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第四章
12『アレクセイの回復と懐かしい村』
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朝方になって熱が下がってきたアレクセイは、ようやくまともな睡眠をとることが出来、そのボソボソとした会話で目覚めたのは偶然だった。
小声で話しているのはふたり。
一人は従者であり爺やのイゴール。
そしてもう一人の声は女の子の声で、その事に気づいたアレクセイは、覚醒を深くした。
「……お熱は下がったようですね。
この後、私は一旦部屋に戻ってから授業に出ますが、アレクセイくんは私がお昼に来るまでここで休ませてもらえますか?
その時、異常がなければお部屋に戻ってもらって構いません」
そう言い置いて、アンナリーナが退室していく。
「イゴール……」
「坊っちゃま、お目覚めになりましたか?」
アレクセイが目覚める前に指示されていたように、イゴールが水の入ったコップを手渡す。
上体をゆっくりと起こして一気に水を煽ったアレクセイはまた布団にもぐりこんだ。
「爺、もう少し寝させて」
「はい、はい。ゆっくりとお休み下さいませ」
アレクセイが次に目覚めたのは、学院の昼休みに近い時刻だった。
「坊っちゃま、もうすぐリーナ様がいらっしゃいますよ。
お顔を洗って支度いたしましょう」
リーナがいなければ、この日常の遣り取りも失われてしまったのかもしれないのだ。
イゴールはこのひと時を与えてくれたリーナに、心から感謝する。
「アレクセイくん、調子はどうかな?」
制服のまま、やってきたアンナリーナは【洗浄】と言いながらアレクセイに近づいた。
布団を捲り上げ、寝間着の裾をめくって両足を触診する。
「うん、いい感じに盛り上がってきてる。この様子なら痕も残らずに済みそうだよ」
かなりの範囲で抉られたふくらはぎは、筋肉まで至っていたのだがアンナリーナの上級ポーションのおかげで復元出来た。
「そうだね、もう自分の部屋に戻っていいよ。でも今日は動かさないでね。
でも診察、どうしよう?」
「男子寮には面会用の応接室がございます。そちらではいかがでしょう」
「う~ん」
アンナリーナとしては余計な波風を立てたくない。
「じゃあね、もう一晩だけここで辛抱してもらえるかな?
そのかわり夕食は抜群に美味しいものを用意するね」
アンナリーナの用意する夕食、と言う言葉にアレクセイが反応した。
悪かった顔色も、その頬に朱がさしている。
「昼食の後、この丸薬を飲んでね。
それじゃあ私は午後からの授業の準備があるので、これで」
自室に戻ったアンナリーナは、すぐにキッチンに向かい、夕食のメニューの確認をしていた。
そんななか、ヒトガタでやってきたセトに、問いかけるでもなく言う。
「明日、授業が休講になったの。
せっかくだから久しぶりなところに出かけようと思うんだけど、ついてきてくれる?」
「もちろん。でも主人、一体どこへ?」
「うふふ、懐かしいところだよ」
アンナリーナはとても楽しみにしている。そこには一年ぶりだが、森から出て来て何もわからないアンナリーナに親切にしてくれた、大切な友達がいる。
翌朝、まだ陽も明けきらぬ刻限に、アンナリーナは身支度を整えツリーハウスに向かった。
今日、供をするのは、防具を着け得物を佩いだセトとイジだ。
「今日はここから転移するね。
久しぶりだな~ミハイルさん、元気かな」
約一年ぶりに使う、村の畑に隣接した森の中に設置していた転移点に現れた3人は、警戒しながらも森から走り出た。
「?」
何がおかしいのかもわからない、かすかに感じる違和感。
「なんだろう……何か変?」
この村の住民はほとんどが農民の筈だ。
だが、もう陽が昇った時間帯だというのにひとっこひとり見当たらない。
心なしか畑も荒れているように思える。
思わず隣のセトの手を、強く握りしめた。
そして感じていた異常を臭覚で捉え、それが目に飛び込んできた時、アンナリーナは悲鳴を抑えられなかった。
小声で話しているのはふたり。
一人は従者であり爺やのイゴール。
そしてもう一人の声は女の子の声で、その事に気づいたアレクセイは、覚醒を深くした。
「……お熱は下がったようですね。
この後、私は一旦部屋に戻ってから授業に出ますが、アレクセイくんは私がお昼に来るまでここで休ませてもらえますか?
その時、異常がなければお部屋に戻ってもらって構いません」
そう言い置いて、アンナリーナが退室していく。
「イゴール……」
「坊っちゃま、お目覚めになりましたか?」
アレクセイが目覚める前に指示されていたように、イゴールが水の入ったコップを手渡す。
上体をゆっくりと起こして一気に水を煽ったアレクセイはまた布団にもぐりこんだ。
「爺、もう少し寝させて」
「はい、はい。ゆっくりとお休み下さいませ」
アレクセイが次に目覚めたのは、学院の昼休みに近い時刻だった。
「坊っちゃま、もうすぐリーナ様がいらっしゃいますよ。
お顔を洗って支度いたしましょう」
リーナがいなければ、この日常の遣り取りも失われてしまったのかもしれないのだ。
イゴールはこのひと時を与えてくれたリーナに、心から感謝する。
「アレクセイくん、調子はどうかな?」
制服のまま、やってきたアンナリーナは【洗浄】と言いながらアレクセイに近づいた。
布団を捲り上げ、寝間着の裾をめくって両足を触診する。
「うん、いい感じに盛り上がってきてる。この様子なら痕も残らずに済みそうだよ」
かなりの範囲で抉られたふくらはぎは、筋肉まで至っていたのだがアンナリーナの上級ポーションのおかげで復元出来た。
「そうだね、もう自分の部屋に戻っていいよ。でも今日は動かさないでね。
でも診察、どうしよう?」
「男子寮には面会用の応接室がございます。そちらではいかがでしょう」
「う~ん」
アンナリーナとしては余計な波風を立てたくない。
「じゃあね、もう一晩だけここで辛抱してもらえるかな?
そのかわり夕食は抜群に美味しいものを用意するね」
アンナリーナの用意する夕食、と言う言葉にアレクセイが反応した。
悪かった顔色も、その頬に朱がさしている。
「昼食の後、この丸薬を飲んでね。
それじゃあ私は午後からの授業の準備があるので、これで」
自室に戻ったアンナリーナは、すぐにキッチンに向かい、夕食のメニューの確認をしていた。
そんななか、ヒトガタでやってきたセトに、問いかけるでもなく言う。
「明日、授業が休講になったの。
せっかくだから久しぶりなところに出かけようと思うんだけど、ついてきてくれる?」
「もちろん。でも主人、一体どこへ?」
「うふふ、懐かしいところだよ」
アンナリーナはとても楽しみにしている。そこには一年ぶりだが、森から出て来て何もわからないアンナリーナに親切にしてくれた、大切な友達がいる。
翌朝、まだ陽も明けきらぬ刻限に、アンナリーナは身支度を整えツリーハウスに向かった。
今日、供をするのは、防具を着け得物を佩いだセトとイジだ。
「今日はここから転移するね。
久しぶりだな~ミハイルさん、元気かな」
約一年ぶりに使う、村の畑に隣接した森の中に設置していた転移点に現れた3人は、警戒しながらも森から走り出た。
「?」
何がおかしいのかもわからない、かすかに感じる違和感。
「なんだろう……何か変?」
この村の住民はほとんどが農民の筈だ。
だが、もう陽が昇った時間帯だというのにひとっこひとり見当たらない。
心なしか畑も荒れているように思える。
思わず隣のセトの手を、強く握りしめた。
そして感じていた異常を臭覚で捉え、それが目に飛び込んできた時、アンナリーナは悲鳴を抑えられなかった。
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