、漆黒のローブに身を包み、深くフードをかぶっていた。
袖口からわずかに覗くガントレットの、指を包む銀の金属だけが光を弾いている。
そしてなによりもその顔を覆う、仮面の異様さ。
見る角度によって、笑っているようにも、泣いているようにも、怒っているようにも見える中性的な白い顔だ。
「彼はネロ、そしてこの子は」
ネロの後ろからふわふわと現れたのは、このあたりでは滅多に見ないジェリーフィッシュだ。
「アマルです。
アマルは喋れませんが、言われたことはわかっているのでコミュニケーションは取れますよ」
アルバインはもう、何も言うことが出来なかった。
「馬車が2台になったので、夜の見張りの人数を増やします。
皆さんは安心して休んで下さいね」
そう言われて『はい、そうですか』と眠ることができない2人がいる。
アルバインとサルバドールは頷きあった。
3
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる