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第四章
17『イジの心遣い』
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匙でひと掬いし、ふうふうと息を吹きかけ口にする。
「美味しい……」
どちらかと言えば、粥に近いリゾットは、濃厚な生クリームでご飯を炊いて味付けは塩のみ。
仕上げに生玉子の黄身を落とし火を通してある。
それを崩して、深めのスープ皿に盛り付けてある、真にシンプルな料理なのだが、それゆえに素材自体の味が重要だ。
「この、米? 初めて食べました」
「これは消化が良くって、滋養があるの。もうこんな時間だからアマルも気を遣ってくれたんだろうけど、明日からはしっかりとお肉を用意するね。
……早く体調を戻そうね」
「リーナ様」
ササっと食べ終わったアンナリーナは、アンソニーに置いて立ち上がった。
「イジ、悪いけど付き合ってくれる?」
そしてダイニングから出て行った。
従魔ひとりひとりに与えられた部屋は大体12畳ほど。
そこには基本的にベッドが設えられ、あとは本人の希望通りにしている。
イジの部屋はシンプルにベッド、それから衣料品が納めてあるチェストと、剣や槍などが壁に掛けられ、棚には防具などが置かれている。
そして机と椅子。
そこに、イジがゴブリンだった時に使っていた小ぶりなベッドを出す。
それと共に寝具とパジャマも出す。
それらはすべてイジのお古だ。
「ごめんね。
明日、学院の授業が終わったらなるべく早く、アンソニーの部屋を用意するから」
「そのことだがご主人様、俺はしばらく同室でいた方がいいのではないかと思うのです」
「ん?」
「あの……ひとりでは心細いのではないかと思うのです。
特に夜眠る時にひとりになって、色々考えてしまうだろう時に、そばにいて力に……話し相手くらいにはなってやりたい」
アンナリーナは瞠目する。
「そう、そんな風に考えてくれてたんだ。ありがとう、イジ」
イジもアンナリーナに拾われたのだ。
そして初めてここに来たとき、セトたちに世話になった。今のアンソニーよりも重傷だったイジなのだ。
アンソニーの場合は、何も持たなかったイジよりも、家族や仕事を持って生活していたのだ。イジの場合よりもすべてを失ってしまったダメージは大きい。
あのまま、モロッタイヤ村に居続けたなら早晩その命は儚くなっただろう。
「だからご主人様もゆっくり休んで下さい。
出来れば明日は、学院以外はどこにも行かない、何もしない事。
約束して下さい」
少し怖い目で見つめられて頷くしかない。
数日ぶりにやっと自室に帰ってきたアレクセイは、イゴールの手でベッドに寝かしつけられていた。
「本当に、リーナ様にはお世話になりましたね」
不可抗力だったとはいえ、あの場に錬金薬師が居たのは僥倖だった。
この度の一件はすでにアレクセイの実家サバベント伯爵家に報され、当主である父伯爵が明日にも到着する予定だ。
「僕はクラスが違って、今までお話ししたことがなかったけど、もっと怖い人だと思ってた」
アンナリーナが聞いたら気を悪くしそうな話だが、無理もない。
入学式の直後のあの騒動は、アンナリーナに神秘性とそれに尾鰭背鰭もついて、積極的にお近づきになりたいものと、まったく接触しないように避けているものにわかれている。
もちろん本人は頓着していないのだが。
「気遣いの細やかな、お優しい方ですよ」
「それとご馳走になった……とくにあの “ はんばーぐ ”美味しかったなぁ」
「さようですね。
いつも食の細い坊っちゃまがお代わりをなさるなんて、爺はびっくり致しました」
「サンドイッチも美味しかった……」
思い出しているのだろう、アレクセイはうっとりと虚空を見つめている。
イゴールは偏食の激しいアレクセイのために、レシピの伝授を受けることを決心していた。
「美味しい……」
どちらかと言えば、粥に近いリゾットは、濃厚な生クリームでご飯を炊いて味付けは塩のみ。
仕上げに生玉子の黄身を落とし火を通してある。
それを崩して、深めのスープ皿に盛り付けてある、真にシンプルな料理なのだが、それゆえに素材自体の味が重要だ。
「この、米? 初めて食べました」
「これは消化が良くって、滋養があるの。もうこんな時間だからアマルも気を遣ってくれたんだろうけど、明日からはしっかりとお肉を用意するね。
……早く体調を戻そうね」
「リーナ様」
ササっと食べ終わったアンナリーナは、アンソニーに置いて立ち上がった。
「イジ、悪いけど付き合ってくれる?」
そしてダイニングから出て行った。
従魔ひとりひとりに与えられた部屋は大体12畳ほど。
そこには基本的にベッドが設えられ、あとは本人の希望通りにしている。
イジの部屋はシンプルにベッド、それから衣料品が納めてあるチェストと、剣や槍などが壁に掛けられ、棚には防具などが置かれている。
そして机と椅子。
そこに、イジがゴブリンだった時に使っていた小ぶりなベッドを出す。
それと共に寝具とパジャマも出す。
それらはすべてイジのお古だ。
「ごめんね。
明日、学院の授業が終わったらなるべく早く、アンソニーの部屋を用意するから」
「そのことだがご主人様、俺はしばらく同室でいた方がいいのではないかと思うのです」
「ん?」
「あの……ひとりでは心細いのではないかと思うのです。
特に夜眠る時にひとりになって、色々考えてしまうだろう時に、そばにいて力に……話し相手くらいにはなってやりたい」
アンナリーナは瞠目する。
「そう、そんな風に考えてくれてたんだ。ありがとう、イジ」
イジもアンナリーナに拾われたのだ。
そして初めてここに来たとき、セトたちに世話になった。今のアンソニーよりも重傷だったイジなのだ。
アンソニーの場合は、何も持たなかったイジよりも、家族や仕事を持って生活していたのだ。イジの場合よりもすべてを失ってしまったダメージは大きい。
あのまま、モロッタイヤ村に居続けたなら早晩その命は儚くなっただろう。
「だからご主人様もゆっくり休んで下さい。
出来れば明日は、学院以外はどこにも行かない、何もしない事。
約束して下さい」
少し怖い目で見つめられて頷くしかない。
数日ぶりにやっと自室に帰ってきたアレクセイは、イゴールの手でベッドに寝かしつけられていた。
「本当に、リーナ様にはお世話になりましたね」
不可抗力だったとはいえ、あの場に錬金薬師が居たのは僥倖だった。
この度の一件はすでにアレクセイの実家サバベント伯爵家に報され、当主である父伯爵が明日にも到着する予定だ。
「僕はクラスが違って、今までお話ししたことがなかったけど、もっと怖い人だと思ってた」
アンナリーナが聞いたら気を悪くしそうな話だが、無理もない。
入学式の直後のあの騒動は、アンナリーナに神秘性とそれに尾鰭背鰭もついて、積極的にお近づきになりたいものと、まったく接触しないように避けているものにわかれている。
もちろん本人は頓着していないのだが。
「気遣いの細やかな、お優しい方ですよ」
「それとご馳走になった……とくにあの “ はんばーぐ ”美味しかったなぁ」
「さようですね。
いつも食の細い坊っちゃまがお代わりをなさるなんて、爺はびっくり致しました」
「サンドイッチも美味しかった……」
思い出しているのだろう、アレクセイはうっとりと虚空を見つめている。
イゴールは偏食の激しいアレクセイのために、レシピの伝授を受けることを決心していた。
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