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第四章
11『医療室でのアレクセイ』
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半刻ほどで戻ってきたアンナリーナは、入浴も済ませて来たのだろう、すっかり先ほどとは違った、部屋着であろうロングワンピースを着て絹サテンの室内ばきを履いている。
そして後ろにアラーニェを伴っていた。
「お待たせしました。
それと、彼女は私の侍女のアラーニェです」
美しいカーテシーで挨拶をした麗人に、アレクセイが見惚れている。
「ふふ、アラーニェはヒトではありませんよ……何とは言わないけどね。
それよりもアレクセイくん、お昼食べ損なったでしょ?
軽食を持ってきたから一緒に食べましょう」
アンナリーナがそう言っている間にもアラーニェが、テーブルを動かしてお茶の準備を始めている。
我に返ったイゴールとふたりで場を整えている間、アンナリーナはいつものようにアイテムバッグから茶器を取り出し、紅茶を淹れ始めた。
「サンドイッチと合わせるから、軽めのお茶にするわね」
アイテムバッグから取り出される、サンドイッチの数々……
その様子を見慣れないアレクセイとイゴールは呆然としている。
「色々あって食欲ないかもしれないけど、このあとも投薬するから出来るだけ食べて?」
食欲不振など吹き飛んでしまう、目の前に並べられた軽食の数々に、背中にクッションを挟んで身を起こしたアレクセイの手が、恐る恐る伸びる。
そして無難そうな、薄切りハムと玉子のサンドイッチを一片つまんで口にした。
「美味しい……」
アンナリーナの周りの人間は、頻繁に口にするサンドイッチ……そしてマヨネーズ。
だがアレクセイは生まれて初めて食べたそれに、感動を隠しきれない。
「リーナ様、これなんですか?
すごくおいしい。
このパンもふかふかで柔らかくて、僕初めて食べました!」
アレクセイの実家だって、国境を任されるほどの大貴族だ。
決して貧しいわけではないのだが、アンナリーナが規格外すぎて、理解が追いつかない。
食パン=白パンもそうそう食卓に乗るものでなく、アレクセイは子供のように喜んで食べた。
「これはサンドイッチって言うんだよ。気に入ってくれたみたいで良かった」
つい数時間前、過酷な体験をした男の子が、怯えていてもおかしくなく、食欲も戻らない事が多いのだが、珍しい食べ物に釣られて今のところ普通に振舞っている。
アンナリーナは、第一段階を突破したと、安堵していた。
「爺やさんもよろしければどうぞ。
アラーニェも一緒にどう?」
こうして、4人がテーブルを囲むことになった。
その夜、豆のミルクスープとふわふわオムレツで夕食を摂ったあと、薬湯を飲ませて寝かしつけたアレクセイに付き添っていたアンナリーナは、手許の燭台の灯りで本を読んでいた。
ふと、気になって本から顔をあげる。
「やっぱり熱が出てきたか」
顔を赤くして、心なしか呼吸の荒くなったアレクセイの額に手を当てて様子を見る。
「ちょっと熱いかな」
氷水で冷やした手巾を額に乗せ、汗の浮いた首を拭ってやる。
「あ……リーナ様」
「ごめん、起こしちゃったね。
寝汗をかいたみたいだね……爺やさんに着替えさせてもらう?
【洗浄】でよければ私がするけど」
熱の上がりかけで身体が辛いのだろう。
アンナリーナの【洗浄】を選んだアレクセイは目を赤くして溜息していた。
「【洗浄】
私はここにいるからゆっくり休んでね。
あと、今熱が出てるのは身体の中の異物を殺そうとしているのだから、心配しないで。
明朝、目を覚ましたらすっかり良くなっているから、ね?」
こくりと頷いて、アレクセイは目を閉じた。
そして後ろにアラーニェを伴っていた。
「お待たせしました。
それと、彼女は私の侍女のアラーニェです」
美しいカーテシーで挨拶をした麗人に、アレクセイが見惚れている。
「ふふ、アラーニェはヒトではありませんよ……何とは言わないけどね。
それよりもアレクセイくん、お昼食べ損なったでしょ?
軽食を持ってきたから一緒に食べましょう」
アンナリーナがそう言っている間にもアラーニェが、テーブルを動かしてお茶の準備を始めている。
我に返ったイゴールとふたりで場を整えている間、アンナリーナはいつものようにアイテムバッグから茶器を取り出し、紅茶を淹れ始めた。
「サンドイッチと合わせるから、軽めのお茶にするわね」
アイテムバッグから取り出される、サンドイッチの数々……
その様子を見慣れないアレクセイとイゴールは呆然としている。
「色々あって食欲ないかもしれないけど、このあとも投薬するから出来るだけ食べて?」
食欲不振など吹き飛んでしまう、目の前に並べられた軽食の数々に、背中にクッションを挟んで身を起こしたアレクセイの手が、恐る恐る伸びる。
そして無難そうな、薄切りハムと玉子のサンドイッチを一片つまんで口にした。
「美味しい……」
アンナリーナの周りの人間は、頻繁に口にするサンドイッチ……そしてマヨネーズ。
だがアレクセイは生まれて初めて食べたそれに、感動を隠しきれない。
「リーナ様、これなんですか?
すごくおいしい。
このパンもふかふかで柔らかくて、僕初めて食べました!」
アレクセイの実家だって、国境を任されるほどの大貴族だ。
決して貧しいわけではないのだが、アンナリーナが規格外すぎて、理解が追いつかない。
食パン=白パンもそうそう食卓に乗るものでなく、アレクセイは子供のように喜んで食べた。
「これはサンドイッチって言うんだよ。気に入ってくれたみたいで良かった」
つい数時間前、過酷な体験をした男の子が、怯えていてもおかしくなく、食欲も戻らない事が多いのだが、珍しい食べ物に釣られて今のところ普通に振舞っている。
アンナリーナは、第一段階を突破したと、安堵していた。
「爺やさんもよろしければどうぞ。
アラーニェも一緒にどう?」
こうして、4人がテーブルを囲むことになった。
その夜、豆のミルクスープとふわふわオムレツで夕食を摂ったあと、薬湯を飲ませて寝かしつけたアレクセイに付き添っていたアンナリーナは、手許の燭台の灯りで本を読んでいた。
ふと、気になって本から顔をあげる。
「やっぱり熱が出てきたか」
顔を赤くして、心なしか呼吸の荒くなったアレクセイの額に手を当てて様子を見る。
「ちょっと熱いかな」
氷水で冷やした手巾を額に乗せ、汗の浮いた首を拭ってやる。
「あ……リーナ様」
「ごめん、起こしちゃったね。
寝汗をかいたみたいだね……爺やさんに着替えさせてもらう?
【洗浄】でよければ私がするけど」
熱の上がりかけで身体が辛いのだろう。
アンナリーナの【洗浄】を選んだアレクセイは目を赤くして溜息していた。
「【洗浄】
私はここにいるからゆっくり休んでね。
あと、今熱が出てるのは身体の中の異物を殺そうとしているのだから、心配しないで。
明朝、目を覚ましたらすっかり良くなっているから、ね?」
こくりと頷いて、アレクセイは目を閉じた。
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