魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第四章

22『アンナリーナが甘える事ができるひと』

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「おかえりなさいませ」

 クローゼットから出てきたアンナリーナをアラーニェは、そこで待っていたかのように出迎えた。

「ただいま。何か変わりはなかった?」

 今日はもう陽が暮れてきたのでエイケナールに行くのは諦め、後日に訪問する事にしたのだが、その顔には疲れが滲んでいる。

「サバベント侯爵から面会の要請がきております。
 リーナ様が外出中でしたので返事は保留しました」

「サバベント? ああ、アレクセイくんの……
 面倒くさいね。別にわざわざ来なくてもいいのに」

 ブツブツと文句を言いながらも浴室に向かっている。
 今夜はゆっくりと入浴して、アラーニェにマッサージしてもらうつもりだ。

「では、どう返答致しましょう?」

「明日の授業の後……
 夕食に招待、というかたちで話を進めておいてくれる?」

「承知致しました。
 リーナ様が入浴なさっている間に伝えて参ります」

「うん、よろしくね」

 同じ女性だという事から、アンナリーナはさっさと下着姿になり、浴室に向かう。


 ふんだんに満たされた湯を手桶ですくい、掛かり湯をする。
 基本【洗浄】で身を清めているため、この時には身体を洗わない。
 そして、お気に入りのバスバブルを湯に落とし、泡立てた。

「あぁ~ 生き返る~」

 泡湯の中に身を沈め、その少し熱い目の湯を堪能する。
 ほのかな薔薇の香りと、なめらかな肌触りにうっとりしながら、アンナリーナは首まで湯に浸かり、手足を伸ばした。
【異世界買物】で定期的に購入している、某メーカーのバスバブル。
 シャワーのないこの世界ではいささか使い勝手に問題はあるが、大きな桶に湯を用意しておけば問題ない。

「リーナ様、お待たせいたしました」

 海綿のスポンジを持って跪いたアラーニェは、アンナリーナの首筋から清めにかかる。

「あちらはどうだった?」

「はい、快く了承して頂けました。
 侯爵とともにアレクセイ殿もいらっしゃるそうです」

 アンナリーナの口角が上がる。

「そうね。動けるなら動いた方がいいわね」

 一度断裂した筋肉を再生はしたが、それをなじませるのは本人の努力だ。

「何か、アレクセイくんへのご褒美になるメニューを考えなきゃね」

 今度は、アンナリーナはにっこりと笑った。



 深夜、人は皆眠りについている頃、アンナリーナはベッドを抜け出してクローゼットに向かった。
 そしてテントの中に入る。
 アンナリーナが姿を現したのは灯ひとつ付いていない部屋だった。

「【ライト】」

 小さな灯をともしてあたりを見回す。

「あれ? 部屋に帰ってない?」

 アンナリーナが、相手のいる所を把握するために付ける【位置特定】
 それでは、彼は今ここにいる事になっている。

「まだ、下で飲んでいるのかな?
 そりゃあ、今日やっと帰って来たんだからバカ騒ぎもするかな」

 しょうがなくソファーに座り、持ってきた毛布に包まる。
 そしてそのまま瞼が下りた。


 アンナリーナの新学期が始まるのと同時に、テオドールは久しぶりに自分のパーティで依頼を受けていた。
 わずか5日間の依頼だが、そんな近くに高位パーティの力を必要とする魔獣が出るなど異例以外の何ものでもない。
 魔獣自体はランクBだが群れる性質なのでタチが悪い。
 広範囲魔法を使うアーネストとエメラルダがいたからこそ、受けられた依頼だったが、テオドールも負けていなかった。
 アンナリーナにもらったミノタウロスの戦斧は敵を一閃し、ともに巡ったダンジョンでの戦闘は、テオドールの戦闘力を一段上に押し上げていた。

 ほろ酔い気分のテオドールが自室に戻ってくると、瞬時に気づいた薔薇の香り。

「リーナ?」


 ソファーに横たわる毛布の塊に気づいたテオドールに、もうほろ酔い気分は残っていなかった。
 足早にソファーに近づき、そっと毛布を持ち上げると、その中でアンナリーナは眠っていた。

「リーナ……」

 眠った子供独特の暖かい身体を抱きしめ、すぐにテントに向かった。
 むさ苦しい男所帯のこの部屋のベッドではなく、柔らかなアンナリーナのベッドで彼女を堪能したかったのだ。
 だが、もそもそと身体を動かしたアンナリーナが起きたことで、矛先が変わる。

「熊さん、おかえり」

 意外なほど元気のない声のアンナリーナが、そのまま抱きついてきて……動かなくなった。
 彼女がこんなふうになるのは見たことがある。

「リーナ、何があった?」

「んん、ごめん……
 少しだけ、こうしていさせて」

 前回と違って、号泣しているわけではない。
 静かに、顔を押しつけてきてテオドールの服を握りしめているだけ。
 それでもテオドールは、アンナリーナの中で何かドロドロとしたもの……悲しみとふつふつとした怒りが渦巻き、今まさに爆発せんとした状況なのが不安だった。

「リーナ、大丈夫か?」

「熊さん……ギュッて抱いて」
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